拗らせ恋の紡ぎ方。

花澤凛

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04.デートってものをしてみます

王子様とデートです②

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 「わあ、綺麗!」
 
 一面に広がる東京湾。
 太陽の光を浴びた海は煌めきながら人々の視線を釘付けでいた。
 だが、周囲の様子を他所に私の視線は今、艶やかな赤を捉えている。
 
 「せめて海見て言ってくれる?」
 「どうして?綺麗な色じゃない。新鮮な証拠よ」
 「そうだけど。まあいいか。食べよう」
 「うん!」

 自宅を出て約一時間。
 初めの目的地に到着した。
 
 此処は海に浮かぶサービスエリア。
 お食事処は勿論、ゲームセンターや展望デッキなどもあるらしい。
 私達はそんなアクティビティには目もくれず、まずはお腹を満たすことを優先した。
 その結果選んだ先は回転寿司。
 活きのいいネタは鮮度抜群よ。
 色もとても綺麗だしね。
 だから綺麗って言ったのにビー太郎はちょっと不満そう。
 
 「おいしい」

 早速ひとつ、と口に入れて咀嚼する。
 思わず呟けば、ビー太郎が満足そうに頷いた。
 そして何故か私のお皿から残ったひとつをとっていく。

 「自分で取ればいいじゃない」
 「この方が沢山種類食べられるじゃん」
 「……そうだけど」
 「だったら好きなの取って」

 ほら、早く。
 と言われて仕方なく次の皿を取る。
 
 「どうしてそれとるかな」
 「いいじゃない。食べたかったんだから」

 話の腰を折るように流れてきた皿は一つしかお寿司がのっていなかった。
 その代わりネタがかなりのビッグサイズ。
 食べたいから取ったのにビー太郎は不満らしい。

 「はいはい。わかったよ。好きなの食おう」

 ビー太郎は早々に諦めたようだ。
 いったい何をしたかったのか分からなかったけど、とりあえず普通に食べながらあれこれと話して店を出た。

 「コーヒー飲みたい」

 ビー太郎の一言で旅のお供にコーヒーを買う。
 飲み慣れたカフェショップが入っていたのでいつものメニューでお願いした。
 その間に私はパウダールームに向かう。
 メイクを直していると、携帯が震えてスライドに『新井さん』と表示された。

 「もしもし」
 『あ、結城さん?新井です。今いいですか?』

 新井さんの電話は明日のお茶のこと。
 だけど、前の予定がなくなったのでランチに変更できないか、ということだった。

 「問題ないですよ」
 『そうですか。よかったです』

 電話の向こうからホッとした感情が伝わってくる。
 新井さんは今日も仕事で要件だけで電話を切った。

 “明日、楽しみにしています”と言って。

 「明日何も予定ないし、ランチでもお茶でもいいんだけど」

 パウダールームから出て、ビー太郎が並んでくれていたカフェに向かう。
 だけど、歩き始めて少しして首を傾げることになった。

 「あれ?こっちじゃなかったかな」

 あたりを見渡しながら店内地図を探した。
 こういう広い建物には間隔的に地図があるはずだと思い、今の自分の位置情報を探る。

 「……やっぱり反対だったか」

 でもこのままぐるって回れば

 「ねえ、ひとり?」

 隣から誘うような声が聞こえた。
 私は知らないフリをして地図を眺める。
 だけど歩き出そうと振り向いたところで塞がってしまった。

 「すげー美人じゃん」
 「お姉さんひとりなの?」
 「どこいくの?迷った?」

 まあまあ体格の良い男が三人。
 通せんぼするように立っていた。
 立ってるだけで邪魔だし、立ち方に悪意があるわ。
 明らかなナンパね。

 げんなりしながら仕方なく方向転換して元きた道を戻ろうとすると後ろからわらわらついてくる。

 「ねえ」

 無視だ。無視無視。
 こんなの少しでも耳を貸せば負けなのよ。
 
 すれ違う人は皆不思議そうな顔をしている。
 そりゃそうだ。早歩きしている私に後ろから男がついてくるんだから。

 ってか、店内に警備員はいないの?!

 「ねえってば」

 「綾乃」

 そこに聞き慣れた、だけどいつもより低い声が私を呼んだ。
 名前で呼ばれて少し驚いたけど、ビー太郎を見た瞬間安心感が勝って頬が緩む。
 だけど彼は私を隠すように立つと地を這うような低い声で男達に訊ねた。

 「…彼女に何か?」
 
 なんだかちょっと可哀想だ。
 だってビー太郎を見たら誰だって白旗あげたくなるもの。
 
 「あ、いや。その」
 「ま、迷ってたみたいだったから」
 「そうそう」
 「うん。じゃあ」

 案の定男達は呆気なく退散した。
 そもそもこんなパーキングでナンパするのもどうかと思うわ。

 「……結城」
 「ひゃい!」

 ここでまさかとばっちりが来るとは思っていなかったせいで凄く油断していた。
 おかげで盛大に噛んだわ。

 「……たく。目を離すと迷子とかいくつだよ」
 「すみません」
 「いや。俺も結城方向音痴なの忘れてた」
 「方向音痴じゃないわ。ただ曲がるところを間違えただけよ」

 それに初めてきた場所だし。

 「威張ることじゃないから」

 ビー太郎に訂正されたけどそこは華麗にスルーしておくことにした。
 ビー太郎が呆れているけど構うものか。
 
 「ほら」

 そして何故か差し出された手に眉を顰めた。
 この手は何さ、と言いたけれど言う前に右手が攫われてしまった。

 ひぃいいいえええええええええーーーーー

 「なに?」

 ビー太郎に横目で睨まれたけど、正直それどころじゃない。

 え?どうして??どうして、手繋いでるの!!

 「ど、どどどうして」
 「はははっ。吃りすぎ」
 
 ど、吃りもするわよっ
 急に、手、なんて。

 ……しかもビー太郎の手大きいし。

 当然のことなのに、今更ながらビー太郎は男なんだと改めて意識してしまった。
 ずっと想い続けていたのに変よね。
 こんな時に思い知らされるなんて。

 「繋いでおかないとまたふらふらほっつき歩くじゃん」

 なによ。人を幽霊みたいに。

 「次どこ行くの?」
 「次?……当ててみて」

 繋がなくていい、と振り解くのは簡単だった。
 ビー太郎は私の手を攫ったくせに握りしめる力は弱くて遠慮がちで、私の歩くスピードが少し緩んだだけで解けそうになる。

 「えー。ヒント!ヒントちょうだい」
 
 じんわりと手のひらに汗をかく。
 それを少し申し訳なく、恥ずかしく思いながらも、繋いだ手に少しだけ力を込めた。
 その手を解きたくなくて、解けないよう気をつけながら彼の隣を歩くのだった。



 


 
 
 
 
 
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