VS お義母さん

沢麻

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色んな好みが違う!朝飯和or洋だけじゃない!

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 初任給は三万四千円ほどだった。これで家に足りないものを買って、住みやすくしようと道子は思った。まず何が足りないか真剣に考えたところ、食器と鍋、調理器具が圧倒的に足りない。鍋はフライパンと少し深い鍋の二つしかない。食器も茶碗が二つ、お椀が二つ、サラダボウルが二つ、仕切りのついた平たい皿が二枚、トーストサイズの皿が四枚、それに小皿が十枚ほどしかない。コップ類はコーヒーカップが二つ、湯呑みが二つ、グラスが四つ。実は道子は、和馬の茶碗を使っているのだった。パパっと平らげて、洗って、また和馬に使う。味噌汁は湯呑みに入れて飲んでいる。いかにもこの家に不要な人物になったようで虚しかった。そうだ自分の茶碗とお椀を買おう。
 手持ちが増えると出歩きたくなるのも世の常で、道子は仕事の後にショッピングモールに出向くようになった。最初はいつも悪趣味で蛍光色か黒中心の服ばかり着せられている孫の瑠璃夏に品のいい服を買ってあげた。それから予定通り自分の食器類を買う。それにしてもショッピングモールとは何でもあるもので、うろうろしている間に座布団を買ってみたり、カーディガンを買ってみたり、和馬に靴下などを買ってみたり、ついでに杏奈にも靴下を買ったり、化粧品を買ったりと止まらないではないか。なんて楽しい。
 
 「あのーお義母さん。生活費のほうは三千円なんですかねぇ」
 いつものように杏奈に買ったものを見せていたら、いきなりそんなことを言われた。確かに給料日に、それだけ渡したが……足りないということなのか。しかし自分は食器や座布団や靴下など、この家のためのものを色々買ってきたではないかと思うとそれで解決な気がして「食器や座布団や靴下を買ってあげたじゃない」と返した。すると杏奈は何やら不満げに、「私、最初働いていただくときに、物を買って欲しいとは言ってないし、生活費を入れるように言ったんですけど……」とぶつぶつ言う。
 「何よ、いらなかったっていうの?」
 「いや、そうは言ってないですけど、あの、座布団とかじゃなくて五千円にして欲しかったっていうのが本音です」
 「だって座るところがないじゃないの!」
 五千円か……。だったら最初から金額を提示すればいいのに。あと二千円払うのが惜しい。小金でぷらぷらとショッピングモールで遊ぶのが、最近の楽しみだと言うのに。
 というか杏奈がネットスーパーなどで買い物をするから生活費が高くつくのではないだろうか。
 「じゃあ来月から私が一回五千円分食材の買い物をしてくるっていうのはどう。ネットスーパーより安いし、たまには違った食材も食べたいんじゃない?」
 この家は決して魚を買わないのも道子は気になっていたのだ。杏奈は少し考えてから言った。
 「そうですね、そろそろ私もひじきにはうんざりです」
 「!」
 ……この嫁。
 しかしこれで、道子は一ヶ月に一回五千円の買い物をすることに決まった。
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