11 / 61
南の大陸編
10話 シュラセーナ王城
しおりを挟むアピとリリンを両手に抱きかかえ、おれはフジャンデラス家の門をくぐった。
ロンガ内の建物は全て洞窟の岩肌を掘削して作られている。
住居はもちろん、商店街に立ち並ぶお店などは其々なかなかに凝った彫刻が施されている。中でもフジャンデラス家の屋敷はちょとしたお城のような立派な佇まいだ。
おれが屋敷の前で二人を下ろすと、リリンがアピの手を引き中へと入っていった。
「ねさまがただいま帰りましたよー!」
「おおっアピ! よくぞ帰ってきた!」
「まぁまぁアピちゃん! 綺麗になってぇ!」
西ロンガの領主、フジャンデラス夫妻がアピの到着を今か今かと待ち構えていた。両親二人から熱烈な歓迎を受けるアピ。恥ずかしそうにしているが顔は緩んでいた。
「ちょっと父様! 母様! 痛いから! いい加減放して! ドゥーカ兄も笑ってないでなんとかしてよ」
感動の親子の再会を誰が邪魔できようか。おれは暫く四人の熱い抱擁を黙って見ていた。
ようやく満足したのか、フジャンデラス夫妻が居住まいを正しこちらに向直った。
「ぅおっほん! これはこれはドゥーカ殿、娘が世話になってるね」
「ラハール殿、ドゥパ様、ご無沙汰しております」
「あらまぁ、ドゥーカ様も立派になられてぇ」
おれは二人に対し軽く頭を下げ礼を執る。ラハール領主はセナンが一緒にいない事をなにも言ってこない。おそらくある程度、おれ達の事は伝わっているのだろう。
「積もる話しは食事をしながらにしよう。可愛い娘の冒険譚をたっぷり聞かせてくれ」
そして夕食はたいへん賑やかなものとなった。アピの話しをリリンが「きゃっ」とか「わぁ」と食事そっちのけで聞いていた。フジャンデラス夫妻も熱心に聞き入り仕舞いには二人とも涙を流していた。本当にアピはいい家族を持ったもんだ。
楽しい夕食をご馳走になった後、おれはラハール領主に執務室へと呼ばれた。
「セナンの一件は大変だったな」
開口一番、彼はそう言った。そしてこの時初めておれはマイジャナ王国での惨劇の話を聞いた。
「そんな事が……リリアイラは知っていたのか?」
「まあな。だがやったのはヴァダイだ。セナンじゃねぇ」
「……セナンはどうなったんだ?」
おれがリリアイラに向けた問い掛けに領主が答えた。もちろん彼はリリアイラがおれの隣にいる事は知っている。
「彼女は幽閉されることが決まったそうだ。なんでもガヌシャバ討伐の際、精神攻撃された後遺症で今回の事件を起こした、と判断されたようだ。一応は国を救った英雄だ。処刑される事はないだろう」
おれは言葉を失い、只々空を見つめていた。少し間を置いて再び領主が話し始める。
「それと、君とアピは討伐の際に転移魔法で消えてしまった事になってるんだが……理由を聞かせてもらえるかな?」
おれは包み隠さずこれまでの事を全てを話した。領主は葉巻に魔法で火を点け暫し考え込んだ。煙を口から鼻へと巡らせるとふーっと息を吐いた。
「それは辛い事だったな。だが君と彼女の問題だ。私から言う事は何もない。君とアピの捜索依頼も我が国にはきていないし問題ないだろう。それで――これからどうするんだドゥーカ殿?」
「南の大陸のダンジョンを攻略するつもりです。女王との契約もあるので」
彼は二度三度ゆっくりと頷いた。葉巻を灰皿へと押し付け、顎に手を当ておれをじっと見据えた。
「アピと二人で邪神を倒すつもりか? 明らかに戦力が足りんぞ」
まさに彼の言う通りだ。セナンを失い、実質パーティは解散状態。
例え地の底に転移魔法で飛んだとしても、ここの邪神はおれとは相性が悪すぎる。
「ラハールに伝えろ。この大陸に精霊の護りを宿してる者がもう一人いる」
突然リリアイラが発した言葉に、おれはハッとして横を見た。リリアイラはおれの隣で腕組みしながら顎でくいくいとラハール領主を差していた。
「この大陸にもう一人、精霊の護りを宿している者がいるそうです」
「なんとっ!? そんな報告聞いた事もないぞ!」
ガチャンとテーブルを鳴らし領主が勢いよく立ち上がった。その様子をニヤニヤと見つめながらリリアイラが言った。
「当然だ。そいつは辺境の地にいるからな。あいつらはいろいろ隠すのが上手い」
おれがその事を伝えると彼はドスンと椅子に座り水を一口飲んだ。そして呟くように言葉を発した。
「バンジールの民か……」
バンジールの民とはこの大陸に古くからいる先住民の事だ。大陸の最南端にある大湿地帯に住んでおり独自の生活を送っている。シュラセーナ王国による統治を未だに拒んでおり、これまで何度も王国とは小競り合いを繰り返している。
「その者をパーティに加えるのか?」
「ああ。明日、女王に伝える」
領主の問いにリリアイラが答える。おれはそれを繰り返した。
「明日、女王にこの事は伝えます」
「だがやつらは邪神を信仰しているぞ?」
「平気だろ。問題ねぇよ」
あっさり返すリリアイラに少し呆れて溜息を吐く。
