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二十時
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「楽しい時間を過ごせてますかー? ではでは、席替えの時間です! またくじをひきに来てください」
一時間経ったようだ。和志は猪の顔を見た。席替えが惜しい気がした。とても楽しく過ごせた。隣の猫とシルクハットの二人はくじをひきに行ったが、カウンターにいたカボチャと悪魔のようなコスプレの二人組はそのままくじはひかずに店を出た。意気投合したようだった。自分達も出ようか、と言おうとしたが、猪が和志を気に入っているかは定かではない。リカなのかどうかも、職業の一致しか手がかりはない。和志がわざとリカとの思い出を話しても、面のせいで顔色の変化もうかがい知ることは出来なかった。
「じゃ、くじ、ひきに行こうか」
和志はあまり度胸がない。捨て身の行動は後にも先にもリカにプロポーズした時だけだ。
「うん、楽しかった! ありがとうね」
猪は多分笑顔でそう言った。猪は積極的に相手を探そうという感じではないのかもしれない。楽しく暇を潰せることができれば、と。
一応ボックスから立つとき、手をさしのべてみた。すると猪はごく自然に和志の手を掴んで、夢人を出るまでのわずかな距離を手を繋いで歩いた。リカと手を繋いだことを思い出した。デートに行ったら、いつも自然に手を繋いだ。男にベタベタしないタイプだと思っていたが、幼児が異性の友達と手を繋ぐように自然に手を繋ぐ人だった。
「今度はパフェ作りです! お相手の好みを訊いて、ここの材料でスイーツを作ってくださーい」
博貴が女子ウケしそうな企画を発表しているのを片目に、和志はくじをひいた。十番だった。
リカは甘ったるいのが嫌いだったな、と思い出す。和志が隠れ甘党なことを、よく笑っていた。
十番はアイッパのカウンターだった。「よろしくー」とそこで微笑んでいたのは部下の昆だった。仕方ない。猪は、と見回すと、うさぎの着ぐるみと一緒にボックス席の方にいた。猪とうさぎかよ、と思ったらなんだか微笑ましくて和志は少しにやついた。
「主任、私はダイエット中だけどパフェ大好きなの。美肌になれるようにフルーツをたくさん入れてきて。聞いてる? 何にやついてるんですか?」
「聞いてる聞いてる。俺は甘党ね。チョコチョコ。さっきまでのペアはどうだったの?」
昆相手なら気楽で良かった。昆はさっきの相手は物凄く太っていて「ない」と言っていた。恐らく自分達の並びの端にいるカボチャのコスプレの奴だろう。
「聞いてくださいよ。厚田の奴は抜けましたよ。雰囲気イケメンの男と」
「まじか」
「先越されたら立ち直れないわ私。私ね、ぶっちゃけ主任でもいいんですよ」
「はっ?」
パフェ作りのスペースが空いてきたのでとりあえず会話を誤魔化しながら和志はパフェを作りに行った。フルーツとヨーグルト系を組み合わせながらなかなか楽しいぞと思っていたら、猪もパフェを作りに来ていたので思わず話しかけた。
「君は甘いの、苦手そうだけど」
猪はにっこりすると、「そうだよ。だからどうやって作っていいのかわからない」と笑った。
席に戻ると昆がチョコレートとあんこを入れた物凄く茶色いパフェを用意して待っていた。
「えっあんこも入れたの?」
「甘いのが好きって言ったじゃない!」
仕方なくその茶色いパフェを食べたが、甘ったるくてどろどろしていた。昆は和志のパフェを喜んで食べている。
「ねぇ主任。さっきの話だけど私はないですか?」
「ぶほっ」
甘ったるいパフェを吐き出しそうになった。こいつ酔っているのか、あるいはいよいよ誰でもいいのか。
「え、だって、ほら、会社でやりにくいじゃない」
「社内恋愛の人達だっているでしょ。いや、ないならないでいいんですけど。はっきり言ってください。あと、もしないならどの辺りがダメなのか教えてほしい」
……昆相手なら気楽かと思いきや面倒なことになった。
「ええー……俺は社内恋愛だめなんだよね。だって昆の仕事ぶりとか見てるし、昆だってそうでしょ? 仕事でお互いに気に入らないことあったら恋愛に影響しそうだし」
「じゃあ私がないんじゃなくて、同じ職場だからないってこと?」
「いやまぁうん……あとさ、俺がバツイチなの知ってるよね?」
和志は少し猪の方を意識した。
「別れた奥さんのこと、まだ忘れられないんだよ。未練がましいでしょ? キモいでしょ? 俺ってそういう奴だよ」
聞こえてるかリカ。
「俺が束縛して、モラハラしてふられたんだよ。そんな男嫌でしょ? 今なら自分が間違っていたことわかるからうまくやり直せるんじゃないかとか、ありえない期待して生きてるんだよ俺」
リカを大事にしなかった。悪かったと思っているんだ。
