ハルホール

沢麻

文字の大きさ
16 / 17

俺と嘘③

しおりを挟む
 俺は最強に散らかった部屋に夕希を入れた。昨日妄想でブラックタイガーと格闘したあとだったので色々散乱している。まあ仕方無い。
 「マスク取りなよ」
 俺は従った。俺のぼろぼろになった下唇を見て、夕希は少し切ない顔をした。
 わかってるんだ。夕希が何を言いに来たのか。俺は全部わかってる。レイプの話は口実だろ。でもよかった。このまま夕希が来てくれなかったら、俺は本当に壊れてしまうところだったんた。
 「……ごめんね」
 「謝んなよ! 俺が謝らなきゃ! ごめん夕希。ほんとにごめん」
 夕希は今度は泣きそうな顔になった。俺はそれ見ても、テンションが上がりすぎて止まらない。
 「あんな辞め方して、責任感じたろ? でも夕希は全然悪くない。俺が弱かっただけ。いや、まあ今も弱いけど……あんなことしてごめん」
 もう夕希を傷付けるのは今日で終わりにしよう。俺は俺の恋に、自分で幕を引こう。
 「……ずっと夕希が好きだった」
 夕希は泣き出してしまった。いいんだ。きっぱりふってくれ。
 「でももう諦める。夕希、ずっと好きでいさせてくれてありがとう。五年間、すげえ毎日楽しかった。夕希がいたから仕事も頑張れた。これからは、夕希がいなくても頑張れるようになるよ。ありがとう」
 「違うの!」
 「?」
 「あたしは……ずっと知ってたんだよ。俊くんの気持ち。それを利用してただけなの。寂しいとき、手っ取り早くそばにいてくれる男として利用してた。あたしにとっては恋愛対象にはならないのに、俊くんにはずっと好きでいてほしいとか自己中なこと考えて、そのことで俊くんを随分傷付けた。だからあたしが今辛い思いをするのは当然なの。あたしが悪いんだもん。あたしのせいで俊くんが仕事来なくなって、引っ越した部屋で引きこもって、たまに外でてレイプするようになったって、それ全部あたしのせいだって、責任感じなきゃだめなんだよあたしは。こんな最低な女、もう嫌いになりなよ」
 「……」
 俺は二ヶ月前、夕希を犯そうとした。簡単に色んな男とやる女だ。俺が襲いかかっても問題ない、あわよくば、と思った。もういい加減俺の恋心は膨れ上がり、破裂しそうで苦しかった。夕希を抱けば、夕希に穴を開ければ、俺のものになるのかもしれない。もう辛いんだ。地道に思い続けても、伝わらないし伝えられない。俺の気持ちに気付いてくれ。他の奴みたいに、夕希を傷付けたりしない。大切にする。言葉に出せない思いを、よりによって一番傷付ける方法で伝えようとしてしまったのだ。
 そして失敗した。
 暴れ、泣き叫び、拒絶と敵意の色が浮かんだ目で俺をずっと睨んでいた。
 穴は開かなかった。
 俺は次の日から仕事に行けなくなった。夕希と俺を知る他の誰にも会いたくなかった。夕希には絶対もう二度と会えないと思った。俺は好きな人にわざわざ嫌われるようなことをして、結果嫌われたという現実を受け止めたくなかった。俺を嫌いになった可能性のある夕希には会いたくなかった。だから死んだと思うことにしたのだ。事実、俺と夕希の友情は死んでいた。俺が殺した。
 それから二ヶ月間、俺は狂ったように穴を開けることに固執した。いくら穴を開けても満足感は得られなかった。自分や親や他人を傷付け、自分の狂気に酔い、自分に嘘を吐き続けた。暗闇で一人で勝手に苦しんでいた。
 でも美代さんが死んで、もう嘘を吐くのはやめようと思ったんだ。美代さんのように、嘘を吐いたまま死んでいくには俺は若すぎる。妄想を抱いて生きるにはまだ早い。夕希も今正直な気持ちを口にしたじゃないか。
 「仕方ねーじゃん。でもさ、終わったこといつまでも気にしなくてもいいんじゃね?」
 あれ、これ自分に言ってるみたいだ。
 「馬鹿終わってないでしょ。俊くん捕まるかもしれないのに」
 「だからそれは夕希のせいじゃないって」
 「……仕事もまだしてないんでしょう?」
 「だからさ、俺のこと好きじゃないならそこは夕希が世話焼くとこじゃないって」
 「……」
 夕希が寂しそうにした。そうか、夕希は夕希で俺に依存しているのかもしれない。いつでも無償の愛を送り続けた俺が、夕希から卒業しようとすることは確かに寂しいかもしれない。
 勝手な女だな。まあそこがいいんだけど。
 「ま、これからは俺は慰めてやれないから、まともな恋愛してくれよな」
 「……」
 「河合さんとかもいるから大丈夫だろ? 河合さん、なんだかんだで夕希のこと大好きだし」
 ……きっと俺が喋ってるんじゃない。これはブラックタイガーが喋ってるんだ。客観的な俺。現実を冷静に見れる俺。そんな俺がまだ、俺の中にいる限り、俺はまだ大丈夫かもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...