37 / 39
第三章:青空のその向こうへ
17
しおりを挟む
「――卒業証書、東屋優芽」
改まった夕凪の声と共に、どこからか小さなピアノの音が聞こえてきた。旅立ちを彷彿させる切ないメロディに、鼻の奥がつんとした。
「貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証します。……いつも私とお茶してくれたり、一緒に絵を描いたりしてくれてありがとう。卒業おめでとう、東屋さん」
「……こちらこそありがとう、こころちゃん」
優しい声でお礼を言いながら、あずが卒業証書を受け取った。丁寧に礼をし一歩下がると、彼女は一度目元を拭ってから舞台を下りた。卒業証書に書かれた名前を見つめて微笑むと、あずは席に着いた。
「北原さん」
「よし! ……なんか、緊張するなぁ」
柄にもなく緊張した様子の北原が、壇上にあがっていく。緊張している割には、意外にもしっかりとした所作で夕凪の前に立った。
「卒業証書、北原雅。貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証します。いつも元気な貴方がいてくれて、本当に楽しかったわ。またいつか、一緒にスポーツしましょう。それから、貴方のピアノ演奏も聞けたらいいな。卒業おめでとう、北原さん」
「へへっ、なんか照れくさいな。アタシもまたこころとバスケしたいな! ピアノだったら喜んで弾くから、いつでも聞きに来いよ!」
得意げに言った北原が卒業証書を受け取り、晴れやかな顔でこちらへと戻ってくる。
次は俺の番だなと立ち上がろうとすれば、隣に座る一吹に服を引っ張られた。
「なぁ、繋は最後にしねぇ?」
「出席番号順にしようって言ったのは一吹じゃん」
「まぁまぁ。繋はリーダーだし、最後の方がなんかしっくりくるじゃん!」
「そうかな……?」
「いいよな、こころ?」
「えぇ。いいわよ」
「夕凪まで……」
「ということで、次はオレ!」
流れで俺が最後になってしまった。急になんか緊張して、背筋が伸びる。
一吹はまだ夕凪に呼ばれていないのに、立ち上がっていた。
「一吹くん」
「おう!」
元気満々に返事をし、一吹は堂々とした足取りで舞台に上がった。
「卒業証書、南雲一吹。貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証します。あなたがいると、皆が笑顔になって嬉しかった。この世界に疑問を抱いてくれたことも、諦めずに最後まで頑張ってくれたことにも感謝してる。ありがとう、一吹くん。そして、卒業おめでとう」
「いいってことよ。すっげぇ楽しかったぜ、こころ。最後にとびっきりの思い出が出来た。……ありがとな」
一吹が卒業証書を受け取ると、涙を堪えたような様子で席に戻ってきた。
「……繋くん」
夕凪がしっとりと落ち着いた声で俺を呼ぶ。
終わりが迫っていた。
あの卒業証書を受け取れば、楽しかった学校生活が終わってしまう。死後の世界で過ごした少し不思議な学生生活。
俺は、この世界に来られて本当に幸せだった。
「ほら、行って来いよ」
ゆっくりと立ち上がった俺の背を、一吹が押す。不器用に微笑んで頷き、俺は夕凪が待つ演台の前へと進んだ。
一歩一歩進むたびに、天明高校での思い出が脳裏をよぎった。それこそ、走馬灯みたいに。
初めて夕凪と出会った日のこと。転校初日で一吹と仲良くなり、次の日には北原とあずと打ち解けていたこと。街の外れでキャンプをしたことや、全力でぶつかりあった体育祭。一日中笑っていた文化祭に、一吹の家で行ったクリスマスパーティ。願いを込めた初詣。
たった一年だったけれど、俺にはこんなにもたくさんの大切な思い出が出来た。
「……夕凪」
彼女の前に立ち、いつものように微笑んだ彼女を呼んだ。こくりと頷き、彼女は卒業証書を手に取った。
