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霜が降る
雪女がその死を捨てた話
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高く登り鳴る花火が、嫌に残る蒸し暑さを掻き消すように爆ぜた。
温泉街の方で夏祭りが行われるようで、さして興味も無かった俺が一日を勉学に費やす頃には日は落ちて火花が美しく見える時間帯になっていた。丁度よく夕食を済ませ、明日の為に早めに寝ようと縁側を通れば、少し大きめの洗い桶に足を浸したナカが、団扇を煽っていた。
その傍には三角に切られたスイカがあり、彼女は悪戯っ子がバレたかのようないやに子供っぽい笑顔を向ける。
話を聞けば、自身の給料で得た戦利品という訳だが。明日も早いだろうにこんな所を両親に見られては何を言われるかも分からない。なら、せめてもの話。貴方も共犯者になりませんか等とこちら側へと誘ってくる。蚊取り線香も用意したとの事で抜けは無いと彼女は自信満々だ。
俺には実に関係の無い話だが、花火というのが季節の風物詩である事は変わりなく。祭りへも顔を出さず遊びもせず優等生を維持する俺に季節を味わう唯一の機会。等と、煽る言葉に根気が負けた。仕方なく隣りに座り、儚く散る空の風物詩を一緒に眺める。
誘われるままに足を沈めれば、その冷たさに身が引き締まる思いだ。
体温が異様に低い彼女のおかげか、足元の水辺はその冷たさが変る事は無い。
「私の村では花火師が居ませんので、花火を見るには隣町に行かなきゃいけなかったんですよね。自分の住んでいる家から花火を見るなんて、出来なかったんですよ」
駅からは離れているし、隣町までは三駅離れているのだから。夏の風物詩を見るには苦労が絶えないらしい。電車の移動に苦労も何もないとは思うが、確かにあの離れた駅までの道中は苦労が絶えない筈だ。思い出しただけであの日の寒さが思い浮かべれる。
だが、夏の風物詩を間近で見られる者にも苦労はある。
「毎年見る者にとっては辛いぞ。何せ、騒音が毎年絶えないからな」
夏に風物詩と強制的に行われるものだから、うるさくて仕方がない。こちらの意識とは対照的に毎年行われるものだから、雨の日が実に心安らぐかを彼女は知らないだろう。
「これを五月蠅いと思うのは貴方だけでは?」
「季語でいくら着飾っても、五月蠅いのは変わらん」
近所迷惑だなんて、付け加えた。
思案していた話を打ち出すには、もう少し空気を読むべきだったろうか?俺はどうにも人と話す事が致命的に苦手な事は理解しているが、考える前に言葉が漏れる。
そしてそれを訂正する暇もなく、会話が続く。
「庭に池を作る提案だがな。__もう少し待てるか?」
「どうして急に?」
「お前の根気に負けた」
「天さんは優しくない筈ですが、貴方は偽物?」
「お前は俺を何だと思っている?」
その都度に楽しそうにする彼女に、俺はどんな表情を向けていただろうか?そんな事を言う割には、悪くなかった貌を浮かべていたと思う。
何せ、驚きが変わり何時もの子供らしい顔になった彼女が、その快活さを崩さずにいつもの言葉を口にしたから。
「冗談ですよ」
「俺は冗談ではないがな」
くだらない話を続けた。
連日の枯れそうな天気の話や、あの倉を快適にするにはどうすればいいとか。夏の間には問題ないだろうが、冬の寒さにはそれほど効果があるのかとか。馬鹿らしい話で時間を食い、新しい蚊取り線香を取り出す程にいろんな話をしたと思う。
花火は終わり、時刻を見れば十一時を過ぎていた。
両親は如何やら旅館の事で忙しいようで、帰りが遅くなる事を電話で知る。
弾んだ会話に、身の回りの話が含まれていく。
「人とは違う何かがあると人は離れていくようで。私は、私の冷たさを隠して生きていました。雪女の冷たさは受けが悪かったみたいですね」
「お前のその性格じゃ嫌われるだろうよ」
「結構重い話しているのに、そう言い方は駄目ですよ?」
「それも過去になったんだろ?それに、あんな極寒の中で雪女がウケるかよ」
夏の暑さを掻き消すかの様な冷たさは、きっと雪深い冬国には合わなかった。
たとえそこに愛情があろうとも、抱きしめるにも冷たすぎるだろう。
「じゃあ、南国に住んでいたらよかったですかね?」
「そんな事を言っているんじゃない。__悪い、言い方がなって無かったな」
