【天才アスリート少女】普通男子と天才少女の物語【普通男子の武道家】

里見 亮和

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あらたな学びの予感

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「ちょっと!!いい加減にしなさいよ!!」

 未惟奈がついに”我慢ならず”といった様相で、芹沢に食って掛かった。

 未惟奈がこれほど激昂したのは、ファミリーレストランでの打ち合わせが原因だった。

 春崎さん、芹沢、未惟奈、美影、そして俺という五人のミーティングが終盤に差し掛かったころ、芹沢が俺にある申し出をしたのだ。

 *  *  *

「神沼君?今後のあなたの成長を考えるなら、私の中国武術――つまり大成拳をしっかり学んでおくほうがいいと思うのだけど」

「え?俺が大成拳を?」

「そうよ。だってあなたの祖父、鵜飼貞夫は澤井健一から”しっかりと”大気拳を学んだんでしょ?」

「そうですけど、俺だって祖父からその技術は受け継いでいるはずです」

「甘いわね」

「あ、甘い!?」

「そう……あなたの技術はどこまでいっても空手なのよ。だから中国武術としてのスキルはぜんぜん」

「いや、それでいいじゃないですか?俺は空手の技術を極めることこそに興味があるわけだから」

「でも……ここからは私の想像なんだけど、きっと鵜飼貞夫は大気拳の技術をしっかりと習得している。でも、その技術を神沼君にはあまり伝えていない。それがあなたの師匠、鵜飼貞夫との決定的な違い」

「え?そんなバカな」

「正直、私は神沼君の動きを見て、私から攻防技術について教えることは全くないと思ったわ。でも、気のコントロールについては神沼君の師である鵜飼貞夫に比べると全然だわ」

「全然だって!?せ、芹沢先生は祖父の試合を見たことあるんですか?」

「それはあるわよ。動画だって検索すれば沢山出てくるじゃない?」

「ま、まあ、そうですけど……」

「ちょっと!!いい加減にしなさいよ!!」

 ここまで黙っていた未惟奈がついに声を荒らげた。

 *  *  *

「未惟奈さん?そんなに怒らないでね。よかったらあなたも一緒でもいいのよ?」

 芹沢はこうした未惟奈の反応を、あらかじめ読んでいたのだろう。

 まるで用意していたかのようにするりと、そして少し揶揄するように言った。

「な、なんで私まで……」

 一瞬、未惟奈が赤面して怯んでしまった。

 やはり、ここは芹沢が一枚上手だ。

「フフフ……未惟奈ちゃん?この話、実は私も賛成なの」

 今度は春崎さんがそう言ったので、俺は驚いた。

 まさか春崎さんとも、すでに話がついているのか?

「いやいや、春崎さん。あなたは俺に一体何を期待しているんですか?」

「そんなこと決まってるじゃない」

「え?決まってる?どういうことですか?」

「私は翔君に……いえ、翔君と未惟奈ちゃんに、空手が世界一だってことを証明してほしいのよ」

「はあ?世界?……未惟奈はともかく、俺は普通の高校生ですよ?そこ、忘れてませんか?」

「あなたが普通の高校生なわけないでしょ!?」

 春崎さんは急に真面目な顔になり、俺を射抜くような真剣な眼差しを返してきた。

 俺はその迫力に気圧され、言葉に詰まってしまう。

 すると、未惟奈が助け舟を出すように言葉を繋いでくれた。

「春崎さん?空手が世界一だと証明すると言いながら、翔を強くするために中国武術を学ぶっていうのはおかしくないですか?」

 そうだ、俺も同じことを思った。

 個人を成長させるためというなら理解できるが、芹沢の技を学べば、俺の技術は純粋な空手から離れていく可能性だってある。

「それは違うと思うわよ。翔君はもう、何を学んでも空手にしかならない。もうそういうベースが、できすぎるくらいにできているの。だから翔君がどんな武道や格闘技を学ぼうと、”空手の技術として”取り入れることができる。きっとそれができるのは翔君しかいないと思ったからこそ、期待しているのよ」

「え、えっと……なんか、俺を買いかぶりすぎてはいませんか?」

「そんなわけないでしょ。あなた、さっき”俺は普通だ”って言ったわよね?ウィリス未惟奈が全く歯が立たないあなたが、どうして”普通”なのよ?」

 そう言った春崎さんは、心底呆れたような顔をした。

 確かに事実だけを並べるとそうなってしまうのだが、俺自身の感覚としては、あくまで努力によってようやく獲得した技術であり、自分は凡才に過ぎないという思いが強いのだ。

「でも、春崎さんはともかく、このおん……いや、芹沢が翔に技を教えるメリットは何なのよ?」

 未惟奈は”この女”と言いかけたが、俺からギロリと睨まれたので”芹沢”と言い換えた。

 呼び捨てかよ、と心の中でツッコミを入れつつも、彼女が俺の聞きたかったことを代弁してくれたので、俺も芹沢の答えを待った。

「私、あなたに私の技のすべてを伝えて、もうこの世界から解放されたいのよ」

「は?なんですかそれ?なんで俺なんですか?別に誰だっていいじゃないですか。まさかケンシロウのように、選ばれし者に一子相伝、なんて話じゃないでしょう?」

「ええ、もちろんそんな大げさな話ではないんだけど。祖母……つまり私の師なんだけど、その祖母の遺言が『Sawai Kenichiの弟子に伝えてほしい』だったのよ」

「は?俺、澤井健一の直弟子じゃないんだけど?」

「いいのよ、そこは」

「いや、よくないでしょ?」

「いいの。私はむしろ、鵜飼貞夫という天才によって進化した技を継承するあなたこそ、適任だと思ってずっと探していたんだから」

 え?俺を探していた!?

「やっぱあんた、知ってて翔に近づいたのね!?」

 未惟奈の形相がますます険しくなる。

「有栖君が未惟奈さんへのリベンジで近づくというストーリーは表向きの理由で、本当の目的は”神沼君”だったの」

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。もう一度言いますけど、春崎さんにしても芹沢先生にしても、俺を買いかぶりすぎです」

 俺はとんでもないことに巻き込まれそうな不安に駆られ、必死に抵抗した。

 そんな狼狽する俺を見て、美影が不意に会話に割って入ってきた。

「神沼。もう”普通”なんて逃げ場は、そろそろ捨てたほうがいいぞ」

「お、おい美影!勝手なこと言うな!!」

 そう返したものの、本質を見抜かれたようで俺はますます動揺した。

「そうよ、翔君」

「そうよ、神沼君」

 すると、そんな俺の様子を見た春崎さんと芹沢が声を揃えて言った。

「もう、逃がさないからね!!」
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