25 / 56
第二話 やさぐれ同心
⑨奉行所の同心とその下引きが春良を捕縛した
しおりを挟む
春良は来る度に何枚かの絵を描いた。
或る時、突然、帯を解かれた。障子を背にして立たされたお艶は、身体を着物で、顔を手で覆ったが、恥じらいの紅潮は隠せなかった。解かれた帯は足元に落ちていた。
描き上がった絵には、裸の女の恥じらいが逃さず浮き上がっていた。
それからお艶は着ている物をみんな剥ぎ取られて素っ裸にされた。
穴の開くほどに身体の隅々までをじい~っと執拗に値目回されたお艶は、羞恥で心も身体も熱くなって昂った。これまで男と寝る時にも感じたことの無かった羞恥だった。
色付けが始まってお艶の裸形がくっきりと浮き上がるに連れて、春良の貌に恍惚の色が濃くなって行った。お艶の瞳も身体も次第に潤んでいくようだった。
春良が荒々しくお艶を抱いた。
だが、春良は優しかった。押し寄せたり引き返したりして誘われ、お艶は次第に蕩けて行った。身も心も忽然と陶酔した。開いた秘所を繰り返し何度も舐め回されて、それだけで果てた。こんなことは初めてだった。銭や商売ではこれまで一度も無かったことだった。
お艶は何度も何度も登り詰めて、最後は狂い果てた。
「もう堪忍して・・・」
春良はいつも五日から七日ほどの間をおいてやって来た。続けて来ることも逗留することもなかった。お艶にとっては、来なければ来ないなりに、それでどうと言うことは無かった。絵を描いて身体を重ね、互いに昂り合っても、終わってしまえばそれまでだった。所詮、客と酌女の間柄だった。
今日もいつもの如くにお艶の絵を熱い眼で描いているように見えた春良が、突然に叫び出した。
「駄目だ!駄目だ、駄目だ、駄目だ!」
えっ、と眼を挙げたお艶の前で、春良はいきなり描き上げた絵を破り捨てた。
お艶は呆気にとられた。
暫く俯いて黙りこくっていた春良が、やおら再び絵筆を取り上げた。
お艶は、髷を解き洗い髪の如くに長く梳いて、肩まで垂らすことを求められた。言われるままに髪を垂らしたお艶は、行燈の前に袂を抱いてやや伏眼に横座った。
春良は黙って筆を走らせた。
お艶には、想い増す女に夜半の風が吹く風情が漂っていた。
仕上がった絵はこれまでのものとは全く違った雅趣があった。まるで天女のようだった。
春良の面には、心底、満足した表情が浮かんでいた。
「あら、もう帰るんですか?」
「うん。今日は良い絵が描けたので、その余韻に浸り乍らこのまま帰るよ」
「そうですか」
お艶は茶屋の上がりがまちで片手を突いて春良を送り出した。
だが、春良が茶屋の敷居を一歩跨いだ時、奉行所の同心とその下引きが春良を捕縛した。
「絵師の春良だな!」
はっとした春良に逃げる暇を与えないほどの恫喝するような鋭い一声だった。
春良はその場から番所へ引っ立てられた。
何事か、と表に出て来たお艶は、同心と眼を見交わした一瞬、これまでの男には無い何か異様なものを見た気がした。濃く太い眉の下に爛々と光る獲物を狙う寧猛な大きな眼、男はやさぐれ同心と評判の鬼頭だった。広い肩幅に締まった身体、黒い着流しにぶっちゃけ羽織、落とし差しに差した二本の大小、紫房の十手が夜目にも白く光っていた。お艶が嗅いだのは獣の臭いだった。瞬時に、自分とうまが合う男だということをも本能で察知した。
鬼頭もお艶に尋常でないものを見て取った。色白の稀有な美貌であるのに、あばずれの崩れが著しく、歳若に見えるのに熟れた色香が零れていた。この女は胸の中に何か澱のようなものを抱えて生きている、そう思った鬼頭は自分と同じ臭いを嗅ぎ取った。魔性の女に獣の男なら相性も良いだろう、鬼頭の思いもお艶と同じだった。
