やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女

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五話 僕がΩ!?

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目覚めた瞬間、悲鳴上げそうになった。
だってそうだろう。
昨日知り合ったばかりの男が全裸で僕の横で寝ているんだから。
僕の状況も最悪だった。
彼と同じく全裸なうえに、体には無数のキスマークがびっしり。中には大きな歯形があった。
そして体の倦怠感と腰の痛み。
これで何が自分に起こったのかわからないほど、僕は子供ではない。

(最悪だぁぁぁぁ!! 名前も知らない行きずりの男とワンナイトするなんて!! 遊んでる相手の性別は違うけど、こんなの結局原作のイライと一緒じゃないか!!)

僕はそっとベッドを降りて床に投げ飛ばされた自分の服をいそいそと集め、身に纏う。
外を見ると、空が白み始めた頃だった。
一瞬男の方を振り返る。
彼はまだ夢の中だった。
今僕が部屋を出て行っても追いかけてくることは無いだろう。
幸い、財布には一切手を出されていない。

「……さよなら」

僕はそっとドアを開け、店を出ていった。
僕の朝帰りは、流石にロザリンド家で問題になった。
僕ももうあの男がいるかもしれない下町で飲む気にはなれず、この趣味を卒業した。

「これからは真面目に戻ろう……」

熱い湯が歯型に染みて痛む。
火遊びで痛い目を見た僕は、何度目か分からない溜息を吐いた。


 ※


あの夜から一週間ほど経ったころ。
体がだるい。
しばらく夜遊びをしていたからだろうか?
それとも……あの男から変な病気を貰ってしまったのだろうか?

(だとしたら最悪だ……両親になんて言おう)

後ろめたさはあったが、それでもはっきりさせないといけない。
僕は医者を呼び検査して貰った。
医者は分厚い眼鏡を何度か動かし、呻いていた。
それから看護師とぼそぼそと話し合い、難しい顔でこちらにやって来た。

「イライ様。いいですか? 落ち着いてお聞きください」
「……はい」
「あなたは、Ωに転換されています」

僕は自分の耳を疑った。
第二の性が、変わる?
そんなことがあるのか?
やっぱりなんかの病気じゃないのか?

「せ、先生。どういうことです? どうして、第二の性別が変わるんですか?」
「珍しい事ではありません。Ω性への転換は非常に強いαのフェロモンを注がれたα、またはβに起こる現象です。戦友であったα男性の二人が秘かに恋人関係になり、片方がΩとなった事例もあります」

まじかよ。都合よすぎないか第二の性。
まだ戸惑う僕に、意を決した様子の医者が尋ねた。

「前もって言いますが、守秘義務は守りますので正直に仰ってください。最近、α男性と近しい接触をしましたか?」
「ちかしいせっしょく……?」
「性交渉です。どうです?」

医者にハッキリ言われ、僕は顔を真っ赤にした。
……誤魔化したところで、βの僕がΩになったのだから、僕がαと交わったことはもう気づいているのだろう。

「……はい。一週間前。恐らくαである男性と、しました」
「どなたかご存じで?」
「名前は知りません。その、酔っていて」

僕の告白に、医者は見下すことも説教することもなく、淡々とカルテに書いていく。
彼はすぐにΩのヒートを抑える薬、抑制剤を渡してくれた。
そして、簡潔にではあるがΩになった時の手引書も用意してくれた。

「抑制剤には色々種類があります。もし体に合わなければ言って下さい。して、ご家族への説明は私もご一緒しますか?」
「……いや、僕から言います」

医者を見送ってから、僕は両親とごく一部の使用人にΩになったことを告げた。
予想よりも両親は慌てなかった。
むしろ執事が泣いていた。
仲のいい、いい歳した大人がハンカチに顔埋めて泣いている姿は、精神的にかなりキツい。

「お坊ちゃま……なんてことだ……傷物になってしまわれるなんて……っ」
「よさないか! ……なんだ。起きてしまったことは仕方ない。何らかの病気ではないだけマシというものだ」

父の言葉に僕は顔を上げた。

「すいません父上、母上。僕のせいで……」
「いいや。これは私の責任だ。お前に全てを任せ過ぎた」

そして彼はカサついた手で僕の手を握る。

「領地の事。リゼッタ嬢の事。伝統に縛られ成長せずにいた私の代わりに、お前は本当によく働いてくれた。そんなお前に私はずっと甘えてきた。まだ若いお前がこのような目に遭ったのは、息子一人に負担を掛け過ぎた不甲斐ない父の責任だ」
「この人だけのせいじゃない。この母にも、責任があるわ。頼りがいの無い母親でごめんなさいね、イライ」
「そんな……」

僕を真っすぐに見つめる両親。
その姿に、僕は涙が溢れた。
二人はあんなことをしでかした僕を許してくれた。

「Ωといえ男性としての機能がないわけじゃない。第二の性が転換したことはしばらくは公表せずにすごそう」

父の提案に、ようやく泣き止んだ執事が加わる。

「それがいいでしょう。あと数日で宮殿で祝勝会がありますし」

彼の発言で思い出した。
我が帝国の貿易船の生命線に当たる海に、強力な海賊が出没するようになった。
それを海軍が制圧したのだ。
なんでも神出鬼没な彼らに苦戦したようだが、海軍に協力した傭兵部隊がいたそうだ。
一国の軍隊に相対するほど力を持った彼らを、皇帝ヴァシリは客将として迎え、国賓として招いたのだ。
そんな大規模な宴の前に、僕の事情を広めるわけにはいかない。
その宴には僕も行くのだ。
自分から進んで晒し物になることはないだろう。

(第二の性のことは、結婚することになった相手にこっそり伝えればいいか)

不安を消した僕はそう決めて、未来に備えることに専念した。
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