雪女と言われる彼女の性質は、確かに人の域を超えている何かなのだろう。
そしてその性質に、彼女は苦労が絶えなかった筈だ。村社会での異質は、村八分に繋がる事がある。それを加味しなくても、雪女という言葉を嫌う彼女の様子からしてそういうものだという事が良く分かる。
「忘れろとは言わない。思い出すなとも言わない。お前にとって大事な物だろうし、お前の大切な傷を俺は理解して尊重する。その上で、お前は此処に居てくれ」
それでも彼女が得ている彼女自身の能力は、人間として評価するべき対象だ。接待や調理技術。果ては帳簿に対しても造詣が深い。手狭な村に押し留めるには惜しい人物だと俺は評価している。少し面倒くさい所はあるが。
身の回りからあらゆる雑務もこなせるを人間を、手放す理由はない。
「雪女は不老不死ですよ?」
「死なない人間はいないから安心しろ。不老は知らん」
化け物だからという理由で、手を放せる人間ではなかった。
その冷たい手を赦せるほどに身近になった。
「……なら、年を取っても一緒に死ねますね?」
人肌を凍らせるかのようなその手が触れる。
夏の暑さを掻き消すかのような火とならざるその冷たさは、冬になれは人を容易に凍らせるのかもしれない。それが何時しか不幸になったとしても、今の言葉は変わらないだろうか?
「__何時しか私は不幸にします。生憎、雪女ですから」
連れ添った隣人は言う。
その冷たさも、その減らず口も。きっと枯れる事は無い。
「隣にいてくれますか?」
不幸が隣にいる事は、どれ程の罪になるだろうか?
それは、それを放す事以上の罪になるだろうか?
不幸は無いと笑い飛ばせるほどに、俺には胆力が足りない。
それでも幸福に出来ると断言はできないし、そんな力も無い。
あの文節が、頭をよぎる。
”誰もが其処に幾度とない苦悩や坂道があったとしても、それが正しい喜劇だったと認められるような結末で終わらせてくれ”
そんな事が出来るとは思えないが。
真面目過ぎるきらいが俺にあるというのなら、困っている手を放す事は無いだろう。
真面目である俺ならは、真面目に誰かを救う事が出来るはずだ。
「任せろ」
言葉は変わらない。
変わり映えも無い。
醜く足掻いて、それでも幸福にしようとした。
これは、そんな話だ。
温泉街の方で夏祭りが行われるようで、さして興味も無かった俺が一日を勉学に費やす頃には日は落ちて火花が美しく見える時間帯になっていた。丁度よく夕食を済ませ、明日の為に早めに寝ようと縁側を通れば、少し大きめの洗い桶に足を浸したナカが、団扇を煽っていた。
その傍には三角に切られたスイカがあり、彼女は悪戯っ子がバレたかのようないやに子供っぽい笑顔を向ける。
話を聞けば、自身の給料で得た戦利品という訳だが。明日も早いだろうにこんな所を両親に見られては何を言われるかも分からない。なら、せめてもの話。貴方も共犯者になりませんか等とこちら側へと誘ってくる。蚊取り線香も用意したとの事で抜けは無いと彼女は自信満々だ。
俺には実に関係の無い話だが、花火というのが季節の風物詩である事は変わりなく。祭りへも顔を出さず遊びもせず優等生を維持する俺に季節を味わう唯一の機会。等と、煽る言葉に根気が負けた。仕方なく隣りに座り、儚く散る空の風物詩を一緒に眺める。
誘われるままに足を沈めれば、その冷たさに身が引き締まる思いだ。
体温が異様に低い彼女のおかげか、足元の水辺はその冷たさが変る事は無い。
「私の村では花火師が居ませんので、花火を見るには隣町に行かなきゃいけなかったんですよね。自分の住んでいる家から花火を見るなんて、出来なかったんですよ」
駅からは離れているし、隣町までは三駅離れているのだから。夏の風物詩を見るには苦労が絶えないらしい。電車の移動に苦労も何もないとは思うが、確かにあの離れた駅までの道中は苦労が絶えない筈だ。思い出しただけであの日の寒さが思い浮かべれる。
だが、夏の風物詩を間近で見られる者にも苦労はある。
「毎年見る者にとっては辛いぞ。何せ、騒音が毎年絶えないからな」
夏に風物詩と強制的に行われるものだから、うるさくて仕方がない。こちらの意識とは対照的に毎年行われるものだから、雨の日が実に心安らぐかを彼女は知らないだろう。
「これを五月蠅いと思うのは貴方だけでは?」
「季語でいくら着飾っても、五月蠅いのは変わらん」
近所迷惑だなんて、付け加えた。
