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七話 年下の旦那様が優秀過ぎます
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両親と村人に挨拶をして、僕とクレイは帰りの馬車に乗った。
クレイは一歩前に出て、御者の開けた扉をバックに僕に手を差し出した。
「さあ、お手を」
「……あ、ああ。そうだったね」
自分がエスコートされる側であることを忘れていた僕は、そっと彼の手の平に自分の手を置く。
座席に腰かけると、隣に座るクレイが声をかけてきた。
「色々とお疲れでしょう? 屋敷までは長いですし、俺の体にもたれてお休みください」
「そ、そんな……君の負担になるじゃないか」
「オリバー様の為なら、この体いくらでもお貸ししますよ」
一旦は断ったが、正直疲れていた。
ずっと部屋に籠って事務仕事ばかりしていたのに、今まで最低限しか出来なかった分、あちこち領地を回ってきたのだ。
運動不足の体は悲鳴を上げていた。
普段なら家に着くまでは多少は無理できたのに、それでも彼に頼りたいと思ってしまうのは彼がαだからだろうか……
「じゃあ、頼むよ」
そういうと、僕は彼の肩に寄りかかる。
軍服の下にある鍛え上げられた筋肉が僕を包み込んだ。
そして、匂いがした。
これはαの放つフェロモンだろう。
柑橘のような爽やかさの奥に、松の葉や白檀に似た威厳を孕んだ木の香りがした。香水で言う所のウッディノートというやつだ。
絶対的な力を持ちながらも、守るべきものを何があろうと守る意思を感じさせるフェロモンだ。
「クレイのフェロモンは、いい香りだね」
「オリバー様もですよ……とても芳しいフェロモンをなさっておいでだ」
「どんな匂いがするの? 自分ではわからないし、他のαの方々もなにも言ってなかったからわからないんだ」
僕がそう言うと、クレイは少し眉を顰めた。
昔の話をしたのがそんなに嫌だったかな?
もう僕にとっては過去のことなのに、気にしすぎだ。
「オリバー様のフェロモンはとても甘くて、繊細な香りです。バニラのような落ち着いた甘さの中に、摘んだばかりのベリーに似た香りがします。とても安心感があって……魅力に溢れています」
クレイは僕の肩に腕を回し、体を委ねさせた。
強くなる心地のいい香りと、ベッドのような肉厚の体。
疲れた僕は、それらに包まれた瞬間に眠気が襲い、彼が後に呟いた言葉を聞きそびれてしまった。
「絶対に離したくなくなる」
※
次の領地視察の頃。
僕とクレイは、彼の私兵部隊を伴って領地に赴いていた。
彼らはアレクシアン家の人間と負けず劣らずに筋骨隆々の肉だるま集団であった。
「今日はよろしくお願いします、奥方様! 我らクレイ私兵部隊、あなた様のお役に立てるよう粉骨砕身邁進します!」
そう言って一斉に敬礼をする姿は圧巻で、気圧されそうだ。
僕は獣害の対策と治水工事の説明をした。
彼らはすぐに行動に移った。
獣害対策のチームは作物を担当する村人と相談し、畑を荒らす獣の居場所を突き止めた。そして村人を伴って入っていった山で猪の群れのボスを見つけ、それを打ち取った。それだけでなく効果のある罠の仕掛け方や、場所も教えてくれた。
治水を担当するチームの仕事も早かった。持ち前の体力を活かして、水路を瞬く間に整え、予想していた時間の倍は早く片付いた。
「す、すごい……」
「流石はオリバー様の伴侶となられるお方の育てた兵隊さんだ」
「あたし惚れちゃいそう~」
私兵の皆の働きを見た村人は、皆歓声をあげた。
僕も彼らの働きを褒め、彼らを育てたクレイにも感謝を伝えた。
「皆すごいね。あっという間に片付いてしまったよ」
「真摯に仕事をこなす人間です。成り上がろうとするハングリー精神もある。いい部下ですよ。それに……オリバー様のお役に立てたことが嬉しいです」
目を細めて笑うクレイに、遠くから見ていた村人まで顔が赤くなる。
自分の顔の良さわかってるのかな……?
