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第12話 失った笑顔
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マーカスが王都学園を卒業したと聞いてからおよそ一ヶ月が経った。マーカスの両親は息子の晴れ姿を見ようと王都へ向かった。その際、私も誘われたけれど行かなかった。辺境騎士団への武器の納期が迫っていたし、行ってもどうせあの女との楽し気な様を見せられると思ったからだ。決して嫉妬しているとかではない。ただただ疲れてしまいそうな気がしただけだ。
あれから私の付与魔法は飛躍的な進歩を遂げた。あれほど苦手だった武器への魔法付与も今ではなんなくこなせてしまう。おまけにその威力は結構なものらしく、今では私の手掛けた武器は辺境騎士団にはなくてはならない存在だそうだ。
「来年度から王都騎士団との契約も決まった」
いつものように事務的な口調で父が言った。もはや反論する気力もなく私は小さく頷いた。
「父上。これを機に他の属性の魔法付与をやってみてはどうでしょうか?」
父の横に座る弟が身を乗り出した。最近は父の補佐を務めながら経営を学んでいるらしい。
「ほう? 例えば?」
「例えば水と雷の属性を同時に付与するとかはいかがでしょう? 相乗効果で威力も倍増するのではないでしょうか?」
「ふむ。確かにそれはいいな。またあいつに頼んでみるか……」
あいつとはたぶん、あの魔法使いの彼女のことだろう。あの魔石にかけられたのはどうやら呪いの類だったようで、あれ以来風魔法は全く使えなくなってしまった。それに付与魔法をかけると以前よりも多く魔力を吸い取られてしまう。学業と日々の仕事に忙殺され、私は心身ともに疲れ果てていた。肌は荒れ、髪はパサパサ。痩せ細った体はまるで病人のようだ。
「あら、お姉ちゃん。今から仕事?」
珍しく家の中で母と妹に遭遇した。二人でしょっちゅう旅行に行っているらしく滅多に会うことはない。どこぞの上流階級のご夫人とご令嬢と見紛う程に二人共着飾っていた。じゃらじゃらと宝石を身に着け、優雅なドレスを纏っていらっしゃる。一方の私は後ろで束ねた髪の毛に地味な作業服。もちろん化粧なんてする必要もない。
「あなた仮にもグレイン家の者なんだから身だしなみは気を配りなさい。見ていてこっちが恥ずかしいわ」
まるで汚いものでも見るかのような目で母が私を睨んだ。妹はその横でクスクスと笑っている。
「すみません。気を付けます」
「そんなんじゃマーカスくんにも愛想尽かされるわよ。それと婚姻の儀の日取りが決まったら早めに言いなさい。ドレスの仕立てには時間がかかるから」
たぶん私のウェディングドレスではなく自分達のドレスのことだろう。そういえばここ最近、私はドレスはおろか服だって買ってない気がする。
「わかりました。では仕事があるので……」
私は二人から逃げるようにしてそそくさと仕事場へと向かった。
工房の中へと入るとすでに大量の剣が並べられていた。しんと静まり返ったこの空間が、今や唯一の安らぎの場とは皮肉なものだ。私と同等の付与魔法を使える者がいないので、結局全ての付与を一人でこなしている。
呼吸を整え魔法陣を描いていく。疲れてはいるけれど手を抜くことはない。仕事とはいえ、私はやっぱり魔法が好きなのだ。思えば小さい頃、一生懸命魔法の練習をしていた。いろんな魔法が使えるのが楽しくて。そしてなによりマーカスが私の魔法を見て喜んでるのが嬉しくて。
そう言えば随分と彼が剣を振るう姿を見ていない。王都騎士団に無事入団出来たのだ。剣の腕前はきっと上達しているだろう。
「やっぱりおめでとうの一言くらい、会って直接言えば良かったかな……」
騎士団の制服に身を包んだマーカスが、私の付与した剣を振る。そんな姿を少し想像してみる。その時彼はどんな顔をするだろう?
昔のように喜んでくれるだろうか?
そしてあの頃と変わらず、楽しそうに笑いながら私を褒めてくれるだろうか……。
あれから私の付与魔法は飛躍的な進歩を遂げた。あれほど苦手だった武器への魔法付与も今ではなんなくこなせてしまう。おまけにその威力は結構なものらしく、今では私の手掛けた武器は辺境騎士団にはなくてはならない存在だそうだ。
「来年度から王都騎士団との契約も決まった」
いつものように事務的な口調で父が言った。もはや反論する気力もなく私は小さく頷いた。
「父上。これを機に他の属性の魔法付与をやってみてはどうでしょうか?」
父の横に座る弟が身を乗り出した。最近は父の補佐を務めながら経営を学んでいるらしい。
「ほう? 例えば?」
「例えば水と雷の属性を同時に付与するとかはいかがでしょう? 相乗効果で威力も倍増するのではないでしょうか?」
「ふむ。確かにそれはいいな。またあいつに頼んでみるか……」
あいつとはたぶん、あの魔法使いの彼女のことだろう。あの魔石にかけられたのはどうやら呪いの類だったようで、あれ以来風魔法は全く使えなくなってしまった。それに付与魔法をかけると以前よりも多く魔力を吸い取られてしまう。学業と日々の仕事に忙殺され、私は心身ともに疲れ果てていた。肌は荒れ、髪はパサパサ。痩せ細った体はまるで病人のようだ。
「あら、お姉ちゃん。今から仕事?」
珍しく家の中で母と妹に遭遇した。二人でしょっちゅう旅行に行っているらしく滅多に会うことはない。どこぞの上流階級のご夫人とご令嬢と見紛う程に二人共着飾っていた。じゃらじゃらと宝石を身に着け、優雅なドレスを纏っていらっしゃる。一方の私は後ろで束ねた髪の毛に地味な作業服。もちろん化粧なんてする必要もない。
「あなた仮にもグレイン家の者なんだから身だしなみは気を配りなさい。見ていてこっちが恥ずかしいわ」
まるで汚いものでも見るかのような目で母が私を睨んだ。妹はその横でクスクスと笑っている。
「すみません。気を付けます」
「そんなんじゃマーカスくんにも愛想尽かされるわよ。それと婚姻の儀の日取りが決まったら早めに言いなさい。ドレスの仕立てには時間がかかるから」
たぶん私のウェディングドレスではなく自分達のドレスのことだろう。そういえばここ最近、私はドレスはおろか服だって買ってない気がする。
「わかりました。では仕事があるので……」
私は二人から逃げるようにしてそそくさと仕事場へと向かった。
工房の中へと入るとすでに大量の剣が並べられていた。しんと静まり返ったこの空間が、今や唯一の安らぎの場とは皮肉なものだ。私と同等の付与魔法を使える者がいないので、結局全ての付与を一人でこなしている。
呼吸を整え魔法陣を描いていく。疲れてはいるけれど手を抜くことはない。仕事とはいえ、私はやっぱり魔法が好きなのだ。思えば小さい頃、一生懸命魔法の練習をしていた。いろんな魔法が使えるのが楽しくて。そしてなによりマーカスが私の魔法を見て喜んでるのが嬉しくて。
そう言えば随分と彼が剣を振るう姿を見ていない。王都騎士団に無事入団出来たのだ。剣の腕前はきっと上達しているだろう。
「やっぱりおめでとうの一言くらい、会って直接言えば良かったかな……」
騎士団の制服に身を包んだマーカスが、私の付与した剣を振る。そんな姿を少し想像してみる。その時彼はどんな顔をするだろう?
昔のように喜んでくれるだろうか?
そしてあの頃と変わらず、楽しそうに笑いながら私を褒めてくれるだろうか……。
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