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いち

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 告白された。
 恋愛など他人事だと思っていた。体育館裏だなんてベタな場所に呼び出されたのにも関わらず、「ずっと好きでした。」だなんて、これまたベタな台詞を聞くまで、彼が私に好意を向けているなど、想像もしていなかった。
 ほんの数秒前に、この地味な私に対してふざけることもなく、恥じらうこともなく、真剣に告白してくれた彼は、親しく話すことができる数少ない男友達だった。幼い頃から互いを知っているし、彼が本当に優しくて良い性格の持ち主であることを熟知している。そんな彼の言葉を聞いて、私の心に一番に浮かんだ感情は勿論「嬉しい」だった。

 しかし、付き合うという事は、当たり前だけれど恋人同士になるという事で。二人きりで出掛けたり、手を繋いだり、ハグしたりという友達以上の触れ合いを認めなければならなくなる。果たして、私はこの彼と手を繋いで外を歩けるだろうか。……出来ないだろう。
 別に彼が生理的に無理だとか、今流行りの蛙化現象になったとかではない。ただ、好きでも無い人と手を繋いで歩く事で、周りの人から、彼に恋愛感情を抱いているのだと思われるのは嫌なのだ。自分の気持ちに嘘をつきたくなかった。

 だから、どうにか彼を傷付けずに、丁重にお断りしなければならない。先ずは告白してくれたことの感謝を伝えて、嬉しかったことも伝えて、それからーー

「返事はいつでもいいから。」

 どう断ろうかとウンウン悩んでいた、ほんの数秒の沈黙。破ったのは彼の紳士的な一言だった。

「すぐに答えるなんて難しいよね。」
「あ、うん、ごめん。すぐに答えられなくて……。」
「別に謝る事じゃ無いよ。急に告白したのはこっちだし。」

 何とも別れ辛い空気に、彼は不自然な程饒舌になった。今度の定期テストの話や提出物の話をした後、バスケットボール部が練習を始めたのを合図に、部活があるからと彼は逃げるように去っていった。
 返事はいつでもいいと言ってくれたけれど、一日も早く答えるのが礼儀だろう。それに、悩むまでも無く私の答えは出ているのだ。

 あぁ、どうやって断ろうか。
 正直に、「貴方と手を繋ぐことを考えただけで嫌悪感を感じました」など言えるわけが無い。いや、言ってはいけない、最低だ。じゃあ無難に、「他に好きな人がいる」としようか。……でも、17歳にして初恋未経験の私だ。一回でも恋愛をしたことがあるならまだしも、恋自体を知らないのに、この理由で断るのは何故だか失礼な気がする。

 はぁ。まさかこの私が告白されるなんて。人生で最初で最後の経験なのではなかろうか。断ったら告白してくれる人が二度と現れないような気もする。……断るの、勿体無いだろうか。

 どうしよう。

 部活に行く気になれなくて、たまたますれ違った後輩に休む旨を伝える。浮かない顔をしていたのだろうか、理由も言っていないのに、その後輩はお大事に、と心配そうな顔をして言った。
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