空間魔術師は一瞬で地の底まで逃げ出した

三毛猫ジョーラ

文字の大きさ
41 / 61
南の大陸編

38話 闇を引き裂いて

しおりを挟む

 それは本当に夜が明けたようだった。いつもより多くリリンが魔力を込めているのか、ロンガの中で見るマタハリよりも格段に強い光を放っている。

 クリシャンダラが遠くのマタハリを手でひさしを作りながら睨んでいる。相当厄介に感じているのだろう。おそらくあれは闇を照らしているだけではないようだ。

 クリシャンダラが影を纏い、そして消えた。その行き先は間違いなくマタハリ。おれも瞬時に転移する。

転移テレポルタ

 一瞬で変わる景色。マタハリが放つ真っ白な光の中、クリシャンダラはすでに魔法を打つ体勢を取っていた。

黒闇の暴食グラカラクザン――」

 邪神の体から闇が溢れ出す。だがそれは光に溶かされていくかのように急速にしぼんでいった。

「ギャアアアアアアアアーー!!!」

 クリシャンダラが空中で悶え苦しみながら魔法を打ちまくっている。だがその闇も瞬時にマタハリの光に掻き消されていった。いつの間にリリアイラがかおれの横に来ていた。

「こりゃまるで陽光魔法みてぇだな。もしかしてこの日照石はババアが作ったのか?」

「わからん。マタハリは遥か昔に天女てんにょから授かったと聞いた事はあるが……」

「はっ! ババアが天女かよ。笑わせやがる」

「いずれにせよ邪神にはかなり効いてる。リリン! 熱くはないか!?」

 おれはマタハリの真上にいるリリンに一声掛けた。リリンはすでにマタハリに乗り、直接手を当てながら魔力を流し込んでいた。

「ちっとも熱くないのですよーさま! 心配ごむようですー」

 確かに近くにいてもマタハリの光は不思議と熱を感じない。櫓を引いている兵士やトケッタ達も平気なようだった。しかしクリシャンダラだけは違った。まるで陽の光に焼かれるように、今や体からは煙が噴き出していた。色々な魔法を滅多矢鱈めったやたらに打ちまくっていた。


 そんな時ふと、クリシャンダラの近くでぽっかり黒い穴が開いているのが目に留まる。おれはその穴へと躊躇なく飛び込んだ。 穴の中は静かな空間で暗闇がどこまでも広がっていた。

「狭間の世界のようだな」

 後を追いかけてきたのかリリアイラの声が背後から聞こえる。確かにここは大転移の時に通る狭間の世界にどこか似た雰囲気だった。果てしなく続く闇の空間。辺りを見渡して見ると、遠くに淡い光が僅かに見えた。近づいてみると、それは妖精の灯の光だった。ラウタンが傷ついたアピを必死に治していた。

「ラウタン! 無事か!?」

「その声はドゥーカさん? 僕は無事です。アピさんがひどい怪我で……」

 淡い光に照らされたアピの姿は血塗れでぐったりとしていた。おれは急いで霊薬アムリタを取り出し飲ませた。傷が塞がり、顔にも生気が戻って来た。やがてアピがゆっくりと目を開け、伸びをした。

「ふぁあー良く寝たーってあれ? なんで真っ暗なの!?」

「ぐっすり寝れたみたいだな」

「えっドゥーカ兄? ちょっとレディの寝室に勝手に!」

 魔法を打たれそうになり、おれは思わずアピの手を掴んだ。

「待て待て! どう見てもベッドの上じゃないだろ。とりあえず明かりをくれ」


「なによ……」とぶつぶつ言いながらアピが火魔法で辺りを照らす。おれとラウタンとパンバル。そして真っ暗な空間を見てようやく思い出したようだ。

「あっ! あのクソッタレ邪神! どこにいんの!?」

「まぁちょっと落ち着け。まだここは闇空間の中だ」

 おれは二人に今の状況を掻い摘んで説明した。すっかり全回復したアピは怒りが収まらないようで、さっさとここから出るぞと息巻いた。

「ちゃちゃっと転移魔法で出れないの? ドゥーカ兄」

「それがさっきから転移魔法が阻害されてる感じでな。入って来た穴も閉じてるようだし……」

「もうっ! リリアイラはなんとかできないの!?」

「けっ! こいつはちょっとくらい弱らしておいた方がよかったな」

「なによ! 空間魔法を司る精霊様ともあろうお方がどうにも出来ないとかなっさけないわねぇー」

 アピのあからさまな煽りに、リリアイラは――見事に乗っかった。

「なっ! これくらい余裕に決まってるだろっ! おまえらは下がってろ」

 おれ達が少し下がるとリリアイラは剣を構え、魔法を詠唱した。


Nirgunaニルグナ

 闇の空間が、まるで影が伸びていくように剣先へと吸い込まれていく。暫くすると暗闇が引き伸ばされたように、うっすらと明かりがぼやっと見えてきた。もしやあれは外の空間だろうか。その瞬間リリアイラが叫んだ。

「おまえら! あそこにありったけの魔法を打ち込め!」

 その言葉を合図に、おれ達は魔法を一斉に放った。それはまさに集中砲火。斬撃が、爆炎が、そして無数の水の矢が、僅かに見えたそのひずみに降り注ぐ。

 やがてメキメキと音を立て闇空間に亀裂が入っていった。

切り裂けレータルカント!!」

 渾身の魔力を込めておれは魔法を放った。それは闇を引き裂いて暗闇の世界を瓦解がかいさせた。まるで投げ出されたかのように、目の前の景色が一気に変わる。そこはマタハリが光を照らす元の世界だった。

「ねさまー! よくぞご無事で!」

 すぐさま魔法で宙を飛ぶアピをリリンが見つける。そんなリリンにアピは笑顔で手を振っていた。おれはラウタンを掴んで転移しようとしたが、どうやらその必要はなかったようだ。

泡沫ブーサ

 ラウタンはしゃぼん玉のような膜でパンバルごと体を包みゆっくりと落下していた。真下にいた兵士達は慌てているが。


 闇空間から脱出してきたおれ達を見て、クリシャンダラが驚愕の表情を浮かべていた。あれからずっと暴れまわっていたのか、それともマタハリの力か。邪神は明らかに弱体化している。

「一気に片を付けるぞ! アピ!」

「言われなくてもっ! 爆ぜ咲く薔薇マカルティバティバ!!」


 乱射乱撃雨霰らんしゃらんげきあめあられ。おれ達三人の攻撃だけでなく、櫓を引いていた兵士達も弓や魔法で、そしてトケッタ達までもがクリシャンダラへ向かって攻撃を仕掛けていた。

 その一つ一つに、長きに渡って邪神に苦しめられてきた人々の思いが、そして討伐への願いが込められているようだった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 第38話を読んで頂きありがとうございます。

 
 本編中に出た「乱射乱撃雨霰」という言葉は日露戦争中に流行った琵琶歌の一節だそうです。おそらくこっちの言葉だと知ってる方も多いと思います。


 今作品を最初からずっと読み続けて頂いている読者の皆様には感謝感激雨あられでございます。改めまして厚く御礼申し上げます。

 引き続きこの物語を最後までお付き合い頂けると幸いです。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」 夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。 この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。 そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……

処理中です...