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ハムハム楽しむ日々
誘われている!
しおりを挟む森の中は静かで、綺麗で、空気が澄んでいて。わたしの邪な気持ちも掻き消してくれるのでは、と思う。
セクハラだなんだと相手を庇おうとしているのに、結局は自分を庇ってしまう。わたしは所詮5歳児で(見た目は年より上に見えるらしい)心もやっぱり周りのことより自分のことになってしまう。
仕方ない、とさっきまで自分を慰めていたけれど、これを大人の心を持った自分が、ラティファナの幼い心を抑えてくれる。
(だって仕方なくない)
考えもせずに行動してしまうこの体。気持ちでは大人の行動をと思っていても、体はどうしてもいうことを聞かない。というよりも、理性が利かないと言った方がいいのか。
なぜだか彼を目の前にするとーー
そうやって思考していると、わたしの歩む先に彼がいた。木を背もたれに膝を曲げた状態で小鳥との対話を楽しんでいる様子。あの話を聞いた後からだからか、ラニエルの表情は少し曇って見える。
この森は本当に静かだ。何か動物がいて争う声が聞こえるわけでもない。鳥たちが時々声をあげ、透き通るようにさえずるだけ。
わたしにとっては邸から隣の場所に位置するココは、とても心穏やかになれるお気に入りの場所だ。きっとそれは彼にとってもそうなのかもしれない。
声をかけてみようと思った。でもーー
(でもなんて声をかければいい?)
無邪気に今までのように「エル!また来ていたのね!」って元気に声をかけたらいい。でもそれは、昨日までだからできていた事。さっき聞いてしまった事の内容により、大人の考えがそれを邪魔をする。
子供だからできる対応も、大人の心はそうもいかない。腫れ物に触るようなそんな感じになってしまう。
「キミも独りなの?僕と一緒だね」
風の流れがこちらに向いているのか、少し離れたラニエルのところから私まで、彼の独り言を運んでくれた。
(何を悩んでいるのラティ!寂しい思いをしてる子供に大人の感情なんて要らないよ!)
自身を言い訳から遠ざけ、彼に向かうべく奮い立たせる。
隙間から見える彼は物憂げで、切なさからか彼自身を纏うオーラが儚さを醸し出していた。
今日も変わらず首元が開いたシャツにベスト。そこにゆるく巻かれたタイを付けている。着崩していてもなかなかおぼっちゃまな雰囲気は隠せていない。
いつも環境のせいでピッチリと締めているだろ首元は、白いうなじなども出るほどで…。
状況としてはとても儚げで憂いていて、とても悲しい雰囲気なのに…私から見た彼はどんどん色気を増して見える。
最初に出会った時、何も知らない子供のような表情をして悲しんでいただろう彼は、今では7歳児なのに色気を醸し出すようになっている。
首筋も肩口もとても色っぽい。私は知っている、あの滑らかな白い肌は、少し触れるだけで吸い付いてくるようなーー
(あーーどうしよう!)
(ハムハムしたい!)
綺麗な首筋に、小さな風に揺れる耳を隠した少し長いサイドの髪の毛。小鳥へと向ける視線に落とされたまつ毛の影。
どれを取っても色っぽい。輪郭はまだ子供のそれを残しているけれど、でも色っぽい。
(あんなに首元を開けて!アレは私を誘っているの!?)
きっと誘っている。アレは確実に誘っている!最早わたし専用、ラティファナホイホイだ!
上半身が隠れていた木の陰から前へ乗り出し、今か今かと彼へとにじり寄ろうとしている。
(でもダメだ!今出て行ったら関係なしにハムハムしてしまう!物憂げなのに!)
(アーーーー!でも彼はそんな時におまじないを求めてくるようなわたし好みの少年なんだった!)
じゃぁ行くべきじゃないか?今こそ求めているだろ彼に、突進して行ってなにがいけないのだ?元気が出るんだぞ?ハムハムしたら彼は元気が出ると言っていたぞ!
(今こそ行くっきゃない!)
淑女の姿はもうここにはなかった。今ここにあるのは只の…ただの思考回路はセクハラする気満々の痴女(外面5歳児、微妙に美少女)しか居なかった。
「ラティそこに居るの?」
この夥しい猥褻オーラを感じ取ったのか、ラニエルはこちらを向きわたしの名前を呼んだ。
(気付かれた!バレるほどの痴女オーラ出しすぎた!?)
子供の心を気遣うつもりでいたのに、むしろさっきまでその想いでいっぱいだったのに。彼を見たらわたしはどうも、本当にどうしようもなく、ハムハムしたくて堪らなくなるらしい。
「ここにいるよ」
「ラティそんなところにいないで、こちらに来て。近くで顔を見せて」
「今、行きます」
(顔!どうしよう!ヨダレ!え?大丈夫?わたし大丈夫?)
ココへと走って来た時と同じようにまたパニックになっていた。気付かれずにニヤニヤしていた顔を、彼の綺麗な顔の前に出しても良いものなのか。
ヨダレは大事だろうか、変なオーラ出しすぎていないだろうか。どうやったら淑女オーラに戻せるのか。
わからない。戻し方がわからない。ニヤニヤした締まりのない顔を、表情筋に任せておくことにして。あとはこの気付かれてしまうほどのオーラ。彼を害する気満々のこの気持ちをどうにかしないと!
ーーふっ
「わぁっ!」
「ごめんね、ラティが来ないから僕が来ちゃいました」
ふふふっと笑う(マジ)天使はわたしが隠れていた木の前から顔を覗かせ、悪戯が成功した、とばかりに微笑んでいた。
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