「卒業証書、西条繋。貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証します。……貴方とここで会った日から、全てが始まったのよね」
「……そうだね」
「貴方はいつでも私の手を引いてくれた。迷い込んだ学生たちと一線を引いていた私を、貴方は簡単に皆の輪へと連れてきてくれた。貴方がいなければ、私はきっと今もまだ一人で世界から目を背けていたかもしれない」
「そんなことないさ。夕凪は強いから、俺がいなくても前を向けたよ。……俺の方こそ、夕凪がいてくれてよかった。ここで夕凪に会えたから、俺はこうして真実と向き合うことができたよ。ありがとう、夕凪」
俺は証書を受け取って笑った。
彼女が、知らずのうちに俺に勇気を与えてくれていた。いつだって俺を信じてくれていたから、俺は世界の秘密に辿り着くことができたし、自分の死も認めることができた。
「……本当にありがとう、繋くん。卒業おめでとう」
もう一度礼を言って、俺は丁寧にお辞儀をした。流れていた音楽が余韻を残して消え去っていく。
体育館の姿も、少しずつ薄れつつあった。
「……これで終わりね。形だけの短い式だけど、付き合ってくれてありがとう」
夕凪が俺と舞台の下で待機している三人にそう言った。
「皆はもう校門をくぐれば、その先へ行けるわ」
「あー……とうとうかぁ」
「名残惜しいね」
「お別れ、だね……」
一吹たち三人が卒業証書を片手に、寂しそうに言った。
「卒業証書を筒に入れたら、先に外に出てていいわ。私は、この世界にお別れを告げてから行く。……卒業式は、以上で終了よ。お疲れさま、みんな」
夕凪はそう言って、俺達に卒業証書を入れるための筒をくれた。
「お! 高校の卒業式といえばこれだよな!」
「密かに憧れてたんだよね~!」
一吹と北原が小学生みたいに無邪気にはしゃいだ。その気持ちは分かる、と心の中で思っておきながら、俺は演台の前から去ろうとしている夕凪を引き止めた。
「待って、夕凪」
「なにかしら」
「まだ卒業式は終わってないよ」
俺は筒を演台の横に置いて言った。
「私のことはいいわよ?どうせ、皆より後でここを出ていくのだから」
「そんな寂しいこと言わないでよ。全員でここを出て行こう。短い間だけど、ここで過ごした仲間だから」
俺が立ち去ろうとする夕凪に言えば、いつの間にか一吹たちが壇上に上がってきていた。皆も同じ考えのようで、にこりと笑みを湛えて頷いた。
「ほら、早く!」と北原が夕凪の背を押して演台の正面に連れて行く。
「こころちゃんも、せっかくの卒業式だからね」
「そうそう! お前だけ卒業証書授与やらねぇの寂しいし!」
あずと一吹が夕凪の背を押す。夕凪は目を丸くしたまま瞬きを繰り返していた。
俺は夕凪が立っていた場所に行き、最後に残された卒業証書を手に取った。夕凪はそれを見ると、ふと微笑んで一歩こちらに進んだ。
「卒業証書、夕凪こころ。貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証する。卒業おめでとう、夕凪」
「……ありがとう、繋くん」
俺が少しぎこちなく読み上げれば、夕凪は笑って素直に卒業証書を受け取った。彼女は慣れているようで、綺麗な所作で卒業証書を受け取ってみせた。
「……私、いつも見送る側だったから変な気持ち」
「寂しいけど、悪くはないでしょ?」
俺が訊ねれば、夕凪は頷いて笑った。
「んじゃ、皆で校門向かうか!」
一吹の声を筆頭に、俺たちは五人でのんびりと歩きながら校門へと向かった。
体育館を出る時に、名残惜しくて一度振り返る。そこには、もういるはずのない『皆』の姿が見えたような気がした。
俺たちの青春を彩ってくれたクラスメイトたち、先生、委員会の後輩。それから、母さんや父さん、近所の人たち。彼らはデータのような存在だったけれど、確かにこの世界での俺の人生を楽しい物に作り上げてくれた大事な人たちだ。
ありがとう。
