ハルホール

俺と穴を開けること④

 「だーかーら、依存体質なんだよね。あたし」
 夕希の苛立った顔は、とても美しかった。
 四つも年下のくせに、俺は夕希の男癖の悪さを説教したことがあった。俺も他人をとやかく言える立場ではなかったが、無理矢理それらしき理屈を並べた。俺は男だからまだいいけど、夕希は女だ。心も体も傷付くのは女の方だって言うだろ。……男女差別もいいとこだ。結局は色々な男に抱かれ、俺に一向になびかない夕希が気に入らないだけだったのに。
 「依存体質？ 男に？」
 「そう。あたしって女の子とうまく付き合えないの。心がうまく開けないっていうか。幼馴染みの女より、一晩寝た男の方が安心できる。そーやって生きてきたから、安心するにはつまり男じゃないと駄目なんだよ。俊くんはさ、女がいないならいないで生きていけるでしょ？ あたしは違う。不安で不安で潰れそうになる。俊くんにあたしの気持ちなんてわかんないよ」
 わかる。俺も夕希がいないと不安で潰れそうになる。実は俺は、夕希に男の話を聞かされて嫉妬することや、夕希が男に捨てられた時いちいち次のチャンスを期待することに依存していた。五年間も、依存し続けた。
 この数日間で俺の心の拠り所は美代さんになった。美代さんと朝公園で小一時間ほど会話することが、俺の日常の中心になった。依存とは、こんなに早く形成されるものだったのか。
 「つまり夕希は、男とやってないと生きていけないってことかよ」
 「そーだよ。文句言われる筋合いじゃないからね。そういう俊くんだって似たようなもんだし。何かに穴を開けてないと生きてる気がしないんでしょ？」
 俺は美代さんに穴を開けなかった。きっとこれからも開けない。ブラックタイガーにも開けていない。夕希にも、開けなかった。俺は、生きている気がしていないかもしれない。
 
 穴を開けるって、何だ？