12 / 61
南の大陸編
11話 新女王ジェリミス
しおりを挟む――三年前、南のダンジョン
その日おれとセナンはアピの実力を測るため南のダンジョン十階層に来ていた。
「紅炎の薔薇!」
アピが魔法を放つ、するといくつもの薔薇のような形をした紅の炎が魔物へと巻きついていく。まるで木々に絡みつく蔓がごとく、炎の棘が食い込んでいく。
十数体の魔物をいっぺんに拘束すると、あっという間に燃やし尽くした。
「これは噂以上の強さだな……」
おれは思わず独り言ちた。南のダンジョンはとにかく水が多い。
足元はもちろん、壁や天井から水が滴っている。
しかも魔物は水属性が多く火魔術師にとっては相性が悪い。ある程度は手こずるだろうと思っていたのだが、そんなものはどこ吹く風、次から次へと魔物を焼き尽くしていた。
「どーお? 私強いでしょ?」
「ああ、もう十分だ。それにしてもなんでアピは全然濡れてないんだ?」
「火魔法で常に乾かしてるの。だって濡れるの嫌なんだもーん」
アピの言葉に苦笑いを返していると、リリアイラが毒づくように言い放った。
「けっ! 魔法はすげえが、いけ好かねぇガキだ」
「えっ!? 今の声、誰?」
おれしか聞こえないはずのリリアイラの声にアピが反応した。
「なっ!? おれの声が聞こえるのか?」
「あーもしかしてこれがリリアイラって精霊? 口悪ーい」
アピの言葉におれとセナンは目を見合わせた。そしてセナンが首を傾げながら隣を見て話していた。たぶんヴァダイと何か喋っているのだろう。彼女がアピに訊いた。
「もしかしてアピは他の守護精霊が見れるの?」
「姿は見えないよ。でも声は聞こえる。たぶんリリアイラの声。セナンの守護精霊の声は聞こえないかな」
「どういうことだそりゃ……」
リリアイラも戸惑っているのだろう。しばらく他の精霊達と話し込んでいるようだったが結果、その原因は分からず仕舞いだった。
アピの強さがわかったところでダンジョンを引き返していると、遠くから王国軍らしき兵士の一団がぞろぞろとこちらへとやってきた。規模から言って二個小隊くらいあるのではなかろうか。おれは王国軍に詳しいアピに尋ねた。
「あれは? 訓練でもやってるのか?」
「あんな大人数での訓練はダンジョンではやらないよ。もしかしたら――」
アピが最後まで言い切ることなく突然、胸に手を当て頭を下げて礼を執った。兵士達が道を開けると中からダンジョンには似つかわしくない恰好をした女性が姿を現す。
シュラセーナ王国の女王、ジェリミス・パーダマイアン。
先代の女王が不慮の死を遂げた為、若干十五歳にして半年前に即位した。
おれとセナンもアピに倣い礼を執った。
「アピ・フジャンデラス。頭を上げなさい。そこの二人も直りなさい」
見た目はまだまだ少女だが女王としての振る舞いはちゃんとしているようだ。
以前幼き王女の頃に一度会ったが、その時はまだお転婆娘という印象が強かった。
おれ達が顔を上げると軍の将校と思しき男が一歩前に進み出た。
「ジェリミス女王は現在ダンジョンの視察中だ。道を開けよ!」
「待ちなさい。そなた達はマイジャナ王国から派遣されている冒険者ですね? なぜアピ殿と一緒にいるのです?」
女王の問い掛けにおれは再び礼を執り一歩前に出て答えた。
「実は彼女を我々のパーティに引き入れようと思っております。正式な要請は後程マイジャナ王国を通じ――」
「黙れ貴様! アピ殿は我が国においては重要な戦力。そう簡単に他国の冒険者ごときに渡すわけがなかろう!」
おれの言葉を遮るように将校であろう男がおれ達ににじり寄った。男を無視し今度はセナンが食い下がるように女王へ言った。
「私達マジャラ・クジャハは一年後、四大陸ダンジョン討伐の特別許可を授かる予定です。アピ殿は邪神討伐には欠かせない存在です。何卒許可をお願いします」
ジェリミス女王は少しの間、黙っておれ達を見ていた。そしてゆっくりと口を開いた。
「あなた方二人も精霊の護りを宿していると聞いております。全ての邪神を倒す自信はありますか?」
彼女はじっとおれの目を見据え訊いてきた。
「全ての邪神を討伐する事をお約束します」
おれは頭を下げそう答えた。女王はそれを聞き、今度はアピへと訊いた。
「アピ殿、あなたは彼らと共に邪神と戦う事を望んでいますか?」
アピは戸惑う様子も見せずはっきりとした声で答えた。
「ジャスミル女王陛下。私は彼らと共に戦います。必ずや我が国の邪神も討伐し、この国に平和をもたらす決意を今ここで誓います」
それを聞いた女王はにっこりと微笑み頷いた。
そして慈しむかのような眼差しをアピへと向けた。
「わかりました、検討しましょう。その代り我が国からもいくつか条件を出します。後日改めて登城するように」
「しかし陛下っ!」
「私に対する発言を許可した覚えはありません。下がりなさい将校」
