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怠惰な人誑し 1
しおりを挟むそれからあっという間に二ヶ月が過ぎた。
バウデンとの関係も特に変わらず良好で、基本スーランから魔力寄越せとばかりに襲う形が定着しつつ、時にはムラムラが発動されたりと賑やかに過ごしていた。
回数は週に一、二度バウデンからしっかりと搾り取るルーティンとなっている。
スーランの生態は今では屋敷内誰もが知るところとなり、上位数名はキリウからの情報も得てかなりのスーランマニアとなりつつあった。
「ねえ、私ってあまり微笑まないの?」
ある時スーランが大好きな至高の時間、入浴中に頭を洗って貰っているドリスに尋ねる。
「どうしました?突然」
「バウデンさんとは別の意味で私はあまり表情が動かないって話。いつもぼーっとしているし」
「表情ですか…確かにいつも眠そうではありますね」
「でもたまに微笑まれる時は、こちらも何だか幸せな気持ちになりますね」
「確かに。スーラン様は貴族令嬢のように笑顔を仮面として扱っていませんし、無理して表情を作ることがないので是非そのままで居ていただきたいと願っています」
「そうなんだ。確かに愛想笑いは無理だなー」
スーランの言葉にドリスとフリアは顔を合わせて微笑んだ。
スーランが表情に出さないと言うのは本人曰くあまり感情が動かないことに起因しているのは確かなのだろう。あまり物事に動じないというのもある。
キリウ曰くバウデンを始め魔術長の二人、王子、宰相、更には国王陛下まで行動と態度は一貫していると聞いている。
しかも屋敷内で話している無遠慮な喋り方の内容までそのまんまなのだとか。
スーランのそれは人によっては礼儀に則らない無礼な人物と批判されることだろう。
だがスーランは元から高位の者や高位にのし上がった者に媚び諂うことは一切無く、どれをとっても始めから終わりまで態度がぶれないのだ。
それらを全て加味した上で、スーランの他の部分を含め相手が受け入れ認めてるからこそ今の状況が成り立っている。
スーランが公爵家に来た時のことだ。
ドリスとフリアは始めこそ驚いたが、長年伴侶がおらずようやく公爵家に女性が訪れるとのことで楽しみにしていた。
だがバロアス国王族の次に身分の高い公爵家に輿入れした人族の元孤児。
人族は人口が少なく獣人族は寄り添って大事にしようという風習はあっても、スーランの場合はバウデンが自ら想い欲したのでは無く、期間限定とはいえ褒賞として望まれたということで、屋敷で働く者達の心中は様々だっただろう。
彼らは主が決めたことなのだからと誰もが誠実に仕事をこなしていたが、個人の主観は別物である。
序盤からイーガンとグェンが水面下で定期的に使用人のスーランへの対応、態度を調べていた。
それは国王陛下の覚えもめでたく、薬の開発や治療魔術師としても有能だとはいえ、バウデンに望まれたのではないスーランに対して悪感情を持ち仕事を全うしない者が居ては困るからだ。
それをさせたのはホークル家当主でなく嫡男キリウであった。
キリウから当初屋敷の者全員に通達されたことから始まっていた。
スーランは偏った嗜好以外は無欲であり、怠惰ではあるが人を貶したり陥れたりする人物ではないことを伝えてられている。横柄な態度や傲慢さが微塵もなく、優秀で精製や魔術に対して誠実に向き合っていると褒めていたくらいなのだ。
そもそもキリウはパッと見とても温厚そうに見えバウデンのように少し近寄り難い雰囲気も無く、とても社交的で無害に見えるが実際は違う。
若干十八歳ではあるがバウデンの物事全体を見据える目と冷静な判断はしっかりと遺伝しており、人を見る目が長けている。
公爵家嫡男ということで絶え間なく蔓延る輩、媚びたり擦り寄ってくる亡者達を片っ端から無情に切り捨てていっているのだ。
そして穏やかな表情で繰り出される腹黒さ全開の言葉は相手の心をこれでもかと容赦無く折ってくる。
過去に公爵家に雇われた一物抱えた者や嫡男の妾目当てで忍んできた女性をバウデンだけでなく、己でしっかりを芽を摘み、仕出かした者達のまともに生きられる未来をしっかりと断っている。
そんなキリウが治療魔術師になってから、自ら近くに居て彼女を慕い、いつも一緒にいる時点である意味公爵家からすると合格点に匹敵する人物ということになるのだ。
そして使用人達は実際にスーランと関わったことで己自身で彼女の人となりを知り決定打となった。
「では香油を塗りますね。…スーラン様、香油の方が残り一瓶を切りましたが」
「あぁー気持ち良いー…近々友人と飲みに行く予定だから、その時にお願いしておく」
「了解致しました。それにしても本当に芳しい香りですね」
「本当?それ聞いたら喜ぶよ。今度皆にくれてやるー」
「え、よろしいのですか?」
「うん。お世話になってるし。数種類作ってもらって好きな香り見つかったら今度はお客として購入してあげて」
「ドリスさんと一緒で実は私もずっとどこで売られているか気になっていたんです!」
「そうなんだ。王都の端の方にある薬屋…兼何でも屋みたいな店なんだけど、そこに定期的に卸しているんだ。店主がちょっと怪しげに見えるかもしれないけど、実害ないから大丈夫ー」
「あ。私そこ知ってます。とても麗しい男性なんですけど女性言葉で話される店主ですよね?」
「そうそう。企みで近づかなければ大丈夫な人種」
「スーラン様はご存知なんですか?」
「腐れ縁に近いかな。ただ一から全部一人で作っているから量産はできないんだ…ああ、もう寝そう。口から涎か水がわからないけど流れてくる…」
「ふふ。それは涎ですよ」
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