【天才アスリート少女】普通男子と天才少女の物語【普通男子の武道家】

里見 亮和

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二人とふたりの関係

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「伊波さん、未惟奈来るそうです」

「え!?え!?……やっぱ、未惟奈さんこの高校に通ってるんですね!?」

彼女は、それまでみせていたような控えめだった声音からは想像もできないような大声を出した。

彼女は未惟奈がこの高校に通っているかどうかの探りを入れていただけだから、俺がその返事を飛び越えて”未惟奈が来る”なんて答えが返ってくるとはさすがに想像できていなかっただろう。

想像するに彼女の訪問は、未惟奈がこの高校に通っていることすら曖昧な状態で「ダメ元」で突撃してきたに違いない。

そんなことを”こそこそ”とする目的はなんなんだ?

俺はますます不信感を強めた。

そして俺は「未惟奈を呼んであげた」功として(まあ、実際は未惟奈が勝手に来るだけなのだが)それを聞く権利はあるだろうと少し踏み込んでみることにした。

「今日はどうして未惟奈を訪ねてきたんですか?」

「えっと……、あなたは未惟奈さんとどういう関係ですか?もしかして彼氏ですか?」

「はあ!?」

いきなり”彼氏ですか”などとぶっこまれて、俺はたじろいでしまった。

さすが天才ファイター、ファーストコンタクト強すぎ。

「だって……えっと、あなたの名前は」

しまった!

俺としたことが名乗るのを忘れていた。

美影がいたら厳しいご指導賜るところだった。

「ああっとゴメン。俺は北辰高校に通う一年生の神沼翔といいます」

「翔さん」

っていきなり名前呼びかよ?

こういう一見、人見知りに見せといて男女の関係ではぐいぐいくるタイプに男って弱いんだよね。

なんかこれだけでドキリとしてしまう自分が情けない。

「翔さんは、未惟奈さんと個人的に連絡取れる間柄なんですよね?」

「まあ、そうだけど付き合ってなくても連絡先ぐらいは交換するだろ?」

「え?だって相手はあのウィリス未惟奈ですよ?簡単に個人情報出さないんじゃないですか?特に男子には?」

「いや、そんなことは……」

とそこまで言って、言葉が止まってしまった。

確かにそうかもしれない。

あの未惟奈にやすやすと個人的な連絡先を聞きに行ける勇気のある男子はそうそういない気がする。

もちろん未惟奈が同じクラスメートと普通に話をしている姿は目にすることは多くあるが、例えば男子と二人で歩く姿なんて見たこともないし、もっと言えば想像すらできない。

連絡先の交換は最初に未惟奈から強引にさせられのであって、俺だって普通なら世界のスーパースターに自分から聞きに行ったりはしないだろう。

ましてや毎日一緒に下校する関係というのは、俺と未惟奈の間に「空手」という接点があるにしても”はたから見たら”とても普通の関係に見えない。

そしてその関係性を簡単に説明できる自信もない。

「まあ、普通の友達だよ」

だから俺は相手が納得しないのは十分分かっていたがそんなありきたりのセンテンスで言葉を濁した。

「まあ、いいですけど……それで未惟奈さんはまだ校内ですか?」

伊波も納得はしていないのはありありと分かったが、話を進めてくれた。

「いいや、今日はパーソナルトレーニングの日だからジムに直行しているよ」

「へえ、詳しいんですね」

「だから、そういう詮索は」

俺は流石にちょっと怒気を込めて言った。

天才ムエタイ少女とは言えやっぱり女子高生となれば”コイバナ”には興味あるのだろうか?

なんかさっきの控えめな雰囲気とは打って変わって興味津々で突っ込みが激しくなっている。

だからここらでその勢いを削いでおく必要があった。

って格闘技の戦術みないになってるじゃん?

もういきなりなんの戦いがはじまってんだよ。

「ああ、ゴメンなさい。ついつい未惟奈さんのことになると」

今の感じだとライバルとしてというよりは”ファンとして”というニュアンスを含んでいるように感じた。

確かに春崎さんに見せてもらった映像で”怒りの矛先”が向いていたのは芹沢だった。

もしかすると”未惟奈さんでなくさえない男子なの?”という怒りだったという可能性もあるのか。

「ちょっと私から提案があるんですけど……」

「え?提案?なんの?」

なんかやな予感がするな。

この流れで言ったらどうせ未惟奈と”お手合わせしたい”という類に決まっている。

だから俺は眉間に皺を寄せ”迷惑な話はやめてね?”という未惟奈のマネージャーばりに拒絶の表情を顕にそう答えた。

「いや……あの……どうせなら、未惟奈さんのジムに行きませんか?」

言い方はいたって控えめだが、俺の不快な表情をものともせずに言いたい事だけは言い切るメンタルの強さ。

やっぱり外見のおとなしさに惑わされてはいけないな。

どんなに普通の女子高生に見えてもこの娘は世界を取るムエタイ戦士だ。

「さすがに俺はそれを決める立場にいないけど、いきなり訪ねてきてジム訪問は流石に不躾すぎるんじゃないか?」

だったら俺も言いたいことははっきり言う。

未惟奈がいるともわからず凸して、ここでまた未惟奈とプライベートで手合わせするなんてありえない。

未惟奈は曲がりなりにも国民的スターだし、この娘だって格闘技界では一目もおかれる天才ファイターだ。

そんな安易なことじゃすまされない。

とはいえもちろん俺がそれをジャッジする立場にだっていない。

さっき自分で言ったように俺は未惟奈の彼女でもないし、しいて言えばちょっと近しい友人でしかない。

だったら俺の取るべき行動は一つだ。

彼女の言動をそのまま未惟奈に伝えるだけだ。

「ちょっと待ってね。一応本人に確認させてもらっていい」

「あ、はい。そうしてもらえると助かります」

まんまと伊波の思い通りに動いてしまっているようであまり気分はよくないが、俺は再度未惟奈にスマホから連絡をした。

「あれ?また翔?いま支度しているから、もうちょっと待ってて」

さっきは切れ気味にブッチリと通話を切った割に、もう素に戻っている。

まあえてして切れやすい人って回復も早いよね。

「ああ、未惟奈。そのことなんだけどさ……伊波さんが未惟奈のジムに行きたがってるんだけど?」

俺は言外に「なんかこの娘、無茶行って困ってるんだよ」というニュアンスを含ませた。

「ああ、それいいね。そのほうが話が早い」

「おいおい!いいのかよ?」

「え?だって彼女に会う意味なんて”手合わせする”以外にあるの?」

な、なにを言ってるんだ未惟奈は?

自分の立場をわかってんのか?

ただ言われてみれば、確かにわざわざ未惟奈が伊波に会う理由はそれ以外にはないのだ。

普通にあって「ファンです~」と伊波から握手を求めに岩手県の田舎までくるはずがない。

むしろ、ファンが会いに来たというだけなら未惟奈だってパーソナルトレーニングを中断してまで伊波に会おうとはしないだろう。

俺は苦々しく口をゆがめつつも、ここは未惟奈の意思を尊重するしかないと悟った。

「伊波さん?未惟奈から了解を得たから……これから未惟奈のいるジムに向かいましょうか」

この時、伊波の口角が小さく上がったのを見逃さなかった。

そしてそれが、今までとは全く違う顔の表情を作り出していた。
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