女王が険しい表情で制した。将校は不遜な態度を隠そうともせず不機嫌な表情で後ろへと下がる。即位したてで未だ国は一枚岩ではないのだろう。兵士達の雰囲気からもそれは窺い知れた。
その後、女王を囲うように編隊を組むと王国軍は再びダンジョンの奥へと歩を進めた。長い兵士の列を横に見ながらおれ達はダンジョン出口を目指した。
「なんだぁ? さっきの偉そうな奴は」
リリアイラが吐き捨てるように言った。アピがおれの方を向きながら答える。
「私もあいつムカつくんだよねー。いっつも上から目線で。あんな奴でも軍で二番目に偉いんだけどね」
その時、魔物が出たのだろうか、隊の先頭付近から声が聞こえた。この階層にはそれほど強い魔物は出ない。王国軍なら一蹴するだろうとおれが思っているとアピが足を止めた。
「ドゥーカ兄! あれ何っ!?」
後ろを振り返ると壁や天井から大きく丸い影が無数に現れていた。まるであちこちに穴でも開いたかのようだった。リリアイラが珍しく慌てていた。
「まずいっ! あれはクリシャンダラの魔法だ!」
クリシャンダラとはこのダンジョンの邪神だ。
なぜこんな上層階で邪神の魔法が――おれがそう訊こうとした刹那、影の中から溢れるように魔物が飛び出してきた。
「ナガラジャだー!!」
先頭にいた兵士が大声で叫んだ。ナガラジャはB等級の蛇の魔物だ。それが影の中から次々に這い出してきた。王国軍の兵士といえどB等級の魔物には歯が立たない。隊列は一気に乱れ大混乱に陥った。
魔物達の咆哮が響き渡る中、魔法部隊の魔法が飛び交い、最前列の兵士達が必死に抵抗していた。
「行くぞっ! セナン! アピ!」
おれが声を掛けると同時にリリアイラがおれの背中から中に入って来た。
すでに大量の兵士達が戦意を喪失し逃げ出している。
「転移!」
行く手を阻まれながらおれは転移魔法で前線へと飛んだ。
「私達も行くよ! ヴァルダ! 飛翔風脚 !」
セナンの脚に纏わりつくように風が巻き起こる。宙を駆けるがごとく彼女が跳んだ。
「遅っいラダカン! 散る花びら!」
炎の輪がアピの腰辺りで渦を巻く、と同時に彼女の体を浮き上がらせる。体を傾けると、火の粉を撒き散らしながら前方へと飛んだ。
最前線へ行くとかなりの兵士が倒れていた。続々と現れるナガラジャに、もはや指揮系統は崩れていた。あの将校の姿が見当たらない。女王の護衛は生き残った兵士数人がどうにか持ち堪えていたがすでにぎりぎりの状態だ。女王は怯えた表情でぶるぶると震えている。
「おれとアピが敵を一掃する。セナンは女王を頼む!」
「任せて! 風刀」
風魔法を剣に纏わせ女王に襲い掛かるナガラジャをセナンが剣で切り裂いた。
おれとアピは背中合わせになり広範囲攻撃の魔法を放つ。
「切り裂け!」
「紅炎の薔薇 !」
空間に亀裂が走り魔物達を引き裂く。おれの後ろでは紅蓮の薔薇が燃え上がり魔物達が炎に包まれた。一瞬で魔物の群れを殲滅しどうにか危機は脱した。
へなへなと腰が抜けたようにへたり込む女王にセナンが声を掛ける。
「女王陛下大丈夫ですか!? 怪我は!?」
無言で首を横に振る女王を彼女が抱きかかえて立ち上がらせた。
その時二人の背後から倒しそこなったナガラジャが口を開け飛び掛かってきた。
「セナン! 後ろだっ!」
おれの声にハッと後ろを振り向いた彼女が剣を横薙ぎに振りナガラジャの首を切り落とす。しかし僅かに女王から目を離した瞬間、頭上に突如影が現れ、その中から蛇の腕をした魔人がぬうっと現れた。
「あいつは魔神カーリヤだっ!!」
リリアイラが叫んだ。人の三倍はあろうかというその体躯は黒く、両腕からは青と赤の大蛇が鞭のようにうねっていた。魔神は邪神に次ぐ強さを誇っている。カーリヤはナガラジャの王とも呼ばれている魔神だ。
セナンがすぐさま切り掛かった。カーリヤの腕がしなるように伸びセナンの剣を弾く。そのまま軌道を変えセナンを一撃で壁まで吹き飛ばした。
それと同時に魔神は女王を蛇の腕で咥えると再び影の中へと入って行く。
「姫様っ!!!」
アピが絶叫するかのように大声で叫ぶ。すぐさま魔神へ魔法を放とうとしたがリリアイラがそれを制した。
「ダメだ! 間に合わねえ! 追尾魔法を撃てドゥーカ!」
「我を導け!」
不可視の針を魔神目掛け飛ばす。その体が影の中へと消える寸前、針が魔神に突き刺さった。
そして女王と共に魔神を吸い込んだ影は音も無く消え失せた。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」
夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。
この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。
そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる