隣の彼女

沢麻

文字の大きさ
17 / 47
偽善者

しおりを挟む
 あんな風に囲まれたのには心当たりがある。優吾は最近「忘れ物作戦」をよく使い、関口と偶然を装って一緒に帰っているのだ。家に遊びに行ったことも、潤二郎に言ったら一瞬でスマホ女子たちに拡散した。少しでも関口をみんなと近付けたいが、今のところうまくいかない。
 「今日は何忘れたの」
 「筆箱」
 関口も嬉しそうにするのが、忘れ物作戦をやめられない理由の一つだ。一応諦めずに公園にも誘っている。しかしもう目的は、関口と単に話したいということに変わっていた。
 「万夢とは帰らないの?」
 「掃除当番の時だけかな」
 「他には仲良い奴できないのかー?」
 「一條」
 「俺かー」
 嬉しすぎる。心を開かない奴と徐々に親しくなるのは、できなかった算数の文章題ができるようになったときみたいに、達成感がある。
 「マユメは、色々辛そうだよ。板挟みで」
 関口が言った。ユヅキたちのことだろうか。
 「群れてないと不安なんだと思う」
 「そーいやあいつ、群れてないな最近」
 「私みたいに割り切っちゃえば、楽なのに」
 共通の話題が万夢しかないから、万夢の話が多くなる。保育園から同じで家も近いため、きょうだいのいない優吾にとっては姉のような妹のような存在だ。
 優吾の家の前で関口と別れた。公園はやはり行かないらしい。優吾はボールを自転車のかごに入れると、すぐさまガオカに向かった。群れてないと不安なのは優吾も同じだ。誰もが関口のように強くはなれないのだ。しかし到着すると、レオンしかいなかった。
 「あれ? 潤二郎や一真は?」
 いつもは男女合わせれば二十人前後いる。
 「潤二郎は今日はリオんちでスマホ女子会に参加してる。一真は塾始めたって。敦樹も塾の時間増やしたとかで、他の奴らも人数少ないならいいやー、家でゲームだーって」
 「へぇー。塾組が増えてきたな。受験するのかな」
 「今からじゃ遅いよな」
 仕方がないのでレオンと二人でリフティングなどをやって遊んだ。レオンは優吾と同じく習い事や塾、少年団などをまったくやっていない。しかし今やそれは少数派だった。優吾は入学以来ずっとこうやって過ごしてきたが、その小学校時代はもうすぐ終わるのだった。
 二人で疲れて山に寝転んだ。野球少年団の友達が、練習しているのが見えた。
 「聴く?」
 レオンはずっと耳に付けていた音楽プレイヤーのイヤホンを片方外した。優吾は受け取って耳に入れた。流行りの歌が流れる。片想いの歌だ。
 感情移入して聴いていたら、目の前に万夢が現れた。
 「今日は過疎ってるね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...