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十一章
しおりを挟むかくして、オレと玄二は恋人という関係になれた。
個人的な事だし、オレとしては『クライシス』の皆には内緒にしようと思ったが、集会が始まって早々玄二がオレの手を引いて大声で宣言した。
「三番隊副隊長、阿古屋玄二は! 隊長の松葉潮とお付き合いしてます! 以後、二人のことをよろしくお願いします!」
始めて深々と頭を下げる玄二に、オレも遅れて「よろしくお願いします」と頭を下げた。
しばらく沈黙が流れる。
それを最初に破ったのはミキだった。
「なんだよ~。先越しやがってよぉ。オレだってヨメいるってまだ皆にいってねぇのにっ」
膨れっ面でそう言う彼は、その腕にルイの体を引き寄せていた。
え……まさかミキのヨメって、ルイ?
「隠してるつもりだったのかよ。お前も玄二も」
「今更言ってくるとかウケる~。そんな事みぃんな知ってたけどぉ?」
「ヨメ持つとそこまでおめでたい脳ミソになるんだな」
カズはそう言って溜め息を吐き、太雅はニヤニヤと笑い、星雅は呆れていた。
しかし皆はオレたちを拒絶したり軽蔑したりはしていなかった。
「まあ、お前らがどういう関係になったとしてもオレらの仲間だってことには変わりはねえよ。ミキ、ルイ、ウッシー、それと玄二。これからもよろしくな」
「別れたらこじれそうだし、まあ仲良くやってよね~」
「兄貴毒舌ぅ~」
別に特別扱いすることなく、皆はオレたちを受け入れてくれた。
ああ、本当にいい仲間だ。
玄二も「よかったな」と言ってくれているし、ミキは……もう堂々とルイに抱きついてる。ルイも満面の笑みだ。幸せそうだな……。
なんやかんやで集会は終わった。
「玄二ー、ちょっとウッシー借りてくぞ」
「なんで……?」
「そんな睨まなくたってすぐ返すよ。ほら、ちょっとツラ貸して」
「お、おう。ごめんな、すぐ帰るわ」
「ん、わかったよ」
ミキとオレとではあまりに態度が違いすぎる。そんな玄二に見送られながら、オレはミキに連れられるままアジトの裏口に出た。
「ぶっちゃけさ、ウッシー。ヤる時どうしてる?」
「……ヤる」
「ヤるっつったら一つしかねえじゃん! セックスだよセックス!」
「ばっ! バカ! 何言ってんだよイキナリ!」
大声でとんでもないことを言うミキの口を思わず手で封じる。
「ぷへっ……何言ってるはこっちのセリフだよ。付き合うって事はヤったって事だろ? だから色々相談したくてよ」
「てことはルイとそう言うことしたのか? まだ中坊なのに?」
「まだだよぉ。キスはしたけどな。だからお前に聞きたいんじゃん。な、どうしたらヤる流れって作れんの?」
強引なとこはあると思ったが、手が早いな。
しかしまだ中学生だぞ。
それにどうしてオレと玄二がもうヤってるってことになってんだ。
「なんでオレと玄二がヤったことになってるワケ?」
「だってあの玄二だぜ? 押せ押せで事に運んでいるに決まってんじゃん」
偏見と言えないのが悔しい……!