思案していた話を打ち出すには、もう少し空気を読むべきだったろうか?俺はどうにも人と話す事が致命的に苦手な事は理解しているが、考える前に言葉が漏れる。
そしてそれを訂正する暇もなく、会話が続く。
「庭に池を作る提案だがな。__もう少し待てるか?」
「どうして急に?」
「お前の根気に負けた」
「天さんは優しくない筈ですが、貴方は偽物?」
「お前は俺を何だと思っている?」
その都度に楽しそうにする彼女に、俺はどんな表情を向けていただろうか?そんな事を言う割には、悪くなかった貌を浮かべていたと思う。
何せ、驚きが変わり何時もの子供らしい顔になった彼女が、その快活さを崩さずにいつもの言葉を口にしたから。
「冗談ですよ」
「俺は冗談ではないがな」
くだらない話を続けた。
連日の枯れそうな天気の話や、あの倉を快適にするにはどうすればいいとか。夏の間には問題ないだろうが、冬の寒さにはそれほど効果があるのかとか。馬鹿らしい話で時間を食い、新しい蚊取り線香を取り出す程にいろんな話をしたと思う。
花火は終わり、時刻を見れば十一時を過ぎていた。
両親は如何やら旅館の事で忙しいようで、帰りが遅くなる事を電話で知る。
弾んだ会話に、身の回りの話が含まれていく。
「人とは違う何かがあると人は離れていくようで。私は、私の冷たさを隠して生きていました。雪女の冷たさは受けが悪かったみたいですね」
「お前のその性格じゃ嫌われるだろうよ」
「結構重い話しているのに、そう言い方は駄目ですよ?」
「それも過去になったんだろ?それに、あんな極寒の中で雪女がウケるかよ」
夏の暑さを掻き消すかの様な冷たさは、きっと雪深い冬国には合わなかった。
たとえそこに愛情があろうとも、抱きしめるにも冷たすぎるだろう。
「じゃあ、南国に住んでいたらよかったですかね?」
「そんな事を言っているんじゃない。__悪い、言い方がなって無かったな」
雪女と言われる彼女の性質は、確かに人の域を超えている何かなのだろう。
そしてその性質に、彼女は苦労が絶えなかった筈だ。村社会での異質は、村八分に繋がる事がある。それを加味しなくても、雪女という言葉を嫌う彼女の様子からしてそういうものだという事が良く分かる。
「忘れろとは言わない。思い出すなとも言わない。お前にとって大事な物だろうし、お前の大切な傷を俺は理解して尊重する。その上で、お前は此処に居てくれ」
それでも彼女が得ている彼女自身の能力は、人間として評価するべき対象だ。接待や調理技術。果ては帳簿に対しても造詣が深い。手狭な村に押し留めるには惜しい人物だと俺は評価している。少し面倒くさい所はあるが。
身の回りからあらゆる雑務もこなせるを人間を、手放す理由はない。
「雪女は不老不死ですよ?」
「死なない人間はいないから安心しろ。不老は知らん」
化け物だからという理由で、手を放せる人間ではなかった。
その冷たい手を赦せるほどに身近になった。
「……なら、年を取っても一緒に死ねますね?」
人肌を凍らせるかのようなその手が触れる。
夏の暑さを掻き消すかのような火とならざるその冷たさは、冬になれは人を容易に凍らせるのかもしれない。それが何時しか不幸になったとしても、今の言葉は変わらないだろうか?
「__何時しか私は不幸にします。生憎、雪女ですから」
連れ添った隣人は言う。
その冷たさも、その減らず口も。きっと枯れる事は無い。
「隣にいてくれますか?」
不幸が隣にいる事は、どれ程の罪になるだろうか?
それは、それを放す事以上の罪になるだろうか?
不幸は無いと笑い飛ばせるほどに、俺には胆力が足りない。
それでも幸福に出来ると断言はできないし、そんな力も無い。
あの文節が、頭をよぎる。
”誰もが其処に幾度とない苦悩や坂道があったとしても、それが正しい喜劇だったと認められるような結末で終わらせてくれ”
そんな事が出来るとは思えないが。
真面目過ぎるきらいが俺にあるというのなら、困っている手を放す事は無いだろう。
真面目である俺ならは、真面目に誰かを救う事が出来るはずだ。
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言葉は変わらない。
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これは、そんな話だ。
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