ハルホール

沢麻

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俺と穴を開けること②

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 俺は仕事を辞めてから、携帯をずっとサイレントモードにしていた。着信は確認していない。使用するのは母親に送金を要求するときだけだった。そんな俺が、携帯が光っていたのでつい寝ぼけてうっかり電話に出てしまった。 ブラックタイガーの夢から逃れたかったからかもしれない。
 「俊也、生きてるか?」
 デブ専の河合さんだった。
 俺の退職の仕方は最低だったと思う。いきなり無断欠勤を続け、会社や店長からの電話には出ず、行かなくなって二週間位してから河合さんにメールで辞めますと伝えた。保険証などは母親が勝手に郵送した。離職票を取りに行くのが嫌で、失業保険の手続きもまったくしてない。恐らく会社の連中は俺を軽蔑した。真面目だと思っていたけど、結局俊也も最近の若者だな。何を考えてるかわからない。きっとそう思われた。職場の人とは連絡を取らなくなった。趣味もなく、高校にも行かなかった俺の人間関係は職場だけだったのに。でも、俺が悪い。勝手に好んで孤独になったんだ。
 「あぁ、なんとか……」
 「寝てたのか?」
 あの薬のせいだ。出来心で飲んだのが悪かった。お陰で変な夢を見たし、頭は重いし、自分が起きているのか寝ているのかよくわからない。
 「……はい。どうしたんすか」
 電話ありがとうございますくらい言えないのか、と自分に対して思ったが、しかし頭がぼーっとして上手く回転しない。
 「あのな、訊きづらいんだけど心配だから言うぞ。お前最近繁華街でナンパとかやってるのか?」
 「!」
 急に目が覚めた。というか、昨日の今日だ。何故河合さんがそんなことを知っている? 
 「いえ、何でですか」
 俺は二ヶ月間で五回ナンパに行った。引っかかったのは四人。全て一回きりで終わらせている。
 河合さんは深刻な声で続けた。
 「さっきまでな、俺飲みに行ってたんだよ。そこのお姉ちゃんが言ってた。ここ最近、変な奴がうろついてるって。何がどう変かっていうと、ケツに断りもなく挿れるって言うんだ」
 「……」
 「まだあるぞ。安全ピンを持ってて、勝手に耳に穴を開けてくるって。そのお姉ちゃんの友達が昨日被害に遭ったらしいんだ」
 「……」
 「警察に行ったって言ってた。酔ってるところを無理矢理ホテルに連れ込まれて、そんなことされたって耳たぶも見せてきたって。そしたら似たような被害届が出たことがあるっていうんだと。強姦か、傷害か、とりあえず犯罪ではあるよな」
 ちょっと待て。
 「……俺はお前くらいの変態ならいくらだっていると思う。アナルだってみんなやってるさ。ただ外見がな、お前みたいだったんだ。お前、唇の下に傷はないよな?」
 「待ってくださいよ。俺が、その、肛門レイプ野郎だと思ってる? ひでえ。いくらなんでもナンパでケツとかしないっすよ」
 「……そっか。ならいいんだ。元気でやっててくれれば。いや、結局全然話しないでお前辞めちゃったじゃんか。だから気にはなってたんだけど……」
 「……」
 「……ひょっとして夕希となんかあったのかなと思ったりしてさ」
 「!」
 俺は通話中にも関わらず携帯を思いきり壁にぶつけた。河合さんがどうした? とか言っている気がしたがその後電源を一方的に切った。
 やばい。
 安全ピンで耳に穴開けて、アナル犯して、犯人は下唇に傷? 完璧に俺じゃねぇか。河合さんは警察にわざわざ言わないだろうが……なんてことだ。もう繁華街には行けない。河合さんにも絶対会えない。俺がしていたことは強姦なのか。頭がおかしくて、変態で、極めつけに犯罪者になるのか。
 俺は慌ててシャワーを浴びた。性器を何度も洗った。何も証拠は残っていないが、俺に付着したかもしれない女の血液を完璧に抹消したかった。風呂場の鏡を見た。下唇に安ピンで穴を開けた痕が不自然に残っている。ニキビというには無理があるか。いや、明らかに傷があると言われてもおかしくない。
 くそ!
 無理矢理ホテルに連れ込まれただと? あいつらだって乗り気でついてきたんだぞ。俺が一方的に悪いならまだしも、こんなことってあるか。
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