「問題ないと、リリアイラは言ってます」
それを聞いて今度は領主が大きな溜息を吐いた。
翌日、おれとアピはラハール領主に連れられ王城へと向かった。
地上ではトケッタという大型のイモリに馬車のような舟を引かせ移動する。
この舟はカパルと呼ばれ、フジャンデラス家のカパルはそれはそれは豪華な造りで乗り心地も悪くない。五頭のトケッタにカパルを引かせ一路王城を目指す。
「いやー風が気持ちいいな」
おれは窓を開け顔を外に出していた。ちょうど小雨程度の雨しか降っておらず細かい雨粒が顔に当たって気持ちがいい。カパルを引くトケッタ達は、緑の絨毯の上を滑るように走っていた。
遠くまで広がる緑豊かな湿地帯を見ているとなぜか心が安らぐ。僅かばかりに差す太陽の光が薄っすらと虹を作っていた。
「ちょっとドゥーカ兄! 服が濡れちゃう! 窓閉めて!」
「ええーもうちょっといいだろ?」
「ったく。子供じゃないんだからちゃんと座っててよ」
ぷりぷりと怒るアピを余所に、おれは暫くの間この美しい景色を堪能した。
アピはぶつぶつ文句を言いながら魔法で服を乾かしていた。
湿地帯を抜けると大きな河が目の前に現れる。大陸を二分するかのように南北に伸びる大河ウラー。その河で生まれた二つの巨大な滝が複雑な台地を創り出し、その台地の上にシュラセーナ王城はそびえ立っている。城を囲むように流れる膨大な水はまるで人の侵入を拒んでいるかのようだ。
「相変わらず凄いとこに建ってるな、この城」
王城の門へと到着し城を遠くに見上げながらおれは呟いた。門とはいえ王城まではまだかなりの距離がある。
門のすぐ先は切り立った崖になっており、真下を見れば激流の河が渦を巻いている。
この門から城の入り口まで渡るには、王国専用のゴンドラに乗って行かなければならない決まりだ。
「だーかーらー、ドゥーカ兄の魔法使えばちゃちゃっと行けるのよ」
人は待たせても、自分が待つのは嫌いなアピが不満を洩らす。リリアイラがいつものようにそれに反論する。
「何度も言ってるだろ? ドゥーカじゃないやつが転移魔法で飛ぶと命を削っちまう。緊急時以外はダメだ」
「えー! この前使った時どうもなかったよー」
「あのなぁ、具合が悪くなるとかじゃねえんだよ。そもそもこの前も船に間に合わないんだったら使わなきゃよかったんだ。おいラダカン! こいつ宿主としての自覚が足りてねぇぞ!」
言い争う二人を見て、またラダカンはおろおろしているのだろう。
「じゃあ私だけ先に飛んで行こうかなー」
アピの言葉に今度はラハール領主が慌てだした。
「アピや、何度も教えただろう? それは不敬罪になるからダメだって。これでも父様は領主なんだから……」
アピはぷくーっと頬を膨らませていた。そんなやりとりをしていると橋架番と呼ばれる王城の専従魔術師が恭しくやって来た。水魔術師である彼らが門から城までを繋ぐ水の橋を作る。
「水蛇の道」
二人の橋架番が同時に呪文を唱える。
雨が降り頻る中、水の道が水飛沫を上げながら城の方まで伸びていく。
専用の屋根付きゴンドラへと乗り込むと、まるで空を飛んでいるかのように宙に浮かぶ道を進んで行く。そしてあっという間に城の入り口へと辿り着いた。
ゴンドラを降り、城の中へと入るとそのまま女王の間へと通された。
部屋の中央には青い水晶で作られた玉座が置かれ、そこにはすでに女王が座って待っていた。
シュラセーナ王国第十二代女王、ジェリミス・パーダマイアン。
その美しさは水の女神と謳われ、宝石のような空色の瞳に艶やかな青い髪。ミルクのような白い肌が、彼女の豊満な胸の谷間をより一層魅惑的に見せている。
女王はおれに目を向けるとゆっくりと微笑んだ。
そして玉座から勢いよく立ち上がったと思った瞬間、彼女は走っておれに飛びついてきた。
「ドゥーカ! ようやく私と結婚する気になったのだな!」
やれやれと、リリアイラが呟く声がおれの耳元で聞こえてきた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第10話を読んで頂きありがとうございます。
風景描写が下手で……
シュラセーナ王城が建ってる場所はイグアスの滝の空撮画像をご覧になって頂ければと……あんなイメージです。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」
夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。
この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。
そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……
王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる