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第三章:青空のその向こうへ
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生徒会室を出ると、なんだか空気が妙に澄み切っていた。がやがやと騒がしい声が聞こえる朝の教室の方へ、俺は向かう。もう、この穏やかな日常ともお別れなんだな。
そう思うと名残惜しい気がした。
せめてあと一日くらい、普段通りの学校生活を送ってもいいだろうか。なんて思いながら、俺は雑談に花を咲かせているクラスメイトに声をかけようと肩を叩こうとした。
「えっ……?」
俺が手を伸ばすと、クラスメイトの姿がぐにゃりと湾曲した。否、正確には俺の手が触れたところだけ映像が乱れたみたいに、クラスメイトの姿が途切れた。
クラスメイトは俺に気が付かない。俺が困惑したまま固まっていれば、教室のあちこちで話すクラスメイトの姿が、不自然に揺らいでいることに気が付いた。
まるでホログラムだ。
壊れかけのテレビが映し出すような光景だった。教室も生徒も、全てがノイズ混じりに揺らぐ。虚像だと現実を突き付けてくるみたいに。
そうか。
俺達四人以外は、きっと世界の主が生み出した偽りの人間なんだ。いわば、エキストラのようなもの。
俺が世界の秘密を手に入れたことにより、世界も終焉を察知しているのかもしれない。不思議と、奇妙な光景を見ても事実はすんなりと受け入れることができた。
俺は走った。
全てが消えてしまう前に、皆に伝えなければ。
頼むから、まだ皆この世界に留まってくれ。このまま何も知らずに終わって消えていくのは、寂しいから。
「一吹……!」
廊下を走っていった先に、一吹の姿が見えた。ボーっと廊下の窓から外を見ていた一吹は俺の声に気が付き、呑気に手を振った。
「はよ、繋。そんなに急いでどうした?」
「あずと北原は⁉」
「へ? さぁ……見かけてねぇけど……」
一吹が俺の様子を見て不思議そうにしながら答えたその時、階段から忙しない足音が聞こえた。
「あ、いたいた!繋!」
ドタバタと走ってきたのは、あずの手を引いた北原だった。
「やばいよ、大変なことになってるぞ⁉」
「教室がぐにゃって歪んで、皆も私たちに気づいてなくて……!」
「映像みたいになってた! あれどうなってんだよ⁉」
「お、落ち着いて二人とも……」
自分にも言い聞かせるように、捲し立てる二人をなんとか落ち着かせた。何も知らない一吹は、ぽかんとした様子で俺達を交互に見ていた。
「とりあえず、皆は普通で良かった」
「何のことだよ、繋」
「ちょっといろいろあってね。丁度良かった、皆が集まってくれて」
「もしかして何か見つけたの?」
あずが察して俺に問う。色を変えて俺は首肯した。
「世界の秘密か……?」と一吹が緊迫した面持ちで言った。
「その通りだよ。俺は世界の秘密をようやく見つけた」
「マジかよ繋! で、どんなのだったんだ?」
「……」
俺は口を噤む。
これから話すことは、皆にとっては衝撃的すぎるし残酷な真実だ。楽しく平凡に過ごしていたところに、突然「実は貴方は死んでいました」と告げるのだから。
「繋……?」
北原が不思議そうに小首を傾げた。俺が覚悟を決めて話そうと深呼吸をした時、もう一つの足音が背後から聞こえた。
「皆してこんなところでどうしたの?」
落ち着いた声に振り返る。
そこには、ここに居なかったもう一人の仲間が立っていた。
「……夕凪、俺は全てを知ったよ」
彼女に向き直って俺は静かに告げる。一吹たちはなぜ俺が夕凪にだけそう言ったのかを疑問に思っているように見えた。
夕凪は、特に驚く様子もなく、ただ少し悲しそうに目を細めた。
「俺はこれから真実を皆に話そうと思う。隠し事なんてせずに、ありのままのことをね。それが、秘密を探し求めた皆に対する誠意だと思うし、チーム・コンパスの仲間を思いやってのことだと思うからさ」
「……そう」
「でも、俺が話すのは間違いだと思う。俺は、この世界を作り出した本人――俺達に秘密を暴かせた世界の主権者から聞くべきだと思うんだ」
「主権者⁉」
「なに、それ……」
一吹と北原が同時にそう声をあげた。あずは訳が分からないと言ったように不安そうにしている。
俺は部屋を出る時に持ってきた日記帳を、彼女に向けて差し出した。
「ねぇ、夕凪。全てを教えてよ」
静かな風が俺達の間を吹き抜けた。
誰も口を開かなかった。無言の風が、ただ困ったように頬を撫でていく。視線を合わせたままの夕凪は、しばらくして日記帳を受け取って静かに口を開いた。
「……真実を受け入れる勇気のある者のみが全てを知ることができる」
「……」
「皆にその勇気と覚悟があるならば、私は全てを話すわ。世界の秘密を全てね。けれど、あなた達にとって辛い事実も含まれている。それでもあなた達は、世界の秘密が知りたい?」
夕凪が一人ずつゆっくりと目を合わせ、問いかける。曇りのない真っすぐな瞳が、体を射抜くような気がした。
「……こころは、本当に全部知ってんのかよ」
「えぇ。今まで黙っていてごめんなさい。すぐには話せる内容ではなかったから」
「それを聞いたら、アタシたちは外の世界にいけるのか?」
「どうかしら。あなた達の選択次第よ」
「私たちの選択次第……?」
「真実を聞いたうえでどうするかはあなた達次第だもの。私にどうこうする権利はないわ」
