青空の彼方にて

鈴原りんと

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第三章:青空のその向こうへ

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「――ははっ! 面白いことしてくれたじゃん、こころ!」

 パッと明かりが灯るように、一吹が晴れやかに笑った。緊迫した空気が吹き飛ぶような笑顔に、俺達は目を瞠った。
「死んでからこんな楽しいことができるとは思わなかったぜ。すっげーコトしてくれたよ、ホント。こりゃオレの負けだな!」
「南雲くん……」
「いや、アンタは誰と競ってんだ」
「こころとに決まってんだろ! オレたちはこころとのゲームに負けた。完敗だ!」

 一吹はぐっと伸びをして、深呼吸をした。

「んな顔するなよ、こころ。オレさ、お前に酷い事言ったけど、今はすげぇ感謝してる。大事な親友のこと思い出させてくれたし、なにより平凡で楽しい青春をオレに与えてくれた。こころが居なきゃ、未練タラタラなまま幽霊にでもなってただろうよ」

 一吹が晴れやかな顔で笑う。少し照れくさそうなその顔を見て、夕凪の目が揺らいだ。

「掌返しみたいで悪ィけど、お前が導いてくれてよかった。最期にこんな楽しいスリル満点な冒険が出来るとは思わなかったぜ!」

 曇り一つない笑顔で言う一吹に、あずも声をあげた。

「私も……! きっと生前の私は、こんな風に高校生活を送ってみたかったんだよね。臆病な私一人じゃ体験できなかった今回のことも、ずっと忘れない思い出になると思う」
「アタシも同じ。大事な夢を思い出せたし、全力で青春できた気がする。なにより、こころや繋、あずや一吹と会えて良かった」

 三人がいつも通りの笑顔でそう言った。
 なんだよ、本当にお別れみたいじゃないか。
 きっと夕凪も同じことを思っているに違いない。なんだか目の奥が微かに熱くなるのを感じながら、俺は夕凪に言う。

「俺もだよ、夕凪。夕凪が居なきゃ、俺は何もかもを忘れたまま彷徨ってる寂しい幽霊になってたと思う。生まれ変わる前に、俺として高校生活を送れたのは、本当に奇跡みたいな幸せだ。皆と出会えたことも、この世界で生きられたことも、俺はずっと忘れない。ありがとう、夕凪」

 最後に礼を言えば、彼女の頬に涙が伝った。この学校に通い始めてから、初めて見た夕凪の涙だった。

「……ありがとう、みんな」

 あどけない泣き顔でそう言う彼女に、俺達は柔らかい笑顔で笑い合った。

「よし! 世界の秘密もオレたちがここで生きる理由も、だいたい分かった!あとはもう突き進むだけだな!」

 一吹が朗らかな声でそう言った。

「突き進むって、一吹は目指してんだ……」
「ここまで来たら、最後までやるしかねぇだろ?」
「最後って、つまり……」とあずが恐る恐る口を開いた。
「……成仏、だね」

 俺が言えば、しんと辺りが静まり返った。ここから旅立つ条件はもう揃ったのだ。後は、俺達がどうするかを選ぶだけ。

「ここでまた学校生活を送るのも、この世界を出ていくのも、俺達の自由だ。そうでしょ、夕凪?」
「……えぇ」
「それぞれ、好きな方を選べばいいと思う。これは、俺が強制できることじゃないし、自分以外の誰かから何を言われても自分自身が決めることだと思う」
「だな……」

 俺が言うと、一吹が真剣な顔で腕を組む。
 俺は皆の顔を窺った。不思議と、皆は悩んだような顔はしていなかった。覚悟はもう、とっくに決まっているらしい。

「行こうぜ、あの青空の向こうに」

 一吹が窓の外の青空を見つめていった。

「なーにかっこつけてんだ。素直に成仏するって言え」
「だってそんなん寂しいじゃねぇか! オレたちの冒険はまだまだこれからなんだよ! 少しくらいかっこつけたい!」
「打ち切り漫画みたいだよ、南雲くん……」
「ほんとだよ。まぁ、一吹の言う通り。俺もこの世界を出ていくほうを選ぶよ」
「アタシも」
「うん、私もだよ」

 俺達は頷く。
 最後に、夕凪を見て俺は問いかけた。

「……夕凪は?」

 あの日記を思い出す。
 彼女は、もうこの世界を終わらせたがっていた。だけど、その一歩を踏み出せなかった。それは、とある人物にずっと会いたかったからだ。
 でも、もうその願いも叶ってしまった。

「……行くわ。いつまでもここに居たら、私だけ出遅れちゃうもの」

 少しばかり悪戯っ子のような顔で夕凪は笑った。

「決まりだね。この世界から出るにはどうしたらいいの?」
「出る方法は一つよ」

 俺が訊ねると、夕凪は続けて言った。

「……卒業式」
「おぉ……なるほどな。学生らしくていいじゃん」
「卒業証書が、次の世界への切符のようなものだから。卒業証書を受け取って、この学校の学生を終えることによって、私たちで言うところの天国って場所に行くのよ」
「なんか現実的な話じゃないのに、案外すっかり受け入れられるものだね」
「分かるぜ繋。死んだってこと割り切ったらもう何でもありな気がしてきた。ワクワクしねぇ?」
「アンタは怖がったり怒ったりワクワクしたり忙しいな」
「南雲くんだから……」

 これから無になるというのに、一吹は何故か楽しそうだ。それに対して北原が呆れたようにツッコミを入れて、あずが苦笑すれば、俺と夕凪と顔を見合わせて笑った。

「じゃあ、皆で卒業式をしようか。まだ少し早いけどね」
「受験をスキップできたからオレとしては良いかもしれない」
「……相変わらずね」

 腕を組んでうんうんと頷いた一吹に、夕凪が困ったように微笑んだ。

「私は少し準備をしてくるから、皆は体育館で待っていて」
「俺も手伝おうか?」
「大丈夫よ。そんな大がかりなことじゃないもの。……体育館に行けば、もうほとんど準備は整っているだろうし」
「……日記に書いてあった望みを唱えれば叶うってやつ?」
「そうよ。その便利な力とも、今日でお別れね」

 夕凪は残念そうな物言いながらも、その顔は嬉しそうだった。お別れだなんて寂しい言葉だけれど、俺達は未来に進むために大きな一歩を踏み出すだけだ。
 人間は生まれ変わる。
 最初に夕凪と話した時に言ったように、また何度も生まれ変わってどこかで会えるかもしれない。そう思うだけで、この別れも明るいものに思えた。

「んじゃ、オレたちは体育館に行くか」
「うん。夕凪、向こうで待ってるね」
「えぇ。なるべく早めに向かうわ」

 俺たちは夕凪と別れ、体育館に向かった。
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