隣の彼女

沢麻

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転校生

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 「セーフ!!」
 万夢が到着するとみんなから歓声が上がった。その中には「優吾と二人でギリギリかよー」と冷やかしのようなものも入っていて、それがまた優越感
をもたらした。
 優吾はスポーツができる奴あるあるで、人気者だった。勉強もできるし、背も高いし、格好いいのだ。幼馴染だから意識したことはなかったが、他の子から噂話を聞くとお金持ちのお坊ちゃんだという。お金持ちって何なのかよくわからないが、欲しいものをなんでも買ってもらったりというのはむしろ優吾には無縁に思える。いまだスマホを持っていないグループだし、流行りのおもちゃやゲーム所持率は人並み以下だ。服もジャージ中心。それでもカースト上位。それでも格好いいのは、優吾の人間性がものをいうところだろう。元気で、明るくて、優しい。面倒見がいい。万夢は学年が上がるにつれて、優吾の幼馴染というポジションのおいしさを噛みしめている。
 「それでは転校生を紹介する」
 担任の南川先生が言った。新学期の楽しみはこれもある。五年の冬には一組に転校生が入ったから、次の転校生は二組に入るのはわかっていた。わくわくしながら前を見て、万夢は驚いた。
 「セキグチマリサです」
 南川先生が黒板に「関口茉莉沙」と書いた。関口茉莉沙はどこから来ましたとか、よろしくお願いしますとか、そういう余計なことは何も言わなかった。万夢だけでなく、クラスの全員が驚いていたその空気が、本人にも伝わっていたのかもしれない。
関口茉莉沙の髪の毛はオレンジ色だった。もしオレンジ色じゃなかったら、怪談に出てくるお化けみたいな髪型だが、オレンジ色であるがためにまた違った奇妙さを産み出していた。
 オレンジ色って、どうやったらなるんだろう。一組には茶髪の子や、金髪に近い子もいる。ああいう髪の毛は、ブリーチをすればなれる。オレンジにするためには、ブリーチしたあとに染めるんだろうか。
 あんなに派手な髪の毛なのに挨拶は至って地味。怒っているのか、読めない表情。不良なのか。見たことのないタイプでみんなドン引きだろう。転校生が来たときの、あのワクワク感はまったくなかった。動物園で、サルの群れにチンパンジーがいるような、シロクマのところに茶色い熊が混ざっているような、そんな感じ。休み時間になっても、あの子のところにはみんな行かないんじゃないかな。万夢はそう思った。
 
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