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無意識のカウンター
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今更ながら思い知らされる。海南高校の「怪物」とは有栖のことではない。
一見すればどこにでもいる女子高生にしか見えない芹沢薫子こそが、底の知れない真の怪物なのだ。
有栖の攻撃から感じた、あの不可解な「もやっと感」は一体何なのか?
オカルトマニアである御影の指摘により、その「圧」の正体が中国武術における「気」に関連している可能性に辿り着いた。
さらに格闘技ライターの春崎さんからもたらされた情報は、その裏付けとなった。俺の祖父・鵜飼貞夫の空手のルーツである「大気拳」には、確かに「気の鍛錬」が存在していたのだ。
俺が未惟奈の光速の攻撃を捌ける理由――それは、無意識のうちに彼女が放つ「気の圧」を察知していたからに他ならない。
そしてそれを可能にしたのは、俺自身が「大気拳」の稽古を通じて、無自覚に「気」のトレーニングを積んできたからだという推論が、今や確信に変わりつつあった。
現に、俺の身体は理屈よりも先にその「もやっと」した感覚に反応し、有栖の猛攻を完璧に凌いでみせた。
ただ、どうしても拭えない不気味さがあった。俺たちが探っていたはずの「答え」を、なぜ有栖との対戦中にこれほど鮮明に「体験」させられているのか。
これは単なる偶然か?
いや、どうしても芹沢が描いた筋書きのような気がしてならなかった。
しかし。
今の俺には、そんな思索に耽っている余裕など一秒たりともない。
タイムアップまであと一分半。目の前の有栖と対峙し続けなければならないのだ。
芹沢への疑念は一旦棚上げし、今は眼前の戦いに全神経を注ぐことに決めた。
俺の望みはただ一つ。残り時間を待つまでもなく、有栖をマットに沈めることだ。
有栖はその後も、俺の攻撃に対して的確なカウンターを合わせるべく、鋭く重たい単発攻撃を執拗に繰り返してきた。
当初は無謀に見えたその一撃も、次第に精度を増していく。そればかりか、単発だった反撃は二発、三発と連撃へと進化していった。
そして、その連撃のすべてに、例の「妙な圧」が乗っている。
有栖の攻撃が、この戦いの中でリアルタイムに進化しているように見えた。
その驚異的な適応力は、話をするとずいぶん残念な有栖ではあるが、「天才」の名にふさわしいものだった。
だが、奇妙なことに、一撃ごとに増していくその「圧」こそが、俺にとってはむしろ攻略の糸口となっていた。
かつて未惟奈を相手にした時と同じだ。思考を介するより早く、俺の身体が勝手に反応してくれる。
ここまでくれば、もはや頭で考える必要はない。ただ肉体の反射にすべてを委ねればいい。
以前は「未惟奈の圧が特別に強いからできること」だと思い込んでいた。
だが今の有栖は、未惟奈とは質の違う圧を放ちながらも、確実に俺の探知網にかかっている。俺は、彼女の攻撃を無意識の領域で捌ききれると確信した。
自身の反応だけを信じ、無心の境地で身体を躍動させる。
はたして――。
それからわずか十秒後のことだった。
有栖の身体が、音を立てるように前のめりに崩れ落ちた。
予感通り、俺の身体は有栖の攻撃をほぼ無意識的に捌ききっていた。
そして最後は、回転系の大技を得意とする有栖のお株を奪うような一撃――。鮮やかな上段後ろ回し蹴りが、彼女の顎を的確に捉えた。
有栖が膝を突く。
俺は前半の三十秒で見切っていた。有栖が僅かに左の回し蹴りを苦手としていることを。
だから俺は、そこに狙いを定め、有栖のカウンターへさらに完璧なタイミングでカウンターを合わせたのだ。
ほぼ同時に放たれた攻撃。だが、コンマ数秒の差で俺の踵が先に有栖の顎を打ち抜いた。
たとえ体重差があろうとも、遠心力を乗せた踵が急所にヒットすれば、その衝撃は容易に脳を揺さぶる。
静まり返っていた道場内に、一拍遅れてどよめきが沸き起こった。
はたして、有栖から感じた「妙な圧」の正体とは一体何だったのか。
その答えは、後でじっくりと芹沢の口から聞き出す必要があるだろう。
一見すればどこにでもいる女子高生にしか見えない芹沢薫子こそが、底の知れない真の怪物なのだ。
有栖の攻撃から感じた、あの不可解な「もやっと感」は一体何なのか?
