ボクと王子サマの田舎生活

毒島醜女

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温かな食事

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正樹と同じくリタを救助した周囲の人間は、彼の見解に賛同した。
故に『不幸な生い立ちの子供を刺激しないように、あくまで町に来た外国人と接する』やり方を取ってくれた。リタの体格に合うであろう、自身の子のお下がりを与えてくれる人間もいた。
改めてこの町の人間の人柄の良さに触れ、正樹は感慨に耽った。

少年を診察してみたが、隠された外傷は見つからず、若干の栄養失調のみであった。

――やっぱり、ネグレクトを受けていたか。

苦い顔を隠し、淡々と作業に移る。
彼に与える部屋を簡単に片づけてからリタを案内すると、おずおずと銀髪の少年は話を切り出した。

「あの、先生」
「なんだい?」
「ただで世話になるわけにはいきません。明日からは私にも何か手伝いをさせて下さい」

そう言って頭を下げている。
その光景は見ているだけで痛々しかった。
正樹は思う。彼は自分を無能だという意識に囚われている。まずはその認識から変えなければならない。故に簡単な手伝いをして、小さな成功を積み重ねさせその都度褒めて、リタの自己肯定感を高めよう。

「ありがとう、リタくん。でもまずは栄養を付けないとね。そうしないと、思うように働くことなんて出来ないから」

だが、その前に食事だ。

「今は患者として、精をつける事に専念してくれ。それが僕の一番の望みだ」
「わ、わかりました」
「ところでリタくん、箸は使える?」

彼がそのような質問をしたのは、真っ当な教育を受けられなかった被虐待児は食育はおろか箸の使い方を学べない可能性が高いことを考慮したうえであった。
リタはそれに首を傾げた。

「はし?」
「こういう、二本の木の棒を使って食事を食べる事に使うものの事だけど……」

正樹がキッチンからとって見せると、リタは目を見開いて「ああ」という。

「こういうカトラリー、知ってます。我が国の同盟国のもので、マナーも学んでます」

リタは正樹の手からそれを受け取り、右手で器用に箸を持った。その所作は彼の歳頃と比べると指の使い方からなにまで完璧で、所謂『育ちの良さ』を感じさせた。

早速正樹はキッチンに向かい、腕まくりをして料理に取り掛かる。
町の漁師から貰った規格外の魚をぶつ切りに切って、塩揉みする。その間に鍋に水を溜め、火にかける。ワカメと、リタの為にいつもより小さめに切った葱も用意する。沸騰した鍋に、魚と葱を入れて更に煮立たせる。出汁が出てきたところで味噌を溶いて味を滲みこませる。

夕暮れの薄暗いキッチンに、味噌の香りが漂っていた。正樹はコンロの前で木べらを手に持ち、白米をよそった茶碗をテーブルに置いた。その視線の先には、リタがいた。
リタは居心地が悪そうにしながらも、料理を楽しみにしているのか、そわそわと椅子の上に揃えた足を揺らしていた。

ボロボロの服に包まれた細い体は、まるで風に揺れる枯れ枝のようだった。正樹の目には、彼が「現実から逃げ出した被虐待児」にしか映らない。それでも、目の前の少年を放っておくわけにはいかなかった。

「さ、お待たせ。浜鍋だよ。冷める前に食べてね」

正樹はそう言いながら、取り皿となる椀と箸をリタの前に運ぶ。
それから鍋をテーブルの中央に置いた。
リタは一瞬戸惑ったように正樹を見上げたが、おずおずと箸を取った。銀色の髪が揺れ、透き通った青い瞳が鍋をじっと見つめる。鍋から沸き立つ湯気、炊きたてのご飯、そして近所の親切な夫人から貰った小さな皿に盛られた漬物も添えてある。

「これ……食べていいんですか?」

リタの声は小さく、震えていた。
正樹にはそれがまるで何かを奪われるのを恐れているように思えた。

「そうだよ。君に食べてもらうために作ったんだ」

正樹はそう言いながら、リタの椀に鍋をよそう。その鍋の中にある具材を全種類入れて、汁もたっぷりと注ぐ。それを彼に返し、自分も席に着いて箸を取った。
その目はリタをしっかりと観察していた。威圧感を与えぬよう、さり気なく。
次第にリタは恐る恐る椀に口をつけた。
熱々の汁が唇に触れた瞬間、彼の目が見開かれた。初めて味わう温かさが舌の上に広がり、ほのかな塩気と魚と野菜から溢れた出汁の優しさが喉を滑り落ちる。続けてご飯を一口頬張ると、その柔らかさと甘みに小さな吐息が漏れた。

「ン……あったかかくて、美味しい……」

リタの声は小さく、だが確かに感動に震えていた。銀髪の少年の頬に、うっすらと赤みが差す。正樹はその様子を横目で見ながら、内心で少しだけ驚いていた。こんな素朴な食事で、こんなにも純粋に喜ぶなんて。

「 温かいもの食べるの初めて?」

正樹の問いに、リタはさも当たり前かのようにこくりと頷いた。

「私の場合、毒見とかなんやらで冷めているのが当たり前でした……そっか……温かい料理って、こんな味なんだ」

その言葉に、正樹の眉が一瞬だけ動いた。

『私の場合』『毒見』

受けてきた冷遇をそうやって解釈したのか、と内心で溜め息をつきながらも、彼は黙って自分の自分の椀を啜った。
それでも、リタの小さな笑顔を見ていると、正樹の胸の奥に何か温かいものが広がるのを感じていた。医者として、保護者として、そしてただの人間として――この少年を救いたいと、そう思わずにはいられなかった。


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