受難の若側妃

毒島醜女

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少年妃は試される

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「次」
「はい、ただいま」

昼は公務の時間だ。
御簾越しに大臣たちが渡す書類を淡々と処理する単純作業であり、どこかの大きな駄々っ子とそれを全肯定する阿呆の相手より余程楽な仕事だ。

――にしてもこんな事を側妃如きにやらせるとは、皇太子はどれほど信用がないんだ?

私は溜息をつく。
これらは内政に関わる重要なものであり、それを皇太子ではなくまだ元服してもいない歳の子供に処理させるなど。皇太子の他力本願ぶりと、彼への大臣たちの信頼の無さを改めて自覚する。流石に玉璽を捺すのは本人の役目であるためか、それ以外の作業は全て私がやる。

「もうこの国の施政者が誰かみんなご存知なのですね」

横に座るダリが御簾の向こうに聞こえぬように声を潜めて笑う。
笑い事じゃないぞ馬鹿者が。
しかも警護の為とか言って自分の膝の上に乗せて……布越しにいる奴らには見えないからってくっつきすぎだろ。

「シリウ妃殿下。お疲れではありませんか?」
「いいや。平気だ。ほら、これは終わったぞ」
「ありがたく頂戴します。ではこちらを。隣国からの文です。私どもは離れていますので、書上げ次第お呼びかけください」
「ん」

次の書類はごく普通の季節の挨拶を告げる、社交辞令の手紙であった。
しかし気は抜けない。手紙とは知性の現われだ。字の美麗さ。相手に合わせた言葉選び。綴る詩により教養が露わになる。送り主の頭脳と品性が問われるだろう。

「ダリ、手元が狂うといけないから離れろ」
「ふぅん。あちらの国の姫君が婿を取ったと。これはお祝いしなくてはなりませんね」
「……聞けよ」
「平常心が大事ですよ。今のあなたはこの国の指針なのですから」

男の膝の上という不安定な場から逃れようとするも、このような言い方をされれば黙っていられない。
机に向き直り、紙を取って頭の文章を書いていく。

「夫婦となったということは、詩には杏を出した方がいいでしょうね。時期に杏が実る時期ですし、姫君は杏がお好きだとか」
「知ってる。言われなくても書くつもりだ」
「でも、シリウ様は知らないことがおありでしょ?」
「なんだ……いってみろ」

王宮にも求められる程度には自分の頭には価値があることを知っている私が、知らないことがあるのならいってみればいい。そう挑発してみると、ダリはニタリと笑う。

「情の交わりです」
「っ! それは――」
「互いに肌を絡め合い、結ばれ、本当に一つになって達する……その本来のまぐわいで味わえる快楽を知らないでしょう」

そういうと、ダリは私の旗袍の切れ目から太腿に手を這わせる。私の頭よりも大きい、長くて、悍ましい、蜘蛛のような手を。
ダリの手は細長い癖に分厚くて、武将じみた力強さを感じさせる。それに掴まれれば、決して逃げられないと思わせる力を。

「賢くお可愛いシリウ様……想像してご覧ください。愛するお方とのまぐわいを。肌と肌を触れ合わせ、唇を重ね、言葉で愛を語り合う……心の臓が熱く燃え、体を火照らせる……そうしていくうちに、互いの体は汗ばんでいく……」

淫靡な台詞を耳元で、息を触れさせながら囁いて何度も何度も太腿を擦る。
肉体の交わりくらいの知恵は頭にある。後宮の閨教育では孔の具合も女官たちに調べられた。
でも、ダリが与えるものは違う。体がぞわぞわとこそばゆくなって、落ち着くことが出来ない。両親を亡くした時でさえ着けていた『冷静な麒麟児』の仮面が剥がされてしまう。

「ダリ、人が……っ」
「子種を撒くものと、子種を受け入れるものも熱を帯びながらしとどに濡れそぼり……互いに受け入れ合う準備をする……」
「――うっ!」

慌てて口を抑える。幸いにも、御簾の向こうの奴らの耳には入らなかったようだ。
下履きから滑り、穴をなぞる。
ダリの指先にそこを触れられ、嫌でも湯浴みの時の屈辱を思い出してしまう。

「お前……」

その先にすることを理解してしまい、それを否定して欲しくて振り返る。
なのにアイツは、いつもの完璧な笑みを浮かべているのだ。

「シリウ様。もし、ここに触れているのがあなたの恋焦がれるお方なら、他のことなど考えられぬでしょう。それが、まぐわいというものです」

その言葉の後すぐにぬるりと入っていく指の感触に、私は両手で口を抑える。
コイツの指は、平均的に私の男根よりも、長い。
そんなものが唯一の孔に入っていき、ぐりぐりと襞を辿るように奥を目指していくのだ。

「ンぁ……は……ッ」

それも、布一枚で大勢の人間がいる前で。
怒りなのか、恥なのか、自分の中で湧き立つ感情がもうわからない。コイツの脇腹を叩いてやりたくても、声を漏らしてしまいそうで手を退かす事が出来ない。

「ゃめ、ほん、っとに……」
「駄目ですよぉ。向こうの姫君の為にも、愛でられる者のお気持ちになって考えなければ……これも政の一つでしょう? 平常心、平常心」

それを分かった上でダリはもう片方の手を私の頭に乗せ、子供のように撫でる。孔の中の指は絶えず動かしているのに。

「待っ、ぅ゛~、ッ、ダ、り……ッ!」

ふと、何かがしこりの様なものにダリの指先が触れた。
男の尻の中から触れられる、快楽のツボだ。
当たり前のことだが自分にもそれがあると自覚させられると、コクン、と溢れた唾液を飲み込んだ。もし、もしも今ここでそれに触れられたら、私はどうなってしまうのだろうか。
そんな事を考えた瞬間から、体温が上がっていくのがわかった。
今、自分に内側から触れているダリにもそれは伝わっているはずだ。
全ては、彼次第だ。そんな環境に何も出来ずに身を置かれ、私は――

ずるん
指が確実な何かに触れかけた瞬間に、ダリは指を抜いた。

それから自分の膝から降ろし、懐紙で指を拭った。まるで、外から帰って手でも洗うかのように。

「これで少しはご理解いただけたでしょう。さて、ダリめは茶と菓子をお持ちします」

ニコリと、いつものような笑みを浮かべてアイツは立ち上がり、私の元を去っていった。
突然解放された私の熱は、急激に冷めていった。

呼吸を整え、考えを纏める。
結果、紙を一枚無駄にすることになった。

「本当に……いつか殺す……」

手の中でくしゃくしゃになった紙に、私は殺意を封じた。

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