溢れそうな涙を堪えて、俺は体育館を後にした。
改まった夕凪の声と共に、どこからか小さなピアノの音が聞こえてきた。旅立ちを彷彿させる切ないメロディに、鼻の奥がつんとした。
「貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証します。……いつも私とお茶してくれたり、一緒に絵を描いたりしてくれてありがとう。卒業おめでとう、東屋さん」
「……こちらこそありがとう、こころちゃん」
優しい声でお礼を言いながら、あずが卒業証書を受け取った。丁寧に礼をし一歩下がると、彼女は一度目元を拭ってから舞台を下りた。卒業証書に書かれた名前を見つめて微笑むと、あずは席に着いた。
「北原さん」
「よし! ……なんか、緊張するなぁ」
柄にもなく緊張した様子の北原が、壇上にあがっていく。緊張している割には、意外にもしっかりとした所作で夕凪の前に立った。
「卒業証書、北原雅。貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証します。いつも元気な貴方がいてくれて、本当に楽しかったわ。またいつか、一緒にスポーツしましょう。それから、貴方のピアノ演奏も聞けたらいいな。卒業おめでとう、北原さん」
「へへっ、なんか照れくさいな。アタシもまたこころとバスケしたいな! ピアノだったら喜んで弾くから、いつでも聞きに来いよ!」
得意げに言った北原が卒業証書を受け取り、晴れやかな顔でこちらへと戻ってくる。
次は俺の番だなと立ち上がろうとすれば、隣に座る一吹に服を引っ張られた。
「なぁ、繋は最後にしねぇ?」
「出席番号順にしようって言ったのは一吹じゃん」
「まぁまぁ。繋はリーダーだし、最後の方がなんかしっくりくるじゃん!」
「そうかな……?」
「いいよな、こころ?」
「えぇ。いいわよ」
「夕凪まで……」
「ということで、次はオレ!」
流れで俺が最後になってしまった。急になんか緊張して、背筋が伸びる。
一吹はまだ夕凪に呼ばれていないのに、立ち上がっていた。
「一吹くん」
「おう!」
元気満々に返事をし、一吹は堂々とした足取りで舞台に上がった。
「卒業証書、南雲一吹。貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証します。あなたがいると、皆が笑顔になって嬉しかった。この世界に疑問を抱いてくれたことも、諦めずに最後まで頑張ってくれたことにも感謝してる。ありがとう、一吹くん。そして、卒業おめでとう」
「いいってことよ。すっげぇ楽しかったぜ、こころ。最後にとびっきりの思い出が出来た。……ありがとな」
一吹が卒業証書を受け取ると、涙を堪えたような様子で席に戻ってきた。
「……繋くん」
夕凪がしっとりと落ち着いた声で俺を呼ぶ。
終わりが迫っていた。
あの卒業証書を受け取れば、楽しかった学校生活が終わってしまう。死後の世界で過ごした少し不思議な学生生活。
俺は、この世界に来られて本当に幸せだった。
「ほら、行って来いよ」
ゆっくりと立ち上がった俺の背を、一吹が押す。不器用に微笑んで頷き、俺は夕凪が待つ演台の前へと進んだ。
一歩一歩進むたびに、天明高校での思い出が脳裏をよぎった。それこそ、走馬灯みたいに。
初めて夕凪と出会った日のこと。転校初日で一吹と仲良くなり、次の日には北原とあずと打ち解けていたこと。街の外れでキャンプをしたことや、全力でぶつかりあった体育祭。一日中笑っていた文化祭に、一吹の家で行ったクリスマスパーティ。願いを込めた初詣。
たった一年だったけれど、俺にはこんなにもたくさんの大切な思い出が出来た。
「……夕凪」
彼女の前に立ち、いつものように微笑んだ彼女を呼んだ。こくりと頷き、彼女は卒業証書を手に取った。
「卒業証書、西条繋。貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証します。……貴方とここで会った日から、全てが始まったのよね」
