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岡部その後
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どうにか母子手帳をもらう前に入籍したいが、お互いに何故か忙しくなかなか賢一に会えず、結局ラインで妊娠を告げることになった。すぐ電話がかかってきたが、こちらは陣痛が二人入っていて医師は私一人だし、それも出れなかった。悪阻はどんどん辛くなり、アイコスなんて見たくもなくなった。今は煙草より結婚だ。でもそれより仕事、になっているのが現状。
結局賢一とは話せないまま、外来の少ない日に半日休みを取り、母子手帳を取りに行くことにした。母子手帳を手に入れたら、今度は院長に言わなければならない。妊娠は色々と山がある。
一応賢一に朝「母子手帳もらいにいくね」とラインした。「わかった」と返答。わかったって。何がわかったの。具体的なことは何も言わないが、会って話したいという気持ちも理解できる。ひょっとしたらうちに何度か来てくれていたのかもしれないが、私自身が帰れていない。
やめよっかな。
生まれるまで働こうと思っていた気持ちはどこへやら、私は色々とめんどくさくなってしまった。産科なんて妊婦のやる仕事じゃない。人手不足で申し訳ないけど、彼氏と会う暇もないなんておかしい。
「岡部!」
駐車場に行くと賢一がいた。あれ? 仕事は? と思った自分が笑える。会いにきてくれて嬉しいとか、そういうのより先にそんなことを思うなんて。
「まさかこんな時に、なかなか会えなかったね」
そんな言葉しか出なかった。
賢一は私の車の運転席に乗り込んだ。どうやら車で来たわけではないようで、彼の車は見当たらない。
「仕事は?」
「俺のとこは大学病院だぞ。医師はお前んとこより多い。外来は変わってもらって、俺も半日休み取った」
「大丈夫なの?」
「あとでフォローすればいい。結婚するぞ、とりあえず」
「はっ?」
「保健センターの前に、婚姻届出すぞって」
「ええ? 今?」
「お前夜勤やめろ。早く体裁整えて断れ」
「待ってまだ院長に言ってないからさ」
「なんなら俺が一緒に行ってやる」
賢一が何かの作業のように、オペの最中みたいにパキパキと次にやることを指示してきた。あぁ、これなら妊娠がはっきりした時に休みを取ってもらって、話し合えばよかった。せっかちだから、もどかしかっただろう。私は何を遠慮してたんだろう。
「禁煙したな?」
「臭くて吸えないよもう。アイコスのにおいなんて最悪だよ」
「……そうか。じゃあ一緒に住んだら、俺は蛍族だな」
賢一が笑った。私が想像していたプロポーズとは全然違った。どこかのホテルのレストランで、指輪をもらって、なんかかっこいい言葉で結婚を申し込まれる。それが賢一にはどうしても似合わないと思えて、プロポーズなんてされないと思っていたが、まさか運転中にこんなスピーディーに。指輪も買ってるとは思えない。
「なんだよ岡部、泣いてるぞ。嫌なのかよ」
嫌なわけない。何言ってるんだろうこの男。
「……煙草吸ってから、しばらくは近付かないでよ」
「わかったわかった。鼻をかめ」
こんなんでいいの? という気持ちと、死ぬほど嬉しい気持ちが混ざり合い、とりあえず私は無事結婚できそうだ。この気持ちをバネに、これからの怒濤の日々を駆け抜けていこうと誓った。
結局賢一とは話せないまま、外来の少ない日に半日休みを取り、母子手帳を取りに行くことにした。母子手帳を手に入れたら、今度は院長に言わなければならない。妊娠は色々と山がある。
一応賢一に朝「母子手帳もらいにいくね」とラインした。「わかった」と返答。わかったって。何がわかったの。具体的なことは何も言わないが、会って話したいという気持ちも理解できる。ひょっとしたらうちに何度か来てくれていたのかもしれないが、私自身が帰れていない。
やめよっかな。
生まれるまで働こうと思っていた気持ちはどこへやら、私は色々とめんどくさくなってしまった。産科なんて妊婦のやる仕事じゃない。人手不足で申し訳ないけど、彼氏と会う暇もないなんておかしい。
「岡部!」
駐車場に行くと賢一がいた。あれ? 仕事は? と思った自分が笑える。会いにきてくれて嬉しいとか、そういうのより先にそんなことを思うなんて。
「まさかこんな時に、なかなか会えなかったね」
そんな言葉しか出なかった。
賢一は私の車の運転席に乗り込んだ。どうやら車で来たわけではないようで、彼の車は見当たらない。
「仕事は?」
「俺のとこは大学病院だぞ。医師はお前んとこより多い。外来は変わってもらって、俺も半日休み取った」
「大丈夫なの?」
「あとでフォローすればいい。結婚するぞ、とりあえず」
「はっ?」
「保健センターの前に、婚姻届出すぞって」
「ええ? 今?」
「お前夜勤やめろ。早く体裁整えて断れ」
「待ってまだ院長に言ってないからさ」
「なんなら俺が一緒に行ってやる」
賢一が何かの作業のように、オペの最中みたいにパキパキと次にやることを指示してきた。あぁ、これなら妊娠がはっきりした時に休みを取ってもらって、話し合えばよかった。せっかちだから、もどかしかっただろう。私は何を遠慮してたんだろう。
「禁煙したな?」
「臭くて吸えないよもう。アイコスのにおいなんて最悪だよ」
「……そうか。じゃあ一緒に住んだら、俺は蛍族だな」
賢一が笑った。私が想像していたプロポーズとは全然違った。どこかのホテルのレストランで、指輪をもらって、なんかかっこいい言葉で結婚を申し込まれる。それが賢一にはどうしても似合わないと思えて、プロポーズなんてされないと思っていたが、まさか運転中にこんなスピーディーに。指輪も買ってるとは思えない。
「なんだよ岡部、泣いてるぞ。嫌なのかよ」
嫌なわけない。何言ってるんだろうこの男。
「……煙草吸ってから、しばらくは近付かないでよ」
「わかったわかった。鼻をかめ」
こんなんでいいの? という気持ちと、死ぬほど嬉しい気持ちが混ざり合い、とりあえず私は無事結婚できそうだ。この気持ちをバネに、これからの怒濤の日々を駆け抜けていこうと誓った。
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