隣の彼女

沢麻

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偽善者

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 「優吾」
 優吾は休み時間にいきなりユヅキら女子数名に取り囲まれた。男子のところで漫画の話をしようとしていたのに、こうなったらもう身動きは取れない。
 「な、なんだよ」
 「話があるんだけど」
 ユヅキが凄む。ユヅキはボスキャラ気質がある。クラスのリーダーではなく、悪の親玉的なカリスマ性だ。
 「優吾がさぁ、異星人のことが好きって噂が流れてるんだけど」
 「えっまじかよ」
 「それってほんと?」
 ユヅキが覗き込んで睨み付けてくる。更にその両脇をスマホ女子たちが固め、軽く脅迫めいた様相を示す。
 潤二郎が関口のことを、女子の機嫌を取るために思ってもいないのにディスってると言っていたことを思い出した。これは仕方ない。
 しかし関口のことが好きなのは本当だった。どうする。ユヅキの機嫌を取るために、関口を悪く言う気は毛頭ない。どうすればうまくおさまるか。優吾は計算した。
 「好きだよ。可愛いじゃん」
 優吾は動揺を悟られぬよう、さらっと、本当にナチュラルに言い放った。こんなにもあっさりと白状した優吾に女子たちは衝撃を受けたらしく、皆表情が固まって笑える。
 「あ、あ、あんた万夢が好きだったんじゃないの?」
 「好きだよ。幼なじみじゃんか」
 「それって好きな人が何人もいるってこと?」
 「俺、嫌いな友達のほうが探すの難しいわー」
 優吾はそう言うと、にっと笑って女子の間をすり抜け、「脱出しました! 僕は脱出しました!」と叫んで男子たちの笑いを誘った。ユヅキらは思った回答が得られず、煮え切らない表情をしている。
 「すげえ優吾。あいつら優吾に今のこと訊くためにものすごい綿密にラインで打ち合わせしてたのに……一瞬で蹴散らした」
 潤二郎が中でも大爆笑だった。それは時間の無駄だったな。
 女子たちは、誰が誰を好きだとか、そういう話が無駄に好きだ。わからんでもないが、関口をネタに盛り上がるのをもうやめてほしい。教室を見回したが、関口はトイレに行っているのか見当たらない。いつも休み時間は、机に突っ伏しているのだが。
 関口の家に行ったことを思い出した。優吾にとっての当たり前の家族はそこにはなかった。以前反対方向から帰ってきたのは、夕飯の買い物の関係かもしれない。自分のことを自分でしているなど、ものすごくかっこいい。小柄で可愛い関口が、もうそんなに大人だなんて。
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