悪役令嬢は、宰相殿がお好き

山森おにぎり

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03. 悪役令嬢は、お茶会がお好き

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 転生の次は呪いですか。

 ……えらいこっちゃ。

 「ふむ、まぁ、お嬢さんはまだ良い方じゃ。この呪いは石化してから、発覚する場合が多くての。大抵は呪いを解くために噂を広めて石化したまま運命の恋人と会うんじゃからの。ムードもへったくれもないわい。その点、お嬢さんは無事なまま会えることじゃろうて。安心なさるといい」



 いやできませんよ!?
 

 ぶつかったりしたら、骨どころか内臓も……。


 ぞっとする想像に腕をさする。


 そんなやり取りをしていると、室外でなにやらジェラールと話し込んでいたお父様が砂漠の中でオアシスを見つけた旅人のような笑顔でこちらへ向かってくる。


 「フィアンナ! 今王宮にいるイレーナに連絡をしたところ、すぐにこちらへ来るそうだ! 殿下と宰相殿と一緒に!」



 私はその言葉に相槌も打てないほどのショックを感じた。――


 すぐに、ここへ、殿下が、来る。
 なるほど、どうやら神は本格的に私を見放したらしい。


 度重なる心労で胃が痛かった。


 「ほほう!殿下が!ということは!」


 「ええ! 実はフィアンナは殿下との婚約の話が上がっており、フィアンナの体調不良も丁度その話が持ち上がった時と一致しています! ですからその可能性が!」





 ないわぁ。

 


 どう考えてもそのせいで体調悪化してるし、元の体のフィアンナは死神が来るのを察知していたにちがいない。


 話しを可笑しな方向に盛り上げてるお父様たちに呆れていると、ジェラールが一礼して室内へとやって来る。


 「お話し中失礼いたします!皇太子殿下がご到着なされました。玄関でお待ちいただいてるとのことですがいかかなさいますか」


 もう来たの?!
 なんでこんなに早い……。そうか! 転移魔法があるんだった。


 舌打ちをしたい気分に駆られたがお父様たちがいる前でそれはマズイ。


 ググッと奥歯を嚙み締めて耐える。


 「そうか!イレーナには事情を伝えてある。予定通りに茶会を行うのだ。すぐに私たちも向かう」


 声を張り上げて言うお父様にジェラールは「かしこまりました」と一言言うとすぐにドアの向こう側へと消えてしまった。

 「さぁ、フィアンナ。庭へと急ごう!」


 そういうとお父様は何を思ったのか私を姫抱きにして救い上げる。
 驚いた私は、不可解な行動に自分で歩けるということを訴える。


 「お、お父様!私、自分で歩けますわ」


 「何を言うんだ!転んででもしたら一大事だぞ。お前の骨は石化しているのだから、黙ってそのままでいなさい、殿下の所に就く前には必ず下ろすと約束するから」

 た、確かに。

 私今、骨が大変なことになっているんだった。


 「そうじゃな、その方がいいだろう。どれ、わしが庭まで繋げてあげようかの」


 私はロドリゲス先生の突拍子な申し入れに衝撃を受ける。


 「えっ、えっ!?そんな、少し待ってくださ――」
 「空よりいでし旅船よ、今こそ門を開きたまえ……『転移』!」


 待ってくれ。まだ心の準備がまだなんです。そう続けようとするが、ロドリゲス先生の動きの方が速く、言葉を言い切る前に転移の魔法を使ってしまう。


 室内には空間を捻じ曲げたような穴が湧いたかと思うと、息つく暇もなくお父様は私を姫抱きをしたまま、その真っ暗闇へ飛び込んだ。



  吸いこまれる――。



 そう思いギュッとお父様の服にしがみつく。轟々と風が響いたかと思うと、とすんと着地するような衝撃が身体に響いた。



 「さ、フィアンナ。着いたぞ」


 お父様がポンと私の背中を叩くと、ゆっくりとした動きで抱き上げていた私を地面へと下ろした。


 チチチ……と鳴く鳥の声が私の耳に響いてきた。


 こわごわと片目を開けてみる私の目に飛び込んできたのは、白と黒の薔薇が心奪われるほどに花開く秀麗な庭園。時期は春のなのか、時時に虹色の虹彩を持つ蝶がひらひらと飛び交う様子もみられる。少し遠くの方には天使を象った噴水は光を浴びて艶やかに照らされていた。



 これがあの公爵家が自慢する庭園。
 言葉を失うとは正にこのことだろう。



 「殿下はいつもの場所でお茶を召し上がっておられる。私たちはあとからそちらに向かう。」


 「え。お、お父様方も一緒に来てくださるのではなかったの?」


 こ、ここまで来て道案内してくれないんですか。


 「いやいや、わしらは今回のことを宰相にお話ししなければならんでの」
 「だから代わりに護衛をつける。――ジェラール」


 魔法のベルを鳴らした父が護衛に選んだのは、乙女ゲームでも聞きなれた少年執事の名前だった。


 お父様がベルを鳴らすと、すぐさまつい先刻見た空間が捻じれたような真っ暗な穴が湧くとともに、中からジェラールが飛び出した。
 くるくると空中で前転を行うと、スタっと着地をとる。
 驚異的な身体能力だ。


 「お呼びでしょうか、旦那様」


 そして一礼。
 相も変わらずの礼儀正しさには賞賛に値するだろう。


 「私たちは今から宰相殿の所へ行く、お前はフィアンナの呪いが解けるまで、危険な目に合わぬように、かつ、ムードを壊さぬように護衛をするのだ」


 「かしこまりました、喜んでムードを壊さぬように、護衛をさせていただきます」


 ニコッと笑って反復するジェラール。
 ……絶対楽しんでるなあの子。


 話を終えると、ジェラールは私の後ろからいささか離れたところへ移動した。どうやらあの距離のまま護衛を行うらしい。この距離で大丈夫なのか?


 「ではな、お嬢さん。運命の恋人と会えるように祈っておるよ」


 「フィアンナ、きっと上手くいくだろう。父さんはお前がきっと成功すると信じているからな」


 お父様とロドリゲス様は二人連れ立って、立っている方向とは真逆にある家へ通じるドアへと去っていった。


 「さて、では私はお嬢様の後ろで待機しています。何かございましたらお声掛けください」


 どこまでも命令に忠実らしい。私の隣で道案内してくれるかと思ったが、目を閉じるともういなくなっていた。
 流石に『いつもの場所』とやらをジェラールに質問するのは奇妙に思うに違いない。
 王子と会うまでに気持ちを作っておきたい。少し庭園を見て回って心を落ち着けよう。


 「ええ、ではまた後で」


 にこりとジェラールへ笑みを浮かべ、庭園の入り口にある連なったアーチを潜っていく。
 ジェラールは後ろから離れてついてくると行っているし、いくら広い庭園とはいえ家の外へ出てしまうということもない。安心して探索することができる。



 そうだ、さっき見えた天使の噴水を見に行こう!!



 上機嫌になっててくてくと左奥の方角へ道なりに歩いていくと、案外早く到着することができた。キラキラと光を反射する噴水の土台に腰掛けて鑑賞してみる。


 今日は本当にいい天気。実にいい小春日「だからついてくるなと言ってるだろうシルヴァン!」和だ、な……。





 …………今のは幻「お待ちください殿下!」聴……。




 ………………………何も聞こえない、聞こえないったら聞こえない。





 耳を抑えて、来た道を戻ろうとすると、がしりと両肩を掴まれた。


 「いけませんよ、お嬢様。お待たせしてからお時間がどれほど経ったことでしょう。これ以上お待たせしてはなりません」


 「ジェ、ジェラール。今日は、体調が優れないから、お部屋に帰ろうと思って」


 「ですから、今からその体調を治しに行くのです。王子はお嬢様の運命の相手だと前々から仰られていましたし、これで安心できますね?さぁ、参りましょう」



 暖簾に腕押し状態で頭の中はパニックである。

 こんなに押しがが強い性格だったっけ?!



 「ちょ、ちょっと待って押されると危ない。――」

 そう思った矢先、噴水の影から何者かが、迫ってきていた。



 「殿下!!」
 「お嬢様!?」



 ドンッ!!!

 肩にぶつかる衝撃を感じると私は空中に浮いていた。

 

 ……浮いてる?



 「えっ」



 落ちるッ。――



 「危ないっ」



 水面に近づくよりも早く、金色のカフリンクスが眼前いっぱいに広がった。



 バッシャーンッ。



 ボタボタと落ちる水の追撃に抵抗できるわけもなく、私と、金色のカフリンクスはびしょびしょに濡れてしまった。





 「――殿下め。謝りもせずに逃げるとは。……おい、無事か? 」





 そう問いかけてくるのは金色のカフリンクス。ではなく。
 声のする頭上を見上げてみると、助けてくれた青年と、目があった。



 ドクン。


 なんだこれ。


 ドクンドクン。



 心臓が、掴まれているみたいに痛い。――




 ドクンドクンドクン。




 「おい?、 おい大丈夫か!? おい!!―–」




 私の意識はそこでブラックアウトした。






 …………から。悪かったと言っている! そのように怒気を強めて仰られては謝ったとは言えません。それに私ではなく彼女にきちんと顔を合わせて、謝罪をするのが大切なのです。お前のその上からの物言いが気に食わんと言っているのだッ! では、殿下は女性を噴水に突き落とした挙句謝ることも出来ない皇太子なのだということを社交界で噂されるのがよろしいでしょう――ッ! 貴様ッ…………





 煩い。


 ものすっごく煩い。


 誰だよもう。人が気持ちよく寝てるっていうのに。一言文句を言ってやらねば。



 眠っていたフィアンナが目が覚ましたのは白と黒の薔薇が咲き誇る魅惑の園庭、その茶会会場のど真ん中だった。



 布団代わりに掛けられた誰かの背広が、ずるりと体から落ちていく。



 「あ!お、お嬢様が目を覚まされました!!」



 違う、この声じゃない。


 どこだ。


 寝ぼけた頭で半目になり、睡眠妨害をする声の主を探す。
 
 
 近くから聞こえたぞ。



 「お嬢様?」


 どこだ。不届き者めと、睡眠を邪魔されたことでより一層苛立ちが募る。


 どこだ、どっちだ。


 起きたかと思うと座っていた椅子から降りて、唐突にきょろきょろと何かを探し出すフィアンナに周りの人々はあっけにとられ、声をかけることもかなわない。


 「―–少し年上だからと、大目に見てきたが今日という今日はもう許さんぞッ!! 父上に言いつけてお前を宰相の座から引き摺り下ろしてやるッ!! 」


 「ええ、ええ。ぜひそうなさるといい。あなたが陛下に取りなすところを私は陛下と一緒に拝見いたしますゆえ。楽しみですね? わざわざ陛下のお耳にご自身の汚辱を説明なさるとは。私には出来そうもございません」


 こっちか。


 ぎゃあぎゃあと騒ぐ大小の物体へと歩を進める。


 「お、お嬢様。お待ちください! そちらには――! 」


 あぁ、もう!
 煩い煩い煩い!


 後ろからついてくる高い声も大小の金切り声を話す物体も。



 何て煩わしいのだろう!


 歩く歩く歩く。


 
 引きずるようにして歩いた足は重く、辛い作業だかこの騒音が止むのならばそれもしょうがない。



 ピタリと止まった先には、未だぎゃあぎゃあと喧しく、こちらに気づいていない物体たちがいた。


 「――煩いッ!! オマエなんかッ――」



 ようやく、その物体たちに物申す時が来たのだ。


 「ぎゃあぎゃあと喧しいッ! 人様に迷惑をかけてるのが分からんのかッ!!!」


 そう一喝するやいなや、辺りはしんと静まりかえった。



 「ぐだぐだぐだぐだ、と。同じことを何回も話してよく飽きないものですね?! そこの貴方ッ!!」



 こういう輩はきっちりつけを払わせなければいけない。そう思った私は小さい物体をびしりと指差す。
 すると狼狽した小さい物体はまたもぎゃあぎゃあと反論してくる。


 「なッ――ど、どこの誰に口をきいていると――」


 「うるさいわね! さっきから聴いていれば、完全に貴方が悪いでしょう!! 話す言葉は一丁前なくせに女性一人に頭も下げられないなんてどうなっているのよ! しかも、そこの大きいのが貴方ののためを思って言っているのが分からないわけ?! な~にが父上に言いつけるよ! 口喧嘩もまともにできないまぬけ! おかげで昼寝もできやしないわ!!」


 「まっ!? まぬけ……?!」




 言い返せないのが悔しいのかぶるぶると全身を震わせる小さい物体。

 その一方で言いたいことを言えた私は、スッキリした気分になった。

 もう一度昼寝をしに戻ろうとすると、後ろの小さい物体から声が掛けられる。




 「………………待て、貴様。この俺を。このルカ・レオミュールだと知っての狼藉であろうな? 公爵令嬢だからとて、容赦はせんぞ」





 …………………………いま、なんていった?





 ゆっくり。

 ゆっくり。ゆっくり。ゆっくり。

 振り返る。

 するとそこには。






  幼いころのルカ殿下と、若かりしシルヴァン宰相が立っていた。――




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