「……ほんとだ。ちょっとキモいね」
昆が伏し目がちに呟いた。
一時間経ったようだ。和志は猪の顔を見た。席替えが惜しい気がした。とても楽しく過ごせた。隣の猫とシルクハットの二人はくじをひきに行ったが、カウンターにいたカボチャと悪魔のようなコスプレの二人組はそのままくじはひかずに店を出た。意気投合したようだった。自分達も出ようか、と言おうとしたが、猪が和志を気に入っているかは定かではない。リカなのかどうかも、職業の一致しか手がかりはない。和志がわざとリカとの思い出を話しても、面のせいで顔色の変化もうかがい知ることは出来なかった。
「じゃ、くじ、ひきに行こうか」
和志はあまり度胸がない。捨て身の行動は後にも先にもリカにプロポーズした時だけだ。
「うん、楽しかった! ありがとうね」
猪は多分笑顔でそう言った。猪は積極的に相手を探そうという感じではないのかもしれない。楽しく暇を潰せることができれば、と。
一応ボックスから立つとき、手をさしのべてみた。すると猪はごく自然に和志の手を掴んで、夢人を出るまでのわずかな距離を手を繋いで歩いた。リカと手を繋いだことを思い出した。デートに行ったら、いつも自然に手を繋いだ。男にベタベタしないタイプだと思っていたが、幼児が異性の友達と手を繋ぐように自然に手を繋ぐ人だった。
「今度はパフェ作りです! お相手の好みを訊いて、ここの材料でスイーツを作ってくださーい」
博貴が女子ウケしそうな企画を発表しているのを片目に、和志はくじをひいた。十番だった。
リカは甘ったるいのが嫌いだったな、と思い出す。和志が隠れ甘党なことを、よく笑っていた。
十番はアイッパのカウンターだった。「よろしくー」とそこで微笑んでいたのは部下の昆だった。仕方ない。猪は、と見回すと、うさぎの着ぐるみと一緒にボックス席の方にいた。猪とうさぎかよ、と思ったらなんだか微笑ましくて和志は少しにやついた。
「主任、私はダイエット中だけどパフェ大好きなの。美肌になれるようにフルーツをたくさん入れてきて。聞いてる? 何にやついてるんですか?」
「聞いてる聞いてる。俺は甘党ね。チョコチョコ。さっきまでのペアはどうだったの?」
昆相手なら気楽で良かった。昆はさっきの相手は物凄く太っていて「ない」と言っていた。恐らく自分達の並びの端にいるカボチャのコスプレの奴だろう。
「聞いてくださいよ。厚田の奴は抜けましたよ。雰囲気イケメンの男と」
「まじか」
「先越されたら立ち直れないわ私。私ね、ぶっちゃけ主任でもいいんですよ」
「はっ?」
パフェ作りのスペースが空いてきたのでとりあえず会話を誤魔化しながら和志はパフェを作りに行った。フルーツとヨーグルト系を組み合わせながらなかなか楽しいぞと思っていたら、猪もパフェを作りに来ていたので思わず話しかけた。
「君は甘いの、苦手そうだけど」
猪はにっこりすると、「そうだよ。だからどうやって作っていいのかわからない」と笑った。
席に戻ると昆がチョコレートとあんこを入れた物凄く茶色いパフェを用意して待っていた。
「えっあんこも入れたの?」
「甘いのが好きって言ったじゃない!」
仕方なくその茶色いパフェを食べたが、甘ったるくてどろどろしていた。昆は和志のパフェを喜んで食べている。
「ねぇ主任。さっきの話だけど私はないですか?」
「ぶほっ」
甘ったるいパフェを吐き出しそうになった。こいつ酔っているのか、あるいはいよいよ誰でもいいのか。
「え、だって、ほら、会社でやりにくいじゃない」
「社内恋愛の人達だっているでしょ。いや、ないならないでいいんですけど。はっきり言ってください。あと、もしないならどの辺りがダメなのか教えてほしい」
……昆相手なら気楽かと思いきや面倒なことになった。
「ええー……俺は社内恋愛だめなんだよね。だって昆の仕事ぶりとか見てるし、昆だってそうでしょ? 仕事でお互いに気に入らないことあったら恋愛に影響しそうだし」
「じゃあ私がないんじゃなくて、同じ職場だからないってこと?」
「いやまぁうん……あとさ、俺がバツイチなの知ってるよね?」
和志は少し猪の方を意識した。
「別れた奥さんのこと、まだ忘れられないんだよ。未練がましいでしょ? キモいでしょ? 俺ってそういう奴だよ」
聞こえてるかリカ。
「俺が束縛して、モラハラしてふられたんだよ。そんな男嫌でしょ? 今なら自分が間違っていたことわかるからうまくやり直せるんじゃないかとか、ありえない期待して生きてるんだよ俺」
リカを大事にしなかった。悪かったと思っているんだ。
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昆が伏し目がちに呟いた。
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