余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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肌ぴちぴち 2

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昼の休憩時間の一刻ほど前。薬の調整をしていたスーランの元にほぼ気配なくホーイェンが近づく。スーランの視界に入らず、耳の近くで静かに声をかけた。


「スーラン」
「―――」
「…スーラン」
「―――――――、何でしょう」
「リグリアーノが、来ている」
「―――――――」
「話したいこと、があると、言っている」
「――――――断っておいてくださいよ。仕事中」
「…一応、王族」
「―――一応、そうでした。……食堂に来いと伝えてください」
「わかった」


集中しているスーランに配慮して話しかけられるのはホーイェンとキリウだけだ。他の者が同じことをしても無反応なことから二人だけが彼女の中で受け入れられているらしく無意識のようだ。

そんな中緊急でもない理由で仕事の邪魔をするなとスーランは思ったが、相手は『一応』王子なのでそこは我慢した。とはいえ食堂に呼びつけてはいるが。


その後昼休憩のチャイムが鳴り、ぞろぞろと人が研究室から居なくなるがスーランは区切りがつくまで続けていた。半刻弱経ってからようやくゆっくりと瞬きをして体を伸ばしてから立ち上がると、近くで作業をしていたキリウが声をかけてきた。


「あ。スーランさん終わりました?食堂行きましょう」
「うん。お腹空いた」
「朝スープだけでしたよね。ドリスがスーランさんの寝起きの度合いを侮っていたと言っていましたよ」
「私の寝起きの悪さってどれだけ高レベルなんだろうね」


そんな話をしながら食堂に向かう。魔術隊は攻撃・防御・治療と施設ごとに分かれてはいるが、食堂はその三施設の真ん中に位置されているので皆一緒になる。

広い食堂に入ると昼休憩の後半だからか人はまばらになっていた。


「どこでも座…ってあそこになりそうですね」


キリウの視線の先を追うと、テラス席近くの陽の良く当たる席に灰色のローブを羽織った見た目が目立つ二人が座って一人は手を振っている。


「何でかなぁ」
「きっと父上とのことを根掘り葉掘り聞き出そうとしてるんですよ」
「そうじゃなくて陽射しの良いところで食事したら眠くなっちゃう」
「…スーランさんはスーランさんですね」


含み笑いをしながらキリウからランチのメニューを聞かれ何でも良いと答えた。一緒に待とうとするもトレイを持つとふらつくから先に行っててくださいと言われ、素直に頷いて席の方へ歩いていった。


わざわざスーランを待っていただろう二人の防御魔術師。

一人は防御魔術の長であり、バウデンとホーイェンと共に魔術隊を支えてきた五大侯爵の狼族でコーネイン・ウルフィリアだ。

長身で細身に見えるがそれなりに鍛えている体格は緩め仕様の魔術服からは想像できないほど均整が取れている。茶色の短髪に切れ長の赤茶色の瞳は鋭く、多くを語ることはないコーネインではあるが案外話しやすかったりする。

対して手を振ってここに居るアピールをしていたのは、一応王族の一応王子であり、一応防御魔術師として一応所属している、バロアス国第三王子のリグリアーノ・バロアスである。

一角獣特有の麗しい顔立ち、毛先だけがエメラルドに輝く白銀色の長い髪は眩いほどでスーランの眠気を妨げるのが若干腹立たしい。宝石のようなマゼンタ色の瞳をにっこりと細めて待ちかねたように話しかけた。


「お待ちしてました。ええ、それはもう半刻ほど」
「何故か私も付き合わされたが」
「コーネインさん、毎度ご苦労さまです」
「おや、僕に労いの言葉は無いのですか?」
「ご苦労だったな」
「ぶはっ」


スーランの無遠慮な返しに噴き出して下を向いたのは麗しいご尊顔のリグリアーノだ。そして次に顔を上げた彼の表情は片眉を上げながら口角をにやりと上げたまあ悪そうな顔になっていて。

先ほどの美麗な笑顔はまがいものでこれが彼の本来の姿なのである。



「あんた相変わらずだなー」
「王子もね」
「王子は俺の他にも居るけど?」
「上二人は名前で呼んでいるから」
「国王みたいにリグさんって呼んでも良いのに」
「面倒」
「なんで」
「やり取りの枝分かれが増えるから」
「つれないねぇ」


スーランは二人の向かいに座るが、程良く当たる陽が余計に食事どころではないかもしれない。


「今日は化粧してもらってるの?良いじゃん」
「身嗜みの一つなんだって」
「元が良いのもあるが、結構変わるものだな」
「ありがとうございます」
「ねえ、何で俺にはそれないの?」
「日頃の行い」


程なくしてキリウが二人分のトレイを持ってやってきた。


「リグリアーノさん相変わらずですね」
「キリウは良いよなぁ。今回一番良い席から見られるんだから」
「特等席ですね」
「キリウありがと」
「いえいえ」
「あれ。俺は席を取っておいてやったんだけど」
「良くやった」
「ぶふっ」
「リグリアーノ…お前は本当に喧しいな」
「コーネインさんいつもお察しします」
「お前もな」


スーランとコーネインは共に厳かに頷く。
コーネインは侯爵であるが、昔から研究おたくのリグリアーノのお目付け役のような役割を担っていた。リグリアーノ自身もコーネインを誂いながらも慕っているので王子と侯爵と言えどこのような会話が成立している。

そしてスーランとも同様だ。誰にでも同じ対応をするスーランがリグリアーノとしては心地良いらしい。その変わりこうやって度々絡んでくるのは面倒なのだが、彼との話は研究も含めて面白いし嫌いではない。ただしつこい時は鬱陶しい。

キリウに関してはお互い腹黒属性だと認識しているらしく、特に反発し合っていないので問題ないそうだ。





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