オレが推しを抱くなんて！ かませ犬転生元社畜×闇深最強ラスボス

十五章

目覚めたのは朝日が目に入った時だった。
記憶が飛び飛びになっていて、今のオレは幸福な倦怠感と共にベッドに沈んでいた。

――指一本動かせねえ……

全身が泥になってしまったようで、疲労困憊だ。
あれだけ気合入れたっていうのに情けなくなってくる。

「兄貴、起きた？」

もぞもぞしてるうちにドアが開いて、玄二が顔をのぞかせた。
オレと違ってむしろ元気いっぱいって感じで、Tシャツにハーフパンツといった出で立ちだった。
……抱いたの本当にオレだよな？　抱かれた側なのにこんなかっこいいなんてことある？

「あ……ぅん……はよ」

当のオレなんて喉まで枯れてるのに。
そんなオレに玄二はいつものように、いいや、いつも以上に優しい笑みを浮かべている。

「お風呂入る？　オレ、その間朝ご飯作るからよ」
「え？　作れるの？」
「簡単なものだけどな。恋白の手伝ううちに段々覚えてったんだ」

そう誘われたら誘いを受けるっていうのが男ってもんだ。
オレはヘロヘロな体を引きずって一階の風呂に入った。朝風呂なんて生まれて初めてだったが、温かいお湯に包まれていくうちに体力が戻って来た。
回復して次に感じたのは空腹だった。
体を拭いて着替えをしながら、玄二が作るご飯に胸を躍らせた。

「玄二が作るご飯なんて食べれるの、オレだけだよな」

そんな事を独り言ちると、その事実がどれだけ貴重で尊いものか改めて自覚する。胸が温かくなって来た。
待ちきれずに身支度を済ませて、足早にリビングに向かった。
オレの姿を見ると、玄二はちょうどなにかを盛った皿をテーブルの上に置こうとしていたところだった。

「あ、おかえり兄貴。ちょうど出来たんだ」
「おお、よかった。ありがとうな」

玄二はオレの前に手に持った皿をゆっくりと置いた。
それはサンドイッチだった。パンはトーストされていて香ばしい薫りがする。目の前には目玉焼きと切れ目を入れたウインナー。
いかにも男子が好きそうなメニューだ。

「兄貴、紅茶でいい？」
「うん、お願いな」

ティーパックを二つ掴んで、それぞれのカップに入れてからヤカンの湯を注いだ。

「すげーうまそう。楽しみ。いただきます」
「はい。どうぞ」

玄二に促されるままに手を合わせ、オレはサンドイッチに手を付けた。
中にはツナマヨネーズが入っており、濃厚で美味しい。トーストの香ばしさと相性抜群だった。
目玉焼きの側には醤油が置かれていた。

「兄貴、目玉焼きには醤油かける派だったよな？」
「そうだけど、よく覚えてんな」
「なんでも知ってるよ。兄貴の事は」

目玉焼きの話なんてオレからした記憶なんてないぞ。そんなことまで覚えてるなんて、ほんと、オレ、愛されてんな。
そんなことに喜びを感じながら、オレは黄身に向かって醤油を垂らした。

「ありがとうな。ごちそうさん。すっげーうまかったわ」

腹も幸福に満たされ、紅茶を口にする。

「そのマグカップ、今日の為に買ったんだ」
「ン、そうなの？」
「そうだよ？　オレのと色違い。いいだろ？」

そういって自分のマグカップを見せつける。
玄二のものは黒地に白いストライプが走っていて、オレのものはそれの色を反転させたものだった。
自分が使っているものの色違いをわざわざ探したのか？　オレに飲んでもらうために？
あのカリスマを持って人を惹きつける玄二が、そんな泥臭い努力を、オレの為にしたと思うと愛しさで心臓が痛くなってくる。

「お前、本当に可愛いなァ」
「ふふ、どういたしまして」

ほんとに、夢なら一生覚めないでほしい。
悪魔が見せてる幻覚ならいくらだって魂を売るからこの世界にいさせてくれ。
それほどに、玄二と結ばれたことが嬉しい。