余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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禁忌の呪いと育んだ心 1






その後昼過ぎまでバウデンと惰眠を貪ったスーランは、何故か当たり前のように夫婦の寝室に湯を入れに来たり、昼食を運んできたりするドリスやイーガン達にひたすら首を傾げていた。

バウデンに聞いてみると、「公爵家の使用人はそのくらい把握できる」と言われたので、公爵家というものは凄いのだなと感心した。


「周年式典での懸念点が解消されなくてな」


湯を浴びた後、綺麗に変えられた寝台の上でのんびりと昼食をいただいていると、バウデンから最近周囲がざわついているその後の経過を教えてくれた。

バウデンはのんびり食べるスーランの数倍の早さで食事をしながら続けた。


「ロンダース国の残党…元国王の妾の子が有力視されていたが確実になった。そいつは無駄に魔術を齧っていて、当時から自分が次期国王になるために色々と画策していたらしい。元々無理な状況で更に今ではもう国王自体交代しているから意味がない…だが」


それならば元自国であれこれ勝手にやれば良いのに、そうではないということはバロアス国が関与したことで、こちら側に逆恨みしているということだろう。


「ロンダース国は魔術に疎い。大した基礎もないのに怪しげな魔術師といつも籠もって何かしていたと元使用人から聞き込み済みだ。恐らく人に見つからない地下あたりで下劣な魔術…知識も常識も無いものを掛け合わせたものを作っていたと懸念されている。…呪いと言っても過言ではない」


魔術は便利なものではあるが基礎を知り知識を得なければ、薬と一緒で服用の仕方や扱いによっては逆に危ういものとなる。


「そこで編み出したものを、当然奴らは自分達では試さない…奴隷や平民を拉致して人体実験しているという情報が前々から入っていた。――――それを受けた者は短時間で体内の魔力を食い尽くされるという最悪な呪いだ。最早禁忌の呪いだな」


魔術というものは錬金と一緒で基礎から学び、それぞれ禁忌に触れないように注意して行うもの。無闇に効果を増大させると計り知れない効果を齎すかもしれないが、ちゃんとした手順を踏まないとそれ同等の返しもセットになるのが常となる。

そして何より恐ろしいのは、ちゃんとした基礎も順序もなく編み出された魔術は解呪や消滅、無効化できるものが極端に少ない。

それは世に蔓延っているスーランの漸減症を始め恐ろしいものとなりかねないのだ。漸減症始め他の不治の病と言われているものは経てして自然から発生するものではなく、欲望に溺れた人が作り出しているものが多い。


「ようやく落ち着きを取り戻していたロンダース国だが水面下でそのような動きがあることは知っていたからな。注視してはいたんだが……半月前に騎士隊の一人がその呪いを放たれ命を落とした」


その言葉にスーランはバウデンを見る。無表情のままコーヒーを飲んでいるが、そのレモン色の瞳には悔恨が滲み出ていた。


「…その騎士が仮死状態で騎士隊に運び込まれた時、たまたま騎士隊に私は出向いていた。明らかに不可解な状態だという報告に騎士隊の統括と直接出向いたが、…僅かに彼の周りに蔓延る…薄い、ドス黒い魔力の色が見えた」
「黒い…魔力」


魔力は基本殆ど見えないがスーランのように魔力量が多いものや強い魔力持ちが使う時に顕現することがある。だがそれは淡い色のものばかりで黒なんて聞いたことがなかった。何をどれだけ重ねて凶悪な魔術を編み出したのだろう。


「どれだけ人体で試して作ったんだか。その後私とコーネインとホーイェンで亡くなった騎士の身体から極少量だが、その呪いの残滓がとれたんだ」
「え…」
「それの解明に手間取っていた。下手に触れて同じに症状に罹っては堪らない。更に極少量ずつに分けて最悪罹っても対応できるようにしている最中だ」
「もうそれは行ったんですか?」
「ああ。私とホーイェンだな」


最近ホーイェンが良く席を外していたのはそういう理由だったのか。


「二人共体に異変はないんですか?」
「ああ。直接触れることはリスクを伴うから間接的にな。それでわかったことが一つだけ」


バウデンが一点を見つめながら呟いた。


「治療魔術を施すと更に状況を促進させてしまう醜悪な呪いだった」
「!」


それだと治療魔術という行為そのものが出来なくなってしまう。


「それじゃあ…」
「ああ。治療魔術が効かない。寧ろ逆だ。それでも残りの残滓でどうにか少しでも方法を探し出すことができればいいんだが」


話を一通り聞いて、スーランは疑問点を投げかけてみる。


「禁忌の呪いと言っていましたよね?」
「ああ」
「何故禁忌だと判断を?それに騎士を見て何故隣国の仕業だとわかったんですか?」


その言葉にバウデンの無表情が僅かに眉を寄せた。


「亡くなった騎士と共に巡回をしていた騎士からの報告だ。巡回中にローブを被った怪しげな奴を見たと民から聞き騎士達はその後を追った。もう一人…共に巡回していた騎士が、亡くなった騎士が路地裏に逃げていく奴を追っていった後、少しの喧騒と何かが倒れる音がして駆けつけると彼は外傷は何も無いのに胸を掻きむしって苦しんでいた。―――その少し先には首にナイフを突き刺した状態で血を流し絶命しているローブの男がいた」


その言葉でスーランは禁忌の意味が理解できた。


「自分の命と引き換えに…」
「ああ。恐らくな」
「騎士はそれからどれくらいで…」
「元々魔力の器が大きくなかったのか、数分で枯渇状態になってあっという間に仮死状態。それから一刻もかからずに…亡くなった」
「仮死状態から早すぎませんか?」
「すぐに魔力薬による処置はしていた。それなのに…恐らく体内にその呪いがずっと蔓延っていて魔力薬すら食い尽くし他にも攻撃したのだという見解だ」


魔力だけでなく他の体内の機能も破壊された。とんでもない脅威の呪いにスーランも僅かに眉を顰める。


スーランはふと漸減症と言われる病もこうして作られたのかと思った。自然の摂理からでなく人が生み出した悍ましい禁忌のもの。人を苦しめるものを人が生み出すことに嫌悪感を抱く。


「呪いの残滓はまだ残っているのですか?」
「ああ。でもあと僅かだ。下手に同じことはできない」
「ですね」
「もしかしたら、スーラン…お前に依頼が来るかもしれん」
「私ですか…まあ魔力量がそこそこありますしね」


もう半分を切っているとは言えないが。


「それもあるが、私やホーイェンとは違う観点で物事を見られるからな」
「そうですかねぇ」
「だから何度も褒賞を得ているんだろうが」
「そのおかげでバウデンさんを捕獲できましたしね」
「お前な…」


そこでその話は終わり、午後はのんびりとバウデンと過ごし薬草を見に行ったり、おやつスティックパイを作ってもらってぽりぽり感を楽しんだ。



そしてバウデンの予想通り数日後の昼前にガブリアルノから招集がかかった。





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