私兵が狩ってきたボスの雄猪は、僕が今まで見た猪より遥かに巨大だった。他にも何匹か成獣がおり、村人や手伝ってくれた私兵たち含めても食べきれない数となった。
食べきれない分は燻してベーコンにし、今夜は大鍋で猪鍋をすることになった。
祭りなどで出される、大人数人で運ぶ鍋にボス猪の肉と様々な野菜を放り込み、塩と香草で煮込んだ。
盗み食いしていた作物により身に着けた脂が鍋に広がり、鼻腔をくすぐる薫りが広がった。
あれ以来父の体調も回復したようで、宴には両親も参加した。
「クレイ様の部隊の方々へ感謝を込めて! 乾杯!」
村長の声と共に、宴は始まった。
猪鍋は想像した以上に脂が濃厚で、塩と香草だけで味付けしたとは思えなかった。
「美味しいですね、オリバー様」
「うん……」
スープを飲みながら、僕は目の前に広がる光景を見る。
一難去ったことに喜び笑顔を見せる村の皆。
村の娘たちに囲まれながら鍋に舌鼓を打つ私兵たち。
以前より血色の良くなった父上と、幸せそうに彼に寄り添う母上。
そして、僕を見つめ寄り添うクレイ。
かつては一人で生きていこうと思っていたのに、クレイのくれた幸せを目にして、僕は思わず笑みを浮かべた。
クレイは一歩前に出て、御者の開けた扉をバックに僕に手を差し出した。
「さあ、お手を」
「……あ、ああ。そうだったね」
自分がエスコートされる側であることを忘れていた僕は、そっと彼の手の平に自分の手を置く。
座席に腰かけると、隣に座るクレイが声をかけてきた。
「色々とお疲れでしょう? 屋敷までは長いですし、俺の体にもたれてお休みください」
「そ、そんな……君の負担になるじゃないか」
「オリバー様の為なら、この体いくらでもお貸ししますよ」
一旦は断ったが、正直疲れていた。
ずっと部屋に籠って事務仕事ばかりしていたのに、今まで最低限しか出来なかった分、あちこち領地を回ってきたのだ。
運動不足の体は悲鳴を上げていた。
普段なら家に着くまでは多少は無理できたのに、それでも彼に頼りたいと思ってしまうのは彼がαだからだろうか……
「じゃあ、頼むよ」
そういうと、僕は彼の肩に寄りかかる。
軍服の下にある鍛え上げられた筋肉が僕を包み込んだ。
そして、匂いがした。
これはαの放つフェロモンだろう。
柑橘のような爽やかさの奥に、松の葉や白檀に似た威厳を孕んだ木の香りがした。香水で言う所のウッディノートというやつだ。
絶対的な力を持ちながらも、守るべきものを何があろうと守る意思を感じさせるフェロモンだ。
「クレイのフェロモンは、いい香りだね」
「オリバー様もですよ……とても芳しいフェロモンをなさっておいでだ」
「どんな匂いがするの? 自分ではわからないし、他のαの方々もなにも言ってなかったからわからないんだ」
僕がそう言うと、クレイは少し眉を顰めた。
昔の話をしたのがそんなに嫌だったかな?
もう僕にとっては過去のことなのに、気にしすぎだ。
「オリバー様のフェロモンはとても甘くて、繊細な香りです。バニラのような落ち着いた甘さの中に、摘んだばかりのベリーに似た香りがします。とても安心感があって……魅力に溢れています」
クレイは僕の肩に腕を回し、体を委ねさせた。
強くなる心地のいい香りと、ベッドのような肉厚の体。
疲れた僕は、それらに包まれた瞬間に眠気が襲い、彼が後に呟いた言葉を聞きそびれてしまった。
「絶対に離したくなくなる」
※
次の領地視察の頃。
僕とクレイは、彼の私兵部隊を伴って領地に赴いていた。
彼らはアレクシアン家の人間と負けず劣らずに筋骨隆々の肉だるま集団であった。
「今日はよろしくお願いします、奥方様! 我らクレイ私兵部隊、あなた様のお役に立てるよう粉骨砕身邁進します!」
そう言って一斉に敬礼をする姿は圧巻で、気圧されそうだ。
僕は獣害の対策と治水工事の説明をした。
彼らはすぐに行動に移った。
獣害対策のチームは作物を担当する村人と相談し、畑を荒らす獣の居場所を突き止めた。そして村人を伴って入っていった山で猪の群れのボスを見つけ、それを打ち取った。それだけでなく効果のある罠の仕掛け方や、場所も教えてくれた。
治水を担当するチームの仕事も早かった。持ち前の体力を活かして、水路を瞬く間に整え、予想していた時間の倍は早く片付いた。
「す、すごい……」
「流石はオリバー様の伴侶となられるお方の育てた兵隊さんだ」
「あたし惚れちゃいそう~」
私兵の皆の働きを見た村人は、皆歓声をあげた。
僕も彼らの働きを褒め、彼らを育てたクレイにも感謝を伝えた。
「皆すごいね。あっという間に片付いてしまったよ」
「真摯に仕事をこなす人間です。成り上がろうとするハングリー精神もある。いい部下ですよ。それに……オリバー様のお役に立てたことが嬉しいです」
目を細めて笑うクレイに、遠くから見ていた村人まで顔が赤くなる。
自分の顔の良さわかってるのかな……?
私兵が狩ってきたボスの雄猪は、僕が今まで見た猪より遥かに巨大だった。他にも何匹か成獣がおり、村人や手伝ってくれた私兵たち含めても食べきれない数となった。
食べきれない分は燻してベーコンにし、今夜は大鍋で猪鍋をすることになった。
祭りなどで出される、大人数人で運ぶ鍋にボス猪の肉と様々な野菜を放り込み、塩と香草で煮込んだ。
盗み食いしていた作物により身に着けた脂が鍋に広がり、鼻腔をくすぐる薫りが広がった。
あれ以来父の体調も回復したようで、宴には両親も参加した。
「クレイ様の部隊の方々へ感謝を込めて! 乾杯!」
村長の声と共に、宴は始まった。
猪鍋は想像した以上に脂が濃厚で、塩と香草だけで味付けしたとは思えなかった。
「美味しいですね、オリバー様」
「うん……」
スープを飲みながら、僕は目の前に広がる光景を見る。
一難去ったことに喜び笑顔を見せる村の皆。
村の娘たちに囲まれながら鍋に舌鼓を打つ私兵たち。
以前より血色の良くなった父上と、幸せそうに彼に寄り添う母上。
そして、僕を見つめ寄り添うクレイ。
かつては一人で生きていこうと思っていたのに、クレイのくれた幸せを目にして、僕は思わず笑みを浮かべた。
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