隣の彼女

沢麻

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発表会

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 万夢がコウキ役をやったのは、異世界に到着して最初に仲間を二人見つける一幕だけだった。代役の一組の男子がトイレから帰還し、すぐに交代になった。南川先生には「よくやった」と誉められ、「でもあんなところで髪の毛を切るのは迷惑だ」と怒られた。クラスのみんなからも評価は様々だった。スマホグループは、よく思わなかったようだ。グループラインからなんとなく察した。万夢も切った髪の毛が首筋や背中に刺さって、かなり不快ではあった。それでも、優吾の代わりをやったというのはものすごい満足感があった。万夢しかできない。優吾を誰よりも見ている万夢にしか。
 優吾は、翌週になっても出席しなかった。どうやらインフルエンザだったらしく、これから流行が予想される。見舞いに行きたかったが、インフルエンザだから行くなと南川先生が朝の会で言っていた。
 インフルエンザの優吾の衣装を脱がせて着たわけだから、万夢も危ないかもしれない。
 そうだ。ラインしよう。優吾も、スマホがあるんだった。
 《インフルだったんだね。お疲れ様。早くよくなってね》
 返信が来なかったら落ち込むから、そのまま完結しそうな文章を作って送った。
 万夢は、なんだか色々と吹っ切れた感じがした。勉強もやる気が出たし、潤二郎からのラインもそこまで気にならなくなった。
 勉強に疲れて窓の外を見たら、髪の毛が黒い茉莉沙がちょうど通っていた。茉莉沙も万夢に気付き、手を振ってきた。
 万夢は急いで階段を降り、玄関を飛び出して茉莉沙のところへ行った。
 「今帰り?」
 「うん。ユヅキたちに捕まってた」
 「え! なんで」
 「なんか、なんで髪の毛黒いんだよ裏切り者ーとか言われて、そのあと世間話に巻き込まれた」
 「そっか」
 あの茉莉沙が、ユヅキたちとかたまって話すようになったとは。そしてそこで、きっと万夢の陰口を言っていたのではないだろうかと思い付いた。
 「私の話してたんじゃない?」
 「あたり」
 ここで正直に言ってしまうのが、茉莉沙だ。
 「マリサ、用事ないなら寄っていきなよ。私塾までまだ時間あるし、勉強もきりがいいところだったから」
 「……いや、いいや。もう帰る」
 「そう?」
 「マユメってやっぱり一條のこと大好きなんだねって、そーゆー話だったよ」
 「えっ」
 何を言うんだろう。優吾のことが好きなのはユヅキじゃないか。しかし、顔が赤くなるのがわかった。
 優吾。優吾が好きだよ。でも、みんな優吾が好きだし、優吾は茉莉沙が好きだし、だから自分は幼なじみポジションでいいと思っている。だけど、こうやってたまに特別になれたら嬉しいんだ。普段の辛さが吹き飛ぶほどに、優吾の代わりになれて本当に嬉しかった。
 茉莉沙は続けた。
 「……私、ああいう奴、ムカつくって思っていたけど、ムカつくを通り越すと、なかなか一條っていいよね。良さがわかってきたよ」
 「!」
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