我ら同級生たち

相良武有

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第三話 ラガーマン、達哉

⑨「生きる」とは?

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 やがて、止め焼香が終わって愈々最後のお別れの儀となった。
棺の蓋が開けられ、家族や親族、親しい知人友人たちが棺の中へ華を手向け始めた。
若い達哉の死顔は凡そ死者のそれではなかった。頬の削げも眼の窪みも無く、鼻腔と耳に脱脂綿が詰められてはいたが、ただ眼を閉じて眠っているかの如くであった。
謙一と後藤も手渡された花を一本ずつその顔の横に置いてやった。
 出棺の準備が手際よく整って出発のクラクションが一鳴りし、霊柩車は恭しく動き出した。江梨子は達哉の姉に終始付き添われて後続車に乗って行った。謙一も後藤も深く頭を垂れて達哉を見送った。
 三々五々と帰りにつく途中で、後藤が言った。
「何かやり切れん気持だな。どうだ、みんなで精進落としに一盃飲らんか?」
「一盃呑むって、お前、未だ昼前だぞ」
「良いじゃないか。精進落としに昼も夜も無いよ。達哉の供養だ。なあ、一盃飲ろうや」
五、六人が賛同して事は決まった。
早速に後藤がスマホを取り出して馴染みの店へ予約を入れた。
後藤が案内したのは駅ホテルの二階に在る大きな日本料理の店だった。
テーブル式の和風の個室で静かな宴は始まった。
誰かが、先ず乾杯しようか、と言ったのを後藤が制した。
「一寸待てよ、これは達哉への供養の精進落としだ。乾杯は拙いぞ、献杯だぞ」
「あっ、そうか」
謙一は、流石、後藤だな、もう一端の社会人だ、と改めて思った。
静かにではあったが、懐かしい級友たちの集まりで宴は愉しく進んだ。
「それにしても、人間の生命って危ういものだな。ラグビーのスクラムに押し潰されて首の骨が折れ、あっけなく死んでしまうのだからな」
「然し、達哉は二十二年間、時間の中を走り抜けるようにして生きて来ただろう。思い残すことややり残したことは在ったかも知れないけど、中身は充実して濃蜜だったのじゃないか」
「それにあんな綺麗な年上の人にも出逢えたのだし、可愛い純な年下の恋人にも愛されたんだから、きっと幸せだったと私は思うわよ」
「そうだな、人間、生きている時間じゃ無くて、何を思い、何をしたかが問題なのだな。如何に納得した充実感を持ち乍ら生きるかが重要なのだと俺も思うよ」
謙一が言った。
「あいつは俺たちに、生きる、ってことを教えてくれたんだ」
「生きる、って?」 
「自分の信じるものに向かって闘い続けることが生きるということだ、ってな」
達哉よ、後ろ髪を引かれることはあっても、悔いは残すなよ!
謙一は心の中で達哉の冥福を祈った。
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