或る時、突然、帯を解かれた。障子を背にして立たされたお艶は、身体を着物で、顔を手で覆ったが、恥じらいの紅潮は隠せなかった。解かれた帯は足元に落ちていた。
描き上がった絵には、裸の女の恥じらいが逃さず浮き上がっていた。
それからお艶は着ている物をみんな剥ぎ取られて素っ裸にされた。
穴の開くほどに身体の隅々までをじい~っと執拗に値目回されたお艶は、羞恥で心も身体も熱くなって昂った。これまで男と寝る時にも感じたことの無かった羞恥だった。
色付けが始まってお艶の裸形がくっきりと浮き上がるに連れて、春良の貌に恍惚の色が濃くなって行った。お艶の瞳も身体も次第に潤んでいくようだった。
春良が荒々しくお艶を抱いた。
だが、春良は優しかった。押し寄せたり引き返したりして誘われ、お艶は次第に蕩けて行った。身も心も忽然と陶酔した。開いた秘所を繰り返し何度も舐め回されて、それだけで果てた。こんなことは初めてだった。銭や商売ではこれまで一度も無かったことだった。
お艶は何度も何度も登り詰めて、最後は狂い果てた。
「もう堪忍して・・・」
春良はいつも五日から七日ほどの間をおいてやって来た。続けて来ることも逗留することもなかった。お艶にとっては、来なければ来ないなりに、それでどうと言うことは無かった。絵を描いて身体を重ね、互いに昂り合っても、終わってしまえばそれまでだった。所詮、客と酌女の間柄だった。
今日もいつもの如くにお艶の絵を熱い眼で描いているように見えた春良が、突然に叫び出した。
「駄目だ!駄目だ、駄目だ、駄目だ!」
えっ、と眼を挙げたお艶の前で、春良はいきなり描き上げた絵を破り捨てた。
お艶は呆気にとられた。
暫く俯いて黙りこくっていた春良が、やおら再び絵筆を取り上げた。
お艶は、髷を解き洗い髪の如くに長く梳いて、肩まで垂らすことを求められた。言われるままに髪を垂らしたお艶は、行燈の前に袂を抱いてやや伏眼に横座った。
春良は黙って筆を走らせた。
お艶には、想い増す女に夜半の風が吹く風情が漂っていた。
仕上がった絵はこれまでのものとは全く違った雅趣があった。まるで天女のようだった。
春良の面には、心底、満足した表情が浮かんでいた。
「あら、もう帰るんですか?」
「うん。今日は良い絵が描けたので、その余韻に浸り乍らこのまま帰るよ」
「そうですか」
お艶は茶屋の上がりがまちで片手を突いて春良を送り出した。
だが、春良が茶屋の敷居を一歩跨いだ時、奉行所の同心とその下引きが春良を捕縛した。
「絵師の春良だな!」
はっとした春良に逃げる暇を与えないほどの恫喝するような鋭い一声だった。
春良はその場から番所へ引っ立てられた。
何事か、と表に出て来たお艶は、同心と眼を見交わした一瞬、これまでの男には無い何か異様なものを見た気がした。濃く太い眉の下に爛々と光る獲物を狙う寧猛な大きな眼、男はやさぐれ同心と評判の鬼頭だった。広い肩幅に締まった身体、黒い着流しにぶっちゃけ羽織、落とし差しに差した二本の大小、紫房の十手が夜目にも白く光っていた。お艶が嗅いだのは獣の臭いだった。瞬時に、自分とうまが合う男だということをも本能で察知した。
鬼頭もお艶に尋常でないものを見て取った。色白の稀有な美貌であるのに、あばずれの崩れが著しく、歳若に見えるのに熟れた色香が零れていた。この女は胸の中に何か澱のようなものを抱えて生きている、そう思った鬼頭は自分と同じ臭いを嗅ぎ取った。魔性の女に獣の男なら相性も良いだろう、鬼頭の思いもお艶と同じだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる