絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種

たまに何かを書く人

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第4章 仲間とつくった絆

第五節 悔しさの先に

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全国大会当日。
会場は、これまでの市や県の大会とは比べものにならないほど広く、音も光もひときわまぶしかった。

アッププールへ向かう途中、ハルとユキはそっと手のひらを合わせる。

「いけるよ、私たちなら」

「うん。ここまで全部、無駄じゃなかった」

観覧席からふたりを見つめるさちは、胸の奥に熱いものを感じながら、両手をぎゅっと握りしめた。
(私も、いつか――ここに立ちたい)

予選、準決勝。
ふたりは順調に勝ち進んだ。フォームもタイムも安定し、これまで積み重ねてきた努力が、はっきりと結果に表れていた。

そして迎えた決勝。
空気が変わる。観客の応援、選手たちの緊張感。すべてが張り詰めていた。

「位置について――」
ピッ!

スタート音が響き、水しぶきが静かに広がる。

ふたりは、まるで鏡写しのように、ぴたりと揃った動きでプールを進んだ。

折り返し。
残り25メートル――
懸命に水をかいても、先頭との差はわずかに縮まらない。

残り10メートル。
ハルがラストスパートに力を込める。ユキも歯を食いしばり、水を押し分けるように進む。

――そして、ゴール。

会場に静寂が戻る。

「第4位、白水ハル選手。第5位、白水ユキ選手」

名前は呼ばれた。
だが、表彰台には届かなかった。

タッチ板に手をかけたまま、ハルはその場から動けずにいた。
ユキも、うつむいたまま目を閉じている。

プールから上がったふたりは、控室の隅に並んで腰を下ろし、肩を小さく震わせた。

「……あとちょっとだったのに」

「もう少しで、届いたのに……」

その言葉に、さちは何も返せなかった。
(悔しい――ふたりがあんなに努力してきたのに。自分だって、ずっと見てきたのに……)

気づけば、さちの頬にも涙が伝っていた。

「……ごめん、わたしも悔しい」

三人は、言葉を交わすことなく、肩を寄せ合い、しばらくそのまま泣いた。

そのとき、背後から優しい声がした。

「泣いていい。泣けるくらい、がんばったんだよ」

振り返ると、コーチが静かに立っていた。

「悔しい気持ちは大切にしてほしい。今日の結果は、いまの実力。でも、それは“ここまできた証”でもあるんだ」

三人は顔を上げ、コーチのまなざしを見つめた。

「小学生最後の大会で、全国の舞台に立った。その事実だけで、もう十分に誇らしいよ。表彰台じゃなくても、君たちが積み上げてきたものは、何ひとつ無駄になっていない」

「日々のトレーニング、フォームの工夫、食事の意識……全部が、これからの人生の土台になる。身体にも、心にも、ちゃんと染みついてる」

「だから、また進もう。悔しさは、次の一歩に変えられる。君たちなら、きっと大丈夫だ」

三人の目に、ゆっくりと光が戻る。

「……コーチ、ありがとうございます」

「うん。また、がんばりたい」

「もっと強くなりたい。だって……」

さちが小さく笑った。

「わたしたち、まだ終わってないもんね」

三人は、手を取り合った。

全国の舞台で流した涙は、悔しさと誇りの入り混じった、確かな成長の証だった。
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