兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女

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気づいた気持ち

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日が傾きかけた頃、クロエ様とお話を終えた姉様が帰ってこられました。

「中庭にいって、ゆっくり話しましょう」
「はい、姉様」

私は彼女に導かれるまま、中庭の東屋に腰かけました。
小ぶりで様々な色の薔薇が並ぶ花壇を眺めながら、久しぶりに姉様と二人だけでお話しました。

「早速本題に移るわね。あのタリスマン、やっぱり送っておいてくれて助かったわ。ありがとうね」
「迷惑、かけてない?」
「いいえ、ライラ。偽証の強要は立派な犯罪よ。身分のある人間なら尚更、ね。もうあんな奴のこと身内とも呼びたくないのだけれどねえ?」

ハン、と鼻を鳴らして顔を歪ませる。
姉様が誰のことを言っているのかは自明の理だ。

「それにね、件の聖女の周りには怪しい動きがあるって疑う人間がいたのよ。サブリナ様の婚約破棄以前からね。あまりにも首ったけで、聖女中心に動きすぎているっていうわけでね」
「そうだったんですね」
「騎士団の事や事情もあるから、目立って動けなかったんだけれどね。そのせいであなたを孤独にさせてしまったわ。本当に遅くなってごめんなさい」
「謝らないで姉様、私――」
「……思えば、父も母も、そして私も、ライラにずっと甘えていたわ。
あなたが優秀でいい子だからって、体の弱いデイヴィッドを優先して誕生日を一人で過ごさせさせたりしたこともあったり、今回だってそうよ。そのせいで、あんな……」

姉様は、あんな昔のことを気にかけていてくれていたんだ。
私はずっと仕方ないって思っていたのに。
今にもまた泣きそうな姉様をみて、私は何も言えなくなっていた。

「だからね? もし望みがあるなら何でも言ってちょうだい。今頃遅いかもしれないけど、出来る事なら何でもするから」

そう言って姉様は私の手を取った。
冷血な女と言われているが姉様の手は滑らかでとても温かい。愛情の深さを感じる手の平だ。

「もしもね、王都に戻りたいのなら、もう決してあの愚弟の好きにはさせないわ。私が留守だとしても、リーマスがいるしね」

リーマス様。姉様の夫であり、コーデル家の婿養子になった、侯爵令息だ。
外交官として優秀な一家の生まれであり、国内外の情報や心理学に長けた殿方だ。
彼の家は教皇様との繋がりもあり、王家も大きく出れないだろう。姉様の庇護下に行けば、次は兄様たちに虐げられることも無く過ごせるだろう。

でも、それはここから離れることを意味している。
仮にデイヴィッド兄様とクロエ様の婚約がなくなり、私をヒューゴ様の婚約関係が続行することなったとしてもしばらくは彼と離れてしまう事になる。

そう考えた瞬間、心臓に針で突かれたような痛みが走る。
チク、チクと冷たい鉄の針で何度も何度も貫かれていくようだ。

「いや、です」

思わず、そんな声が出た。
いてもたってもいられずに、傷ついた心から溢れていくままに言葉が出てくる。

「私はここを離れたくないです。
八歳の誕生日。あの人は初めて会った時から、私が悲しんでると、すぐに気づいてくれたから。ほんとは寂しかった時、ヒューゴ様だけは私を励ましてくれるっていってくれたから。
あのお方と、結婚できるかもって言われた時、すごく嬉しかったんです。あのデイヴィッド兄様にも感謝しているくらいです。
だから、もっともっと、ここでヒューゴ様のこと知りたいんです。そして私のことも知って欲しい。そうやって、ずっと生きていきたいんです。夫婦としてっ。
姉様、だからね、私はここに残ります。私自身の意思で」

そこまで言うと、ようやく顔を上げて姉様を見た。
少し困ったように眉尻を下げて、彼女は笑っていた。

「……そう言われると、耳が痛いわ。
それに、もうすっかりライラは大人なのね。好きな男性の側にいたいって、はっきり言えるだなんて」
「え」

姉様の言っている意味がわかるまで時間がかかった。
……好き? 私が、ヒューゴ様を?
瞬間、顔が熱くなって消えてしまいたいくらい恥ずかしくなる。
確かにヒューゴ様は決められた婚約者であることを誇らしく思える程に素晴らしいお方よ? 健康そのもので、豊かな知恵を持っていらっしゃる。そして何より人柄がいい。その筋骨隆々で背の高いお体のように、広く、優しい心を持っている。
でも男性として好きだなんて、そうハッキリ言われると……ああ、体から火が出そう。

「ライラ」
「は、はい」

姉様は私の肩に手を置いた。

「後は安心して姉様に任せてちょうだい。あの馬鹿の始末は、私たちがつけるから。あなたはここでゆっくり過ごしてね」

その目は鋭く光を放っていた。
姉様は、本気だ。
彼女は全力で兄様に、そして彼と共犯である王太子殿下たちに挑もうとしている。あの完璧な仕事でおなじみの姉様だ。絶対に勝利する確信があるのだろう。

そして姉様はその後すぐに最速の馬車で王都に向かった。

「ロザムンデから聞いているだろうが、後の事は全部私たちに任せてくれ。君は何も気に留める事はないからな」

彼女を見送ったクロエ様も、姉様のように誇らしげに笑っている。
彼女たちは、一体何をお話ししたのでしょう……?


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