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フリーゲ男爵夫人2
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「フリーゲ夫人。あとは私たちがやっておきます。あなたはお休みください」
「ええ……ありがとう。そうさせてもらうわ」
花瓶を投げられ痛む頭を抱え、私はその場を後にする。
最近側妃様、リコリス様の機嫌が悪い。
王国からあの女が来てから、彼女の心はどんどん陰っている。
リコリス様は昔から上昇志向、というよりも権威主義的な面がある。
自分達の利益になる為ならば王国でも手を組むことを厭わず、ヴィクヘルム様にも意見して二人はよく喧嘩していた。ご自身の子供であるギルバート様にも非常に厳しく、体罰などは行わないものの威圧的に詰め寄って言葉の暴力を浴びせていた。
ブリジット公爵令嬢との結婚を推し進めたのも彼女である。王国との繋がりを強めるために取り付けた結婚であった。
故に彼女を追い出した息子、そしていい機会だと言わんばかりにそれに賛同した夫たちに絶望していた。現在は自分の計画を台無しにした卑しい平民女と同じ空気を吸いたくないと自分の離宮に引きこもっている。
そして時折感情を昂らせては使用人に当たり散らしているのだ。
――何故かしら。どうして、あの女が消えて嬉しいはずなのに、チェルシー様を見ていると苛立っていくのかしら。
自分に宛がわれた部屋で頭を冷やしながらそんなことを考えてしまう。
本来ならば心から歓迎すべきなのに、どうしてか彼女を受け入れられない。
彼女のせいでリコリス様に八つ当たりをされるから?
いいえ、違うわ。きっと――
「ホリー! 大丈夫か!」
突然開いたドアからやって来たのは懐かしい人。
僅かな間でも共に歩んでいた、美しい思い出の人。
「ヴィクヘルム、大公陛下」
「……今はそんな風に呼ばないでくれ。大変だったな。リコリスからひどい目に遭ったんだって?」
この国の主であり、一歩も引かない威厳に溢れた大公。
そんな彼が男爵家の女一人傷ついただけでおろおろしてしまう姿に、年甲斐もなくときめいてしまう。
「そんなこと、ないです」
「君は昔から頑固だな……傷を見せてくれ。私が癒してやろう」
止める言葉も聞かず、陛下、いいえ、ヴィクヘルム様は私の治療をしてくれる。
昔と変わらず大きく、硬く、逞しい手。
そんな彼に触れられて、ときめいてしまう。
全ての処置を終えると彼は堪え切れないように言葉を吐いた。
「……君が私の妻であったなら、こんな思いをさせないのに。あの時の私に、ギルバートのような強さがあれば」
「ヴィクヘルム様、それは――」
ヴィクヘルム様は私を抱きしめ、どこにも行かせぬよう腕に力をこめる。
「愛のない生活がどれほどつらいか、身に染みたよ……ああ、あの日に戻って、誰に反対されようと君を娶りたい。ホリー」
久しぶりに名前を呼ばれ、私は涙が止まらなかった。
何故チェルシー様を受け入れられないのかわかった。
嫉妬してたんだ。
真実の愛によって結ばれた彼女らのように、私もヴィクヘルム様と結ばれたかったと。
もう、私も自分の気持ちを抑えられない。
彼の広い背中に手を回し、懇願した。
「一晩、私をあなたの妻としてください……ヴィクヘルム様」
※
二か月後。
私はヴィクヘルム様の子を妊娠した。
「ええ……ありがとう。そうさせてもらうわ」
花瓶を投げられ痛む頭を抱え、私はその場を後にする。
最近側妃様、リコリス様の機嫌が悪い。
王国からあの女が来てから、彼女の心はどんどん陰っている。
リコリス様は昔から上昇志向、というよりも権威主義的な面がある。
自分達の利益になる為ならば王国でも手を組むことを厭わず、ヴィクヘルム様にも意見して二人はよく喧嘩していた。ご自身の子供であるギルバート様にも非常に厳しく、体罰などは行わないものの威圧的に詰め寄って言葉の暴力を浴びせていた。
ブリジット公爵令嬢との結婚を推し進めたのも彼女である。王国との繋がりを強めるために取り付けた結婚であった。
故に彼女を追い出した息子、そしていい機会だと言わんばかりにそれに賛同した夫たちに絶望していた。現在は自分の計画を台無しにした卑しい平民女と同じ空気を吸いたくないと自分の離宮に引きこもっている。
そして時折感情を昂らせては使用人に当たり散らしているのだ。
――何故かしら。どうして、あの女が消えて嬉しいはずなのに、チェルシー様を見ていると苛立っていくのかしら。
自分に宛がわれた部屋で頭を冷やしながらそんなことを考えてしまう。
本来ならば心から歓迎すべきなのに、どうしてか彼女を受け入れられない。
彼女のせいでリコリス様に八つ当たりをされるから?
いいえ、違うわ。きっと――
「ホリー! 大丈夫か!」
突然開いたドアからやって来たのは懐かしい人。
僅かな間でも共に歩んでいた、美しい思い出の人。
「ヴィクヘルム、大公陛下」
「……今はそんな風に呼ばないでくれ。大変だったな。リコリスからひどい目に遭ったんだって?」
この国の主であり、一歩も引かない威厳に溢れた大公。
そんな彼が男爵家の女一人傷ついただけでおろおろしてしまう姿に、年甲斐もなくときめいてしまう。
「そんなこと、ないです」
「君は昔から頑固だな……傷を見せてくれ。私が癒してやろう」
止める言葉も聞かず、陛下、いいえ、ヴィクヘルム様は私の治療をしてくれる。
昔と変わらず大きく、硬く、逞しい手。
そんな彼に触れられて、ときめいてしまう。
全ての処置を終えると彼は堪え切れないように言葉を吐いた。
「……君が私の妻であったなら、こんな思いをさせないのに。あの時の私に、ギルバートのような強さがあれば」
「ヴィクヘルム様、それは――」
ヴィクヘルム様は私を抱きしめ、どこにも行かせぬよう腕に力をこめる。
「愛のない生活がどれほどつらいか、身に染みたよ……ああ、あの日に戻って、誰に反対されようと君を娶りたい。ホリー」
久しぶりに名前を呼ばれ、私は涙が止まらなかった。
何故チェルシー様を受け入れられないのかわかった。
嫉妬してたんだ。
真実の愛によって結ばれた彼女らのように、私もヴィクヘルム様と結ばれたかったと。
もう、私も自分の気持ちを抑えられない。
彼の広い背中に手を回し、懇願した。
「一晩、私をあなたの妻としてください……ヴィクヘルム様」
※
二か月後。
私はヴィクヘルム様の子を妊娠した。
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