「……そうだね」
「貴方はいつでも私の手を引いてくれた。迷い込んだ学生たちと一線を引いていた私を、貴方は簡単に皆の輪へと連れてきてくれた。貴方がいなければ、私はきっと今もまだ一人で世界から目を背けていたかもしれない」
「そんなことないさ。夕凪は強いから、俺がいなくても前を向けたよ。……俺の方こそ、夕凪がいてくれてよかった。ここで夕凪に会えたから、俺はこうして真実と向き合うことができたよ。ありがとう、夕凪」
俺は証書を受け取って笑った。
彼女が、知らずのうちに俺に勇気を与えてくれていた。いつだって俺を信じてくれていたから、俺は世界の秘密に辿り着くことができたし、自分の死も認めることができた。
「……本当にありがとう、繋くん。卒業おめでとう」
もう一度礼を言って、俺は丁寧にお辞儀をした。流れていた音楽が余韻を残して消え去っていく。
体育館の姿も、少しずつ薄れつつあった。
「……これで終わりね。形だけの短い式だけど、付き合ってくれてありがとう」
夕凪が俺と舞台の下で待機している三人にそう言った。
「皆はもう校門をくぐれば、その先へ行けるわ」
「あー……とうとうかぁ」
「名残惜しいね」
「お別れ、だね……」
一吹たち三人が卒業証書を片手に、寂しそうに言った。
「卒業証書を筒に入れたら、先に外に出てていいわ。私は、この世界にお別れを告げてから行く。……卒業式は、以上で終了よ。お疲れさま、みんな」
夕凪はそう言って、俺達に卒業証書を入れるための筒をくれた。
「お! 高校の卒業式といえばこれだよな!」
「密かに憧れてたんだよね~!」
一吹と北原が小学生みたいに無邪気にはしゃいだ。その気持ちは分かる、と心の中で思っておきながら、俺は演台の前から去ろうとしている夕凪を引き止めた。
「待って、夕凪」
「なにかしら」
「まだ卒業式は終わってないよ」
俺は筒を演台の横に置いて言った。
「私のことはいいわよ?どうせ、皆より後でここを出ていくのだから」
「そんな寂しいこと言わないでよ。全員でここを出て行こう。短い間だけど、ここで過ごした仲間だから」
俺が立ち去ろうとする夕凪に言えば、いつの間にか一吹たちが壇上に上がってきていた。皆も同じ考えのようで、にこりと笑みを湛えて頷いた。
「ほら、早く!」と北原が夕凪の背を押して演台の正面に連れて行く。
「こころちゃんも、せっかくの卒業式だからね」
「そうそう! お前だけ卒業証書授与やらねぇの寂しいし!」
あずと一吹が夕凪の背を押す。夕凪は目を丸くしたまま瞬きを繰り返していた。
俺は夕凪が立っていた場所に行き、最後に残された卒業証書を手に取った。夕凪はそれを見ると、ふと微笑んで一歩こちらに進んだ。
「卒業証書、夕凪こころ。貴方が天明高等学校の全過程を修了したことをここに証する。卒業おめでとう、夕凪」
「……ありがとう、繋くん」
俺が少しぎこちなく読み上げれば、夕凪は笑って素直に卒業証書を受け取った。彼女は慣れているようで、綺麗な所作で卒業証書を受け取ってみせた。
「……私、いつも見送る側だったから変な気持ち」
「寂しいけど、悪くはないでしょ?」
俺が訊ねれば、夕凪は頷いて笑った。
「んじゃ、皆で校門向かうか!」
一吹の声を筆頭に、俺たちは五人でのんびりと歩きながら校門へと向かった。
体育館を出る時に、名残惜しくて一度振り返る。そこには、もういるはずのない『皆』の姿が見えたような気がした。
俺たちの青春を彩ってくれたクラスメイトたち、先生、委員会の後輩。それから、母さんや父さん、近所の人たち。彼らはデータのような存在だったけれど、確かにこの世界での俺の人生を楽しい物に作り上げてくれた大事な人たちだ。
ありがとう。
溢れそうな涙を堪えて、俺は体育館を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる