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南の大陸編
17話 ラウタンを探せ
しおりを挟むおれ達が女王の間で今後についての協議をしていると、大臣の一人が慌てた様子で入って来た。
「女王陛下にご報告致します! 先程東ロンガの領主テガンガが挙兵したとの情報有り!」
「ようやく本性を出したかあの狸じじい!」
ラハール領主が眉間に皺を深く寄せ立ち上がった。おれはすぐさま領主に尋ねた。
「東ロンガに謀叛の兆候でもあったのですか?」
「ああ。最近辺境の地で阿片の栽培が盛んに行われていてな。それをテガンガが東の大陸に密輸していたという報告が上がっていた。近々その件で東ロンガを捜査する予定だった」
「おそらくそれも漏れていたのでしょう。至急、東の――」
「陛下! 火急の事態ですぞ!」
女王の言葉を遮るように今度は別の大臣が血相を変えてやってきた。
「南の辺境の地より魔物が大挙襲来! 辺境の地との関所は壊滅! 現在魔物の大群は南の第三砦に向け進行中ですじゃ!」
女王が驚愕の表情を浮かべ思わず立ち上がった。おれの隣でリリアイラが呟いた。
「おそらく魔神アジュナが率いているな。東ロンガの謀叛に合わせてきたんだろう。やはり邪神と裏で繋がってる人間がいやがるな」
「どういう事だ?」
おれの問いにリリアイラが少し間を置いて答えた。
「西の大陸でも少し怪しい動きがあった。おそらくマイジャナ王国内にも邪神と繋がってる奴がいたはずだ。そのあたりは今ババアに調べてもらってる。今回も誰か裏で糸引いてんだろ」
リリアイラの話が聞こえたのだろう。アピも険しい顔でこちらを見ていた。その時ジェリミス女王の声が部屋に響いた。
「大至急、北ロンガの領主グレッツァに出兵命令! 東ロンガの兵を迎撃させよ。
ラハール殿は城に留まりシェラセーナ城防衛の指揮を。ドゥーカとアピは大至急、魔物の討伐に向かって頂戴」
「はっ! では西ロンガからドゥパを魔物討伐の援軍として送りましょう」
「母様かぁ……また大暴れしなきゃいいけど」
アピが遠い目をしながら溜息を吐いた。アピの母、ドゥパは火炎魔術師として現在も軍に籍を置いている。見た目はおっとりとしている方なんだが……
「大暴れとはどういうことだ?」
おれの問い掛けにアピが両手を上げて肩をすくめた。
「実は母様は根っからの戦闘狂なの。一回キレると私や父様でも手が付けられない」
ラハール領主も二度三度と深く頷いていた。慰めの意味を込めてアピの頭をぽんぽんと撫でているとリリアイラがおれに声を掛けてきた。
「ドゥーカちょっといいか? 今ババアからもう一人の精霊の宿主を探すよう言われた。俺達は先にそっちを片付けるぞ」
「では辺境の地に行くのか?」
「ああ。どうやらそいつはアジュナから殺《や》られそうになり逃げたらしい。だがかなり深手を負っている。そいつはラウタンという少年だ。そして精霊の名はジャイランというが、ババアでも居場所が探れないようだ」
「精霊の方も弱ってるのか?」
リリアイラは一度頷くと話を続けた。
「宿主が魔神との戦闘で魔力を根こそぎ使い切ったみたいだ。下界では宿主の魔力がないと俺達は何もできん。最後は河に飛び込んで逃げたらしいが……おおよその場所はババアに聞く。霊薬はまだあるか?」
「ああ、後四つ残ってる。じゃあ行けるとこまで大転移で飛ぼう」
それからおれはラウタンの件を大まかに皆に伝えた。話を聞いたラハール領主が地図を広げ今後の戦略を立てる。
「おそらく第三砦の防衛は間に合わん。アピは第二砦でドゥパと合流。そのまま砦を起点に魔物を迎え撃て。ドゥーカ殿はその少年を救出次第アピ達に合流してくれ」
「了解した。アピ、後で転移するために追跡針を刺しておいてもいいか?」