オカルトマニアである御影の指摘により、その「圧」の正体が中国武術における「気」に関連している可能性に辿り着いた。
さらに格闘技ライターの春崎さんからもたらされた情報は、その裏付けとなった。俺の祖父・鵜飼貞夫の空手のルーツである「大気拳」には、確かに「気の鍛錬」が存在していたのだ。
俺が未惟奈の光速の攻撃を捌ける理由――それは、無意識のうちに彼女が放つ「気の圧」を察知していたからに他ならない。
そしてそれを可能にしたのは、俺自身が「大気拳」の稽古を通じて、無自覚に「気」のトレーニングを積んできたからだという推論が、今や確信に変わりつつあった。
現に、俺の身体は理屈よりも先にその「もやっと」した感覚に反応し、有栖の猛攻を完璧に凌いでみせた。
ただ、どうしても拭えない不気味さがあった。俺たちが探っていたはずの「答え」を、なぜ有栖との対戦中にこれほど鮮明に「体験」させられているのか。
これは単なる偶然か?
いや、どうしても芹沢が描いた筋書きのような気がしてならなかった。
しかし。
今の俺には、そんな思索に耽っている余裕など一秒たりともない。
タイムアップまであと一分半。目の前の有栖と対峙し続けなければならないのだ。
芹沢への疑念は一旦棚上げし、今は眼前の戦いに全神経を注ぐことに決めた。
俺の望みはただ一つ。残り時間を待つまでもなく、有栖をマットに沈めることだ。
有栖はその後も、俺の攻撃に対して的確なカウンターを合わせるべく、鋭く重たい単発攻撃を執拗に繰り返してきた。
当初は無謀に見えたその一撃も、次第に精度を増していく。そればかりか、単発だった反撃は二発、三発と連撃へと進化していった。
そして、その連撃のすべてに、例の「妙な圧」が乗っている。
有栖の攻撃が、この戦いの中でリアルタイムに進化しているように見えた。
その驚異的な適応力は、話をするとずいぶん残念な有栖ではあるが、「天才」の名にふさわしいものだった。
だが、奇妙なことに、一撃ごとに増していくその「圧」こそが、俺にとってはむしろ攻略の糸口となっていた。
かつて未惟奈を相手にした時と同じだ。思考を介するより早く、俺の身体が勝手に反応してくれる。
ここまでくれば、もはや頭で考える必要はない。ただ肉体の反射にすべてを委ねればいい。
以前は「未惟奈の圧が特別に強いからできること」だと思い込んでいた。
だが今の有栖は、未惟奈とは質の違う圧を放ちながらも、確実に俺の探知網にかかっている。俺は、彼女の攻撃を無意識の領域で捌ききれると確信した。
自身の反応だけを信じ、無心の境地で身体を躍動させる。
はたして――。
それからわずか十秒後のことだった。
有栖の身体が、音を立てるように前のめりに崩れ落ちた。
予感通り、俺の身体は有栖の攻撃をほぼ無意識的に捌ききっていた。
そして最後は、回転系の大技を得意とする有栖のお株を奪うような一撃――。鮮やかな上段後ろ回し蹴りが、彼女の顎を的確に捉えた。
有栖が膝を突く。
俺は前半の三十秒で見切っていた。有栖が僅かに左の回し蹴りを苦手としていることを。
だから俺は、そこに狙いを定め、有栖のカウンターへさらに完璧なタイミングでカウンターを合わせたのだ。
ほぼ同時に放たれた攻撃。だが、コンマ数秒の差で俺の踵が先に有栖の顎を打ち抜いた。
たとえ体重差があろうとも、遠心力を乗せた踵が急所にヒットすれば、その衝撃は容易に脳を揺さぶる。
静まり返っていた道場内に、一拍遅れてどよめきが沸き起こった。
はたして、有栖から感じた「妙な圧」の正体とは一体何だったのか。
その答えは、後でじっくりと芹沢の口から聞き出す必要があるだろう。
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