夕凪は髪を留める蝶のピンに触れ、目元に影を落とした。皆の決断次第で、俺達がこれからどうなるかが決まる。既に秘密のほとんどを知っている俺は、ドクドクと五月蠅い心臓の音を聞きながら、全員の返答を待った。
そう思うと名残惜しい気がした。
せめてあと一日くらい、普段通りの学校生活を送ってもいいだろうか。なんて思いながら、俺は雑談に花を咲かせているクラスメイトに声をかけようと肩を叩こうとした。
「えっ……?」
俺が手を伸ばすと、クラスメイトの姿がぐにゃりと湾曲した。否、正確には俺の手が触れたところだけ映像が乱れたみたいに、クラスメイトの姿が途切れた。
クラスメイトは俺に気が付かない。俺が困惑したまま固まっていれば、教室のあちこちで話すクラスメイトの姿が、不自然に揺らいでいることに気が付いた。
まるでホログラムだ。
壊れかけのテレビが映し出すような光景だった。教室も生徒も、全てがノイズ混じりに揺らぐ。虚像だと現実を突き付けてくるみたいに。
そうか。
俺達四人以外は、きっと世界の主が生み出した偽りの人間なんだ。いわば、エキストラのようなもの。
俺が世界の秘密を手に入れたことにより、世界も終焉を察知しているのかもしれない。不思議と、奇妙な光景を見ても事実はすんなりと受け入れることができた。
俺は走った。
全てが消えてしまう前に、皆に伝えなければ。
頼むから、まだ皆この世界に留まってくれ。このまま何も知らずに終わって消えていくのは、寂しいから。
「一吹……!」
廊下を走っていった先に、一吹の姿が見えた。ボーっと廊下の窓から外を見ていた一吹は俺の声に気が付き、呑気に手を振った。
「はよ、繋。そんなに急いでどうした?」
「あずと北原は⁉」
「へ? さぁ……見かけてねぇけど……」
一吹が俺の様子を見て不思議そうにしながら答えたその時、階段から忙しない足音が聞こえた。
「あ、いたいた!繋!」
ドタバタと走ってきたのは、あずの手を引いた北原だった。
「やばいよ、大変なことになってるぞ⁉」
「教室がぐにゃって歪んで、皆も私たちに気づいてなくて……!」
「映像みたいになってた! あれどうなってんだよ⁉」
「お、落ち着いて二人とも……」
自分にも言い聞かせるように、捲し立てる二人をなんとか落ち着かせた。何も知らない一吹は、ぽかんとした様子で俺達を交互に見ていた。
「とりあえず、皆は普通で良かった」
「何のことだよ、繋」
「ちょっといろいろあってね。丁度良かった、皆が集まってくれて」
「もしかして何か見つけたの?」
あずが察して俺に問う。色を変えて俺は首肯した。
「世界の秘密か……?」と一吹が緊迫した面持ちで言った。
「その通りだよ。俺は世界の秘密をようやく見つけた」
「マジかよ繋! で、どんなのだったんだ?」
「……」
俺は口を噤む。
これから話すことは、皆にとっては衝撃的すぎるし残酷な真実だ。楽しく平凡に過ごしていたところに、突然「実は貴方は死んでいました」と告げるのだから。
「繋……?」
北原が不思議そうに小首を傾げた。俺が覚悟を決めて話そうと深呼吸をした時、もう一つの足音が背後から聞こえた。
「皆してこんなところでどうしたの?」
落ち着いた声に振り返る。
そこには、ここに居なかったもう一人の仲間が立っていた。
「……夕凪、俺は全てを知ったよ」
彼女に向き直って俺は静かに告げる。一吹たちはなぜ俺が夕凪にだけそう言ったのかを疑問に思っているように見えた。
夕凪は、特に驚く様子もなく、ただ少し悲しそうに目を細めた。
「俺はこれから真実を皆に話そうと思う。隠し事なんてせずに、ありのままのことをね。それが、秘密を探し求めた皆に対する誠意だと思うし、チーム・コンパスの仲間を思いやってのことだと思うからさ」
「……そう」
「でも、俺が話すのは間違いだと思う。俺は、この世界を作り出した本人――俺達に秘密を暴かせた世界の主権者から聞くべきだと思うんだ」
「主権者⁉」
「なに、それ……」
一吹と北原が同時にそう声をあげた。あずは訳が分からないと言ったように不安そうにしている。
俺は部屋を出る時に持ってきた日記帳を、彼女に向けて差し出した。
「ねぇ、夕凪。全てを教えてよ」
静かな風が俺達の間を吹き抜けた。
誰も口を開かなかった。無言の風が、ただ困ったように頬を撫でていく。視線を合わせたままの夕凪は、しばらくして日記帳を受け取って静かに口を開いた。
「……真実を受け入れる勇気のある者のみが全てを知ることができる」
「……」
「皆にその勇気と覚悟があるならば、私は全てを話すわ。世界の秘密を全てね。けれど、あなた達にとって辛い事実も含まれている。それでもあなた達は、世界の秘密が知りたい?」
夕凪が一人ずつゆっくりと目を合わせ、問いかける。曇りのない真っすぐな瞳が、体を射抜くような気がした。
「……こころは、本当に全部知ってんのかよ」
「えぇ。今まで黙っていてごめんなさい。すぐには話せる内容ではなかったから」
「それを聞いたら、アタシたちは外の世界にいけるのか?」
「どうかしら。あなた達の選択次第よ」
「私たちの選択次第……?」
「真実を聞いたうえでどうするかはあなた達次第だもの。私にどうこうする権利はないわ」
夕凪は髪を留める蝶のピンに触れ、目元に影を落とした。皆の決断次第で、俺達がこれからどうなるかが決まる。既に秘密のほとんどを知っている俺は、ドクドクと五月蠅い心臓の音を聞きながら、全員の返答を待った。
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