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南の大陸編
28話 低層の門番
しおりを挟む「まるで矢が自分の手足のようだ」最初に僕はそう思った。
正直なところ、僕は攻撃魔法がそれほど得意ではなかった。どちらかと言えば防御魔法の方が扱いやすく、普段の戦闘も守り中心で戦っていた。
「水魔法は攻めよりも守りの方が向いているので、それほど気にすることはありませんよ」
とジャイランはよく言っていた。けど今は違う。この弓を手にした瞬間、何も考えなくても体が勝手動く感じがした。視界に入る敵の数を思い浮かべると、それに合わせるかのように複数の矢が現れる。
いつも矢を射るように手を放すと、吸い込まれるように次々と敵射抜いて行く。僕が思い描くものがガンディバにも伝わっているようだった。ジャイランの声が頭の中から聞こえる。
「不思議ですね。まるで弓から魔力を分け与えてもらっているような感覚です。これが神の弓と呼ばれるものですか」
普段は自分の魔力を使って精霊の力を引き出している、という感じだけど、この弓は使用した魔力を増幅してくれている。明らかにいつもの攻撃魔法よりも威力が高かった。
「はっ! こりゃいいな! ラウタン、そいつはもうおまえのもんだ」
ぼくが後ろを振り返るとリリアイラの嬉しそうな声が聞こえた。アピさんはどこか不満そうな顔をしていた。
「僕がもらってもいいの?」
こちらへ近づいてきたドゥーカさんに僕がは尋ねた。すると彼はポンポンと僕の肩を叩きながら「もちろん!」と笑っていた。
「アピも文句ないだろう?」
「ふんっいいわ! 私はそんなんなくても平気だから」
腕組みしながら彼女がそう答えると、すかさずリリアイラが茶々を入れてきた。
「あんな盲撃ちじゃ当然だ。あれなら敵に攻撃された方がまだましだ」
「うっるさいなー。私だってちょっと練習すればラウタンくらいは使いこなせるわよ!」
「けっ! 弓が一本しかなくてよかったぜ」
それから暫くは二人の賑やかなやりとりが聞こえていたけど、僕は手にしたガンディバをしげしげと見つめていた。
おれは二人が言い争うのを暫く放っておいたが、あまりに終わらなそうだったのでようやく重い腰を上げる事にした。
「そろそろいいか? お二人さん。せっかくラウタンが弓を使える事がわかったんだ。このまま低層に潜ってみようと思うがいいか?」
おれの問い掛けにリリアイラがようやく騒ぐのをやめてこちらを見た。
「その方がいいな。行けるならこのまま一気にクリシャンダラを叩くぞ」
おれ達の方針は決まった。食料やポーションはおれが十分保持しており、地上へ戻る必要もなかった。それから魔物の襲撃もそれほど多くなく、おれ達は難なく前回の最深到達地点の八十七階層に辿り着いた。
ダンジョンは主に高層、中層、低層の三つの層に分けられる。層が変わる毎に出現する魔物や魔人がぐっと強くなる。ここ南の大陸のダンジョンは八十八階層からが低層となっており、そのひとつ上のこの階層には「低層の門番」と呼ばれる魔物が二体いる。
霧が立ち込める中、奥へと歩みを進めると巨大な二つの影がその姿を現した。それを初めて目にしたラウタンが思わず声をあげた。
「あれは? ……あれが魔物なんですか?」
おれ達がさらに近づくと霧は晴れ、魔物の姿をはっきりと見る事が出来るようになった。黒い樹皮で覆われた二本の大樹。それはまるで行く手を阻むかのようにそびえ立っていた。前回撤退を余儀なくされた相手――
「あれがこのダンジョンの低層の門番、ナラクバラとマニグリバだ」
おれは足を止めその大樹を見上げた。一見するとそこにただ生えているだけのように見えるが、それはれっきとした魔物だ。おそらくこの二体の魔物こそ植物系の魔物の頂点に君臨しているであろう。魔法攻撃、物理攻撃なんでもござれだ。
「こいつ……今日こそ炭にしてやる」
アピが早くも戦闘態勢を取りながら睨みつけた。前回、アピをもってしても僅かな傷しか負わせる事ができなかった。その事をアピはかなり悔しがっていた。
「おれとアピが前衛! ラウタンは後方から弓で狙え!」
おれがそう叫んだ瞬間、ドドドという音と共に二つの大樹が大きく揺れ始めた。すると無数の種が頭上から降り注いでくる。種は地面へとめり込むとあっという間に木の魔物へと変貌を遂げた。ランティンと呼ばれるその魔物は所詮D等級に過ぎないが圧倒的な物量で迫ってくる。
にょきにょきと地面から現れ、自ら根を引っこ抜いて移動してくる。おれとアピは左右に大きく展開すると広範囲の攻撃魔法を放った。
「切り裂け!」
「紅炎の薔薇!」
おれの魔法が敵を次々に粉砕し、アピの火魔法が一瞬で燃やし尽くす。そして打ち損じた敵をラウタンの矢が射抜いていった。連携は上々。まさしくランティン達を根こそぎ倒していった。
間髪入れずにアピが宙へと舞い上がると爆炎魔法を大樹の中心目掛けぶちかました。
「爆ぜ咲く薔薇!!」
巻きあがる炎と爆風でのけぞるようにナラクバラが後へとしなった。大穴が開いても不思議ではないほどの威力だったが、実際は僅かに傷がついたに過ぎなかった。
「んっもう! あいつ本当に木なの!? 硬すぎじゃない!」
だがその瞬間、おれはある事に気が付いた。転移魔法でもう一体の大樹へと瞬時に接近すると大きめの枝を狙って魔法を放った。
「両断」
普通ならこれで切り落とせるはずだが、それは叶わなかった。確実に切った感触はあったが枝は繋がったままだ。
前回おれは守勢に回っていた為、気が付かなかったが、今間近で見て確信した。
「アピ! 狐火を使え! 大樹の根本を狙ってくれ!」
「えーまたぁ!?」
アピが不満気な声を上げたがおれは続けざまに叫んだ。
「こいつらは傷を負った瞬間から修復している! その時、下から上に魔力の流れを感じた! きっとダンジョン自体の魔力を吸い上げてるんだ!」
おれの意図が伝わったのか、アピはすぐさまナラクバラ目掛け狐火を放った。
「狐のかがり火!」
ボワッという音と共に青い炎がナラクバラの根元から立ち昇った。
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