VS お義母さん

沢麻

文字の大きさ
21 / 34
色んな好みが違う!朝飯和or洋だけじゃない!

しおりを挟む
 「あっこの柄の土鍋、懐かしい」
 和馬が最近道子が買ってきた古めかしい柄の土鍋を愛しそうに眺めた。道子も「火事で駄目になっちゃったけど、うちのと同じにしたのよ」とか言ってニコニコしている。鍋もねぎとか椎茸とか豆腐とかの、いかにも老人が好きそうな具材でうんざりする。杏奈はイタリアン風のトマト鍋とか、はたまたもつ鍋とかキムチ鍋が好ましいので合わない。箸が進まない。取り分けた野菜をいくつか瑠璃夏に与えたら、もう食卓には用はなかった。粉ミルクを与えていたら、道子が「あら」と突っ込みをいれてきた。
 「おっぱいはどうしたの杏奈さん」
 「あぁ、復帰に向けて粉ミルクも慣らしておこうかなと思って」
 事情を説明していると瑠璃夏が粉ミルクを嫌がって泣き始めた。今まで完全母乳だったので哺乳瓶も粉ミルクも慣れていないのだ。
 「あらかわいそうに」
 道子がここぞとばかりに言う。
 「母乳で育てたほうが愛情深い子になるのよ。そんな慌てて復帰しなくても」
 ……。
 思うように母乳を飲まない時や離乳食を食べてくれない時は母親はそりゃあ落ち込むものだ。今杏奈は粉ミルクを嫌がる瑠璃夏を見て傷付いたところだったというのに何を言うんだ。
 それに杏奈だって、できれば一歳ぎりぎりまで育休を取りたかった。しかし第一子の場合は特に保育園に入るのが難しく、一番入りやすい四月を狙うのが安全策なのである。
 「働くのって楽しいけれど、何が赤ちゃんにはいいのかしらねー。三歳まではお母さんがそばにいるのがいいような気がするわよね。ねぇ和馬」
 「えっ、あぁうん」
 いきなり話を振られた和馬がまさかの肯定ともとれる反応。道子は「そうよねぇ。時代のせいね」とか言ってるが、杏奈は無意識に全力で和馬を睨み付けた。お前もそう思ってるのかよ。そういう押し付けが母親を壊していく。杏奈も子供を生む前はそんな風に考えることもあったが、毎日毎日三歳まで子供と二人でずーっといるなど無理である。たかだか七、八ヶ月でも毎日瑠璃夏とずーっといる暮らしにもはやうんざりしている。道子が現れてからはストレスが分散されているが、それにしてもだ。
 杏奈の怨念を感じ取ったのか、和馬はささっと鍋を食べ終えて風呂場に向かった。食器も下げねぇのかよ! と叫びたかったが、道子がなんの疑問も持たずに和馬の食器を下げているのを見てため息が出た。
 自立するかと思いきや、妙な自信はつくやら無駄な買い物癖がつくやら、計画は失敗に終わったとしか思えない。こうなったら早く復帰したい。杏奈はまだミルクがたくさん残った哺乳瓶を見て、なんとも言えない気持ちになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...