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色んな好みが違う!朝飯和or洋だけじゃない!
③
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「あっこの柄の土鍋、懐かしい」
和馬が最近道子が買ってきた古めかしい柄の土鍋を愛しそうに眺めた。道子も「火事で駄目になっちゃったけど、うちのと同じにしたのよ」とか言ってニコニコしている。鍋もねぎとか椎茸とか豆腐とかの、いかにも老人が好きそうな具材でうんざりする。杏奈はイタリアン風のトマト鍋とか、はたまたもつ鍋とかキムチ鍋が好ましいので合わない。箸が進まない。取り分けた野菜をいくつか瑠璃夏に与えたら、もう食卓には用はなかった。粉ミルクを与えていたら、道子が「あら」と突っ込みをいれてきた。
「おっぱいはどうしたの杏奈さん」
「あぁ、復帰に向けて粉ミルクも慣らしておこうかなと思って」
事情を説明していると瑠璃夏が粉ミルクを嫌がって泣き始めた。今まで完全母乳だったので哺乳瓶も粉ミルクも慣れていないのだ。
「あらかわいそうに」
道子がここぞとばかりに言う。
「母乳で育てたほうが愛情深い子になるのよ。そんな慌てて復帰しなくても」
……。
思うように母乳を飲まない時や離乳食を食べてくれない時は母親はそりゃあ落ち込むものだ。今杏奈は粉ミルクを嫌がる瑠璃夏を見て傷付いたところだったというのに何を言うんだ。
それに杏奈だって、できれば一歳ぎりぎりまで育休を取りたかった。しかし第一子の場合は特に保育園に入るのが難しく、一番入りやすい四月を狙うのが安全策なのである。
「働くのって楽しいけれど、何が赤ちゃんにはいいのかしらねー。三歳まではお母さんがそばにいるのがいいような気がするわよね。ねぇ和馬」
「えっ、あぁうん」
いきなり話を振られた和馬がまさかの肯定ともとれる反応。道子は「そうよねぇ。時代のせいね」とか言ってるが、杏奈は無意識に全力で和馬を睨み付けた。お前もそう思ってるのかよ。そういう押し付けが母親を壊していく。杏奈も子供を生む前はそんな風に考えることもあったが、毎日毎日三歳まで子供と二人でずーっといるなど無理である。たかだか七、八ヶ月でも毎日瑠璃夏とずーっといる暮らしにもはやうんざりしている。道子が現れてからはストレスが分散されているが、それにしてもだ。
杏奈の怨念を感じ取ったのか、和馬はささっと鍋を食べ終えて風呂場に向かった。食器も下げねぇのかよ! と叫びたかったが、道子がなんの疑問も持たずに和馬の食器を下げているのを見てため息が出た。
自立するかと思いきや、妙な自信はつくやら無駄な買い物癖がつくやら、計画は失敗に終わったとしか思えない。こうなったら早く復帰したい。杏奈はまだミルクがたくさん残った哺乳瓶を見て、なんとも言えない気持ちになった。
和馬が最近道子が買ってきた古めかしい柄の土鍋を愛しそうに眺めた。道子も「火事で駄目になっちゃったけど、うちのと同じにしたのよ」とか言ってニコニコしている。鍋もねぎとか椎茸とか豆腐とかの、いかにも老人が好きそうな具材でうんざりする。杏奈はイタリアン風のトマト鍋とか、はたまたもつ鍋とかキムチ鍋が好ましいので合わない。箸が進まない。取り分けた野菜をいくつか瑠璃夏に与えたら、もう食卓には用はなかった。粉ミルクを与えていたら、道子が「あら」と突っ込みをいれてきた。
「おっぱいはどうしたの杏奈さん」
「あぁ、復帰に向けて粉ミルクも慣らしておこうかなと思って」
事情を説明していると瑠璃夏が粉ミルクを嫌がって泣き始めた。今まで完全母乳だったので哺乳瓶も粉ミルクも慣れていないのだ。
「あらかわいそうに」
道子がここぞとばかりに言う。
「母乳で育てたほうが愛情深い子になるのよ。そんな慌てて復帰しなくても」
……。
思うように母乳を飲まない時や離乳食を食べてくれない時は母親はそりゃあ落ち込むものだ。今杏奈は粉ミルクを嫌がる瑠璃夏を見て傷付いたところだったというのに何を言うんだ。
それに杏奈だって、できれば一歳ぎりぎりまで育休を取りたかった。しかし第一子の場合は特に保育園に入るのが難しく、一番入りやすい四月を狙うのが安全策なのである。
「働くのって楽しいけれど、何が赤ちゃんにはいいのかしらねー。三歳まではお母さんがそばにいるのがいいような気がするわよね。ねぇ和馬」
「えっ、あぁうん」
いきなり話を振られた和馬がまさかの肯定ともとれる反応。道子は「そうよねぇ。時代のせいね」とか言ってるが、杏奈は無意識に全力で和馬を睨み付けた。お前もそう思ってるのかよ。そういう押し付けが母親を壊していく。杏奈も子供を生む前はそんな風に考えることもあったが、毎日毎日三歳まで子供と二人でずーっといるなど無理である。たかだか七、八ヶ月でも毎日瑠璃夏とずーっといる暮らしにもはやうんざりしている。道子が現れてからはストレスが分散されているが、それにしてもだ。
杏奈の怨念を感じ取ったのか、和馬はささっと鍋を食べ終えて風呂場に向かった。食器も下げねぇのかよ! と叫びたかったが、道子がなんの疑問も持たずに和馬の食器を下げているのを見てため息が出た。
自立するかと思いきや、妙な自信はつくやら無駄な買い物癖がつくやら、計画は失敗に終わったとしか思えない。こうなったら早く復帰したい。杏奈はまだミルクがたくさん残った哺乳瓶を見て、なんとも言えない気持ちになった。
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