空間魔術師は一瞬で地の底まで逃げ出した

三毛猫ジョーラ

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東の大陸編

41話 治癒の力

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「まったく……なんなんです? あなたは?」

 じとりとした眼差しで視線を送るチュランに対し、ドゥーカは両手を上げ少し苦笑いを浮かべながら答えた。

「すまんすまん。手を出すつもりはなかったんだがな……流石にちょっと危なそうだったんでな」

 チュランはまるで値踏みするかのようにドゥーカを繁々と見ていた。するとそこへアピとラウタンが駆け寄りドゥーカの横に並び立った。その様子を見ていた先程のパーティのリーダーと思しき男が驚きの声を上げた。

「あんたらもしかしてマジャラ・クジャハか! なんにせよ助かった。礼を言わせてくれ」

 そう言って男は深々とドゥーカ達に頭を下げた。ぜぇぜぇと息を切らしながら、他の者達もそれに続いて礼を述べる。一方でチュランはマジャラ・クジャハという言葉を聞いてその目がにわかに輝いているようだった。

「へぇ……あなた達があの……。それよりそんな有名なパーティがどうしてこんな辺鄙なダンジョンに?」

 チュランが三人を舐め回すように見ながら言った。ラウタンは少し後ずさりし、アピはふんっと鼻を一つ鳴らして睨んでいる。そんなアピを軽くなだめながらドゥーカが答えた。

「実はチュランという者に会いにきたんだが……おそらく君がチュランだろう?」

 ドゥーカが目を向けるとチュランの顔が嬉々としたものへと変わった。長いローブに仕舞われた手で口を押えると、やや大げさな声を出した。

「あら私に御用でしたか! それは光栄至極でございます。私のような一介の治癒術師ごときに一体どういったご用件で?」

 ドゥーカはこれまでの経緯とチュランをパーティに引き入れたい意向を掻い摘んで話した。チュランはにこやかに頷きながら話を聞いていた。その間もアピは不機嫌そうに腕組みをし、その後ろでラウタンはなにか言いたそうにもじもじとしている。ドゥーカの話を最後まで聞きチュランが口を開く。

「お話はわかりました。ただ邪神討伐ともなるとそれなりの危険を伴うもの。私としてはそれなりの契約金を約束して頂きたい」

「もちろん。邪神を倒せばそれなりの報奨金が貰える。それは均等にパーティ内で分配するつもりだ」

 ドゥーカの言葉を聞いてチュランが僅かにほくそ笑んだ。

「それはそれという話です。そうですね……これからずっとそちらのパーティに拘束されるとして、一月ひとつきで世界金貨十枚でいかがでしょうか?」

 世界金貨とはどの大陸でも使える貨幣だ。世界金貨一枚で標準的な一般家庭なら半年は楽に暮らしていける。チュランの横暴とも言えるその提案に、真っ先にアピが声を荒げた。

「ちょっと! あんた何言ってんのよ! そんなふざけた契約金払うわけないでしょ!?」

「私もそれなりに自分の力には誇りを持っていますからねぇ。邪神と戦うとなると私くらいの能力の者が必要なのでは? これしきの金で世界平和が買えるなら安いものでしょう」

 始めの頃の低姿勢はどこへやら。まるでアピを挑発するかのようにチュランはせせら笑った。ドゥーカは再び宥めるようにアピの肩をぽんと叩いた。

「金の話は了解した。だが契約を結ぶ前に一度君の実力を見てみたい。パーティでの相性もあるしな。そうだな……明日おれ達と一緒にダンジョンに潜ってもらってもいいか?」

「いいでしょう。では明日、砂時計ジャムパシル側のダンジョンでいかがですか? ここより魔物も強いですから」

 
 そして、翌日の予定を決めるとチュランは混合パーティを連れ、さっさとダンジョンを引き上げていった。まだ怒りが収まりきれないアピがドゥーカに詰め寄った。

「私は嫌だよドゥーカ兄! あんな奴ならいない方がまし!」

「まぁまぁ。まだ仲間にするって決めた訳じゃないから。それに気になる事があってな。明日はそれをちょっと確認したくてね」

 そう言ってドゥーカはちらっとラウタンを見た。ドゥーカと目が合ったラウタンは何も言わずこくんと一度だけ頷いた。




 小高い丘の上に建つ豪華な屋敷。今日も多額の報酬を受け取ったチュランがその屋敷へと帰ってきた。すらりとした美人の執事が彼を出迎える。

「おかえりなさいませ御主人様。食事の準備は調っております」

「今日は先に湯だ。準備しろ」

 ぞんざいに返事をすると、チュランは自室へと向かい鍵を掛けた。ぶかぶかのローブを脱ぎ捨てると、首から下げていたチェーンを外しテーブルの上に乱暴に放り投げた。ガチャンという金属音と共に「きゃっ」と、か細い声が聞こえた。

 チュランは声の方向へ一瞥いちべつを送ると、ふんっと鼻を鳴らした。棚からグラスを取り出すと魔法で氷を作り出した。そして冷えたグラスに酒を注ぐと一口でそれを飲み干す。心地よい刺激が喉を駆け抜け、彼の気分は更に高揚した。それまで抑えていた笑いをとうとう堪える事が出来ず、その目が爛々と輝き始めた。

「はーはっはっ! 遂にあのマジャラ・クジャハからお誘いが来たぞ! これでようやくおれの将来も安泰だ。こんなめでたい事はないなぁー」

 チュランはもう一度酒をあおるとテーブルの上のチェーンを掴んだ。頑丈に作られたそのチェーンの先には、更に頑丈に作られた丸い鳥籠のようなものが取り付けられてあった。それを目の前まで持ち上げるとチュランはそれを覗き込みニヤリと笑った。

「それもこれもお前のお陰だなぁ。あの時、お前を助けて本当に人生が変わったよ。これからもおれの為に働いてくれよー」

 鳥籠の中には、蝶のような羽を背中から生やした手の平程の大きさの妖精が膝を抱えて座っていた。








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