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俺と穴を開けること⑤
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俺は夕希のことと、穴を開けるということについて考えながら、見知らぬ土地を探索した。美代さんが来なかったおかげで、俺の行動範囲が広くなった。そうだな、いつまでも部屋にこもっていては、俺の世界はあの部屋だけになる。いつまでも公園で止まっていたら、俺の世界はそこで終わり。美代さん、俺はきっと新しい世界に踏み出さなきゃいけない段階にきている。
初めて見る景色で、少し俺の気持ちは明るくなった。しかし、それはすぐにトーンダウンした。すれ違う皆が、俺の口元を見ている気がしたのだ。見ていたとしてもマスク。そりゃいかにも世間からはみ出した風貌の若者がマスクをしていたら、目を引くだろう。透視能力があるわけない。俺の下唇は見えていない。でも、見られている気分になった。
あいつだよ、あいつ。安ピンアナル野郎。通報するか? 野放しにしていたらやばいことになる。
そんな風に思われている気がした。くそ。そういえば人通りが多くなってきた。皆エコバッグとやらを提げている。ついに俺はスーパーを発見したのだ。
俺は店内に入り、従業員に古本屋の場所を尋ねた。従業員の顔が歪む。俺を無職で暇だから立ち読みに行くんだろうという目で見ている気がした。だいたい俺はスーパーが似合わない。
「古本屋……ちょっと思い付かないすね」
「まじすか」
俺は思い付くチェーン店をいくつか挙げたが、従業員はぴんと来ないようだった。
近くにあるのではないのか?
俺は義理で飲み物を購入し、スーパーを出た。手がかりを失ってしまった。でも、美代さんが言っていたスーパーは多分あそこだろう。今度美代さんの買い物に付き合ってやろうか、なんて考えるくらいの余裕が何故かできた。しかしまたすぐ下唇のことを思い出して、沈んだが。
どうしようか。今日はここで帰ろうか。公園を出発したときほど心配ではなくなっていた。明日になればまた会えるだろう。そしたら話題もできる。俺、美代さんを探しに行ったんですよ。スーパーまでは行ったけど、そっから迷っちゃった。笑い話になるな。
踵を返した時、俺の目の前にブラックタイガーがいた。なんでここに? こんなところまで、お前のテリトリー?
ブラックタイガーは黙って一点を見つめていた。俺の方ではない。目線を辿ると、古い二階建てアパートにパトカーが数台止まって、人だかりができている。
まずい!
俺は反射的に逆方向に逃げようとしたら、人にぶつかった。
「いたっ」
「あ、ごめんなさい」
見ると美代さんと同年代の女性だった。転ばせてしまった。かつての俺ならそのまま走り去ったが、それが出来ず、ばあさんに手を貸した。
「大丈夫ですか?」
「いたたたた。気をつけてよ」
「すいませんでした」
「ったく今日は散々だわ。上の階の奴は死ぬわ、いつまでも警察は居るわ、買い物で転ぶわで。まだいるのかいあいつら」
ばあさんはパトカーがあるアパートのほうを見た。警察官が出入りしているのは、二階の部屋だった。
アパートの二階。まさか。
「おうち、あそこですか? 何があったんですか?」
「だから上の階のゴミばあさんが死んでたんだよ。ゴミを溜め込むから迷惑してて、うちら住人が交代で文句言ってたんだけど、返事がないのに電気がついてておかしいから大家を呼んだら中で死んでたんだよ」
「……まさか死んだのって美代さんっておばあさんですか?」
「なんだいあんた、知り合いかい。あのクソババアの」
クソババア? いや、そんなことはどうでもいい。あの美代さんなのか? 死んだって。死んだってどういうことだ。
「ま、孫です」
俺は咄嗟に無理がある嘘を吐いた。それをきいて、ばあさんは大声で笑った。
「ハァー? そんなわけないだろ。そりゃ人違いだ。死んだ美代さんは独身の天涯孤独で、子供なんていないんだから、孫がいるわけがない。」
初めて見る景色で、少し俺の気持ちは明るくなった。しかし、それはすぐにトーンダウンした。すれ違う皆が、俺の口元を見ている気がしたのだ。見ていたとしてもマスク。そりゃいかにも世間からはみ出した風貌の若者がマスクをしていたら、目を引くだろう。透視能力があるわけない。俺の下唇は見えていない。でも、見られている気分になった。
あいつだよ、あいつ。安ピンアナル野郎。通報するか? 野放しにしていたらやばいことになる。
そんな風に思われている気がした。くそ。そういえば人通りが多くなってきた。皆エコバッグとやらを提げている。ついに俺はスーパーを発見したのだ。
俺は店内に入り、従業員に古本屋の場所を尋ねた。従業員の顔が歪む。俺を無職で暇だから立ち読みに行くんだろうという目で見ている気がした。だいたい俺はスーパーが似合わない。
「古本屋……ちょっと思い付かないすね」
「まじすか」
俺は思い付くチェーン店をいくつか挙げたが、従業員はぴんと来ないようだった。
近くにあるのではないのか?
俺は義理で飲み物を購入し、スーパーを出た。手がかりを失ってしまった。でも、美代さんが言っていたスーパーは多分あそこだろう。今度美代さんの買い物に付き合ってやろうか、なんて考えるくらいの余裕が何故かできた。しかしまたすぐ下唇のことを思い出して、沈んだが。
どうしようか。今日はここで帰ろうか。公園を出発したときほど心配ではなくなっていた。明日になればまた会えるだろう。そしたら話題もできる。俺、美代さんを探しに行ったんですよ。スーパーまでは行ったけど、そっから迷っちゃった。笑い話になるな。
踵を返した時、俺の目の前にブラックタイガーがいた。なんでここに? こんなところまで、お前のテリトリー?
ブラックタイガーは黙って一点を見つめていた。俺の方ではない。目線を辿ると、古い二階建てアパートにパトカーが数台止まって、人だかりができている。
まずい!
俺は反射的に逆方向に逃げようとしたら、人にぶつかった。
「いたっ」
「あ、ごめんなさい」
見ると美代さんと同年代の女性だった。転ばせてしまった。かつての俺ならそのまま走り去ったが、それが出来ず、ばあさんに手を貸した。
「大丈夫ですか?」
「いたたたた。気をつけてよ」
「すいませんでした」
「ったく今日は散々だわ。上の階の奴は死ぬわ、いつまでも警察は居るわ、買い物で転ぶわで。まだいるのかいあいつら」
ばあさんはパトカーがあるアパートのほうを見た。警察官が出入りしているのは、二階の部屋だった。
アパートの二階。まさか。
「おうち、あそこですか? 何があったんですか?」
「だから上の階のゴミばあさんが死んでたんだよ。ゴミを溜め込むから迷惑してて、うちら住人が交代で文句言ってたんだけど、返事がないのに電気がついてておかしいから大家を呼んだら中で死んでたんだよ」
「……まさか死んだのって美代さんっておばあさんですか?」
「なんだいあんた、知り合いかい。あのクソババアの」
クソババア? いや、そんなことはどうでもいい。あの美代さんなのか? 死んだって。死んだってどういうことだ。
「ま、孫です」
俺は咄嗟に無理がある嘘を吐いた。それをきいて、ばあさんは大声で笑った。
「ハァー? そんなわけないだろ。そりゃ人違いだ。死んだ美代さんは独身の天涯孤独で、子供なんていないんだから、孫がいるわけがない。」
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