でも一応、悩んでるし普通に答えておくか。
「オレらは、シてねえよ」
「は? まじ?」
「その……玄二が高校に上がるまでは、な」
「そんな真面目だったっけ? ウッシー」
真面目って何だよ。普通の子供は中学でヤらねえっての。
まあオレら不良だけど。
そんなオレをヨソに、ミキは背伸びをしながら続ける。
「オレはさぁ、好きなやつとは今すぐにでも一つになって気持ちよくなりてぇよ。ルイの中にオレを刻んでやりたい。そんで、オレのもんだって証拠つけたいんだよ。そーゆうもんじゃん? 恋人って」
そう言って、オレの方を向いた。
流石にミキにあの夜の事は言えない。それにまだ玄二とは二人で一緒に恋人になっていきたいと思っている。お互い、といっても玄二の方がつらい思いをして来たが、真っ当な愛を知らない者同士なのだから。
「オレは、さ、順序を大事にしたいんだ、手、繋いだり、キスしたり、デートとかしたりさ……そうやって、二人でいる時間がそういう事しなくても楽しいって教えたいんだ」
「ふぅん。やっさしー」
ちょっと小馬鹿にするような言い方をしつつも、そんなミキの顔はどこか晴れない。
「ルイさ、あいつ、いじめ受けてたじゃん」
突然言われた言葉に、あの日の、悲惨な姿のルイが蘇る。
「今でもさ、あいつ魘されてんだよ。オレが一緒に寝ててもさ……だからあいつと一つになって、オレが側にいるって教えてやれば、もう安心なんじゃねえかってさ。思ってた」
「……心は、いつまで経っても癒せないからな」
「それが嫌なんだよ。なんで心に触れられねえんだ。あいつから余計なもん消してやりてえのに」
自分の拳を掌に包むその姿は、まるで行き場のない怒りを抑えているように見える。
ミキも、ルイも、悩んでいるんだな。
自分の消えない傷に。そんな傷を抱えている大切な人を助けようと。
大事な仲間であるミキにオレはアドバイスを送った。
「オレよりも、ルイに聞いたら? そうやってさ、向かい合っていけよ。なんか悩んだら相談に乗ってやるからよ」
そう言われたミキは驚いた目を向けて、それから普段のような快活な笑みを浮かべた。
「お前、ほんとロマンチストになったな」
アジトの中に戻ると、別れた時と同じ位置にいた玄二が出迎えた。
「おかえり。なんの用だったんだ?」
「恋人がいる者同士、色々相談しただけだよ」
「そうそう。イイ彼氏でよかったじゃん、玄二」
すれ違いざまに玄二の肩を叩くと、ミキは去っていった。
彼の行く先にはルイがいる。
「玄二」
「家帰る前にどっか寄る?」
「うん。じゃあさ、本屋いきたい」
「いいな。なんか欲しいのあるの?」
「水族館の写真集があってよ、すっげー可愛いの。兄貴も一緒に見よ」
そういうとオレと熱烈なハグを交わす。
人目がなくなると、玄二は更に密着してくる。顔に当たる玄二の胸は、筋肉がよくついている為かふかふかで、それでいて張りがあってとんでもなく心地いい。
さっきまで真っ当に触れ合ってからゆっくり距離を縮めたいと思っていたくせに、自分のむっつりさに驚く。
それから月日を重ねていった。
オレが高校に上がると、『クライシス』は本格的に始動した。
鳳兄弟がデザインした真紅の詰襟の特攻服は皆から好評であり、原作の大ファンであったオレはうっかり感極まって泣いてしまった。同じ『クライシス』とは言え高校と中学で距離が出来たことに玄二は不服であったが、同じ悩みを持つルイと話し合っているうちに親友関係になっていったそうだ。
彼の最期を知るオレからすれば、更に涙を誘う光景だ。
構成員も増えていって、『クライシス』は一年でかなり大きくなっていった。
そして、春が来た。
「兄貴!」
「おう、入学おめで――ぶへ!」
桜が舞う晴天の下、自分と同じ制服を着た玄二が駆け寄ってくる。
それだけで感無量で、ハグしてきた玄二を抱き返すのが少し遅れる。
……なんか力がさらに強くなったな。
かき上げてセットした髪は以前より洗練された雰囲気を醸し出し、周りの女生徒たちは熱い眼差しを向けている。身長ももう180越えてるし顔もずっと原作で見た時みたいにハンサムに成長してるし、男として負けた気がする。
だがその気持ち以上に「恋人が褒められて嬉しい」という感情が上回っていて、笑顔が堪え切れない。
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