「えー持ってちゃダメなの?」
「これは刺した者の魔力を吸い続けないと消えるんだ」
ごねるアピにリリアイラが突き放すように言った。
「痛くねぇんだから大人しくぶっ刺されとけ」
リリアイラがそう言うとアピがふんっと顔を背けた。その隙におれはこっそりアピの腕に不可視の針を打ち込んだが、アピは刺さったことすら気付いてないようだった。
大転移魔法でリリアイラが指定した場所までおれは飛んだ。そこにはおびただしい数の焦げ跡が大地に残っていた。
「こりゃアジュナの雷の矢の跡だな」
リリアイラが辺りを見渡しながら言った。確かにそれは雷が落ちたような痕跡だった。
「アジュナは雷魔法を使うのか?」
「まあ平たく言うとそうだな。奴は神弓ガンディバという武器を使う。その弓からは奴の魔力が尽きぬ限り、永遠と雷の矢が生み出され続ける。その威力は雷魔法で言えば雷王魔術師より強力だ」
「よく逃げ切れたな……」
「戦闘を見ていたババアが言うには、そのラウタンというガキは『神獣の記憶』とやらを持っているらしい」
「神獣の記憶? 初めて聞いたぞ」
「おれも詳しくは知らんが、遥か太古の世界で神獣と呼ばれる四体の魔物がいたそうだ。互いに争い四体とも滅びたとされているが実は、其々が小さな欠片となり復活の時を待っていると言われている。その神獣の『記憶の欠片』は世界のどこかにあるとされている」
「じゃあその少年はその欠片をどこかで見つけたのか?」
リリアイラは静かに首を横に振った。
「わからねぇ。その事はおそらくジャイランが知っている。とにかく探すぞ」
そう言うとリリアイラは河の方へと歩いて行った。
「潜るぞドゥーカ。河の底から僅かに精霊の気配を感じる」
リリアイラが背中からおれの中へと入る。
「密閉」
水中で泳げるよう顔周辺だけを空間魔法で覆った。リリアイラに誘導され河の底を暫く移動していると岩陰に大きな穴を見つけた。斜め上へと続くその穴を進み続けていると広い空間へと辿り着いた。
そこは青く光り輝く鍾乳洞だった。目の前には幻想的な光景が広がり、時折水の滴り落ちる音だけが聞こえる。
奥の方へと歩を進めると、まるで祭壇のように突き出た岩の上に巨大なトケッタが一匹、とぐろを巻くように丸くなっていた。
目を凝らして見ると、その丸まった中心にドロリとした透明な膜に包まれて眠る少年と一匹のトケッタの姿があった。まるで卵の中の幼生のように時々ピクリと体が動いている。
「あれがラウタンのようだな」
おれの言葉にリリアイラが頷いた。
「どうやらあの膜の中身は再生と修復の効果があるみたいだな。僅かだが魔力が回復している」
おれがゆっくりと近づくと巨大なトケッタはぼんやりと目を開いた。そのままおれの方を暫し見ると、のそりとおもむろに立ち上がりその場から少し離れた。
おれは礼をするように軽く頭を下げ少年へと近づく。透明な膜をそっと破りラウタンを抱き上げた。血の気が引いて顔色は悪いが怪我などはなさそうだ。
「アムリタを飲ませてやれ」
リリアイラのそう言われ、おれはラウタンの口を開けるとアムリタをゆっくりと注いだ。みるみるうちに血色が戻るとラウタンは静かに目を開けた。
「……ここは? あなたは……誰ですか?」
そう呟くと小さな少年はおれを不思議そうな顔で見ていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第17話を読んで頂きありがとうございます。
かなりおおざっぱですが南の大陸の位置関係です。
北ロンガ
西ロンガ シュラセーナ王城 東ロンガ
第一砦
第二砦
第三砦
関所
辺境の地
わかりきった説明でしたが……念のために載せておきます。
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