余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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ガブリアルノ 4






ガブリアルノが三十七歳、スーランが十七歳の時だった。


リュリーノが死んだ。

暗殺されたのだ。

予てからとある小国よりバロアス国との友好同盟に倣い再三、ガブリアルノの第二夫人の打診があった。小国では質の良い魔石が取れることから、議題にも上がったがガブリアルノは第二夫人の介入には断固として反対していた。

番絆や番縁に関して、獣人は唯一と定めた相手以外に想いを分散させることなど無く、それがバロアス国としては当たり前の認識ではあったが、小国にはそのような慣習もなく、いくら進言してもしつこく打診し続けてきた。


それがようやく静かになったかと思った矢先のことだった。

リュリーノが大好きな菓子の中に毒が仕込まれたのだ。

彼女は首を押さえながら苦しみ抜いた挙げ句に亡くなってしまった。

当然のことだが、ガブリアルノが作ったリュリーノの為だけの箱庭は常に細心の注意を払っており、リュリーノに仕える者は厳選されていた。

その中で暗殺されたのだ。

ガブリアルノは絶叫しリュリーノの亡骸に追い縋った。

それでも微かに残っていた国王としての矜持で混入された毒の種類と、実行できた人物の判明をリュリーノの亡骸に縋りつきながらも何とか命令し、ガブリアルノは冷たくなってきたリュリーノと共に夫婦の寝室に閉じこもった。

その後解ったのは。


「毒物は以前小国との話題が事欠かない時に保険代わりに調べるように言われた物の一つ。その国で出回る高額で取引される毒物。無味であり気づくのは困難」


話を聞いたスーランが率先して引き受け、一日も経たないうちに報告をしにきたのをガブリアルノは頷きだけ返した。


そして毒を盛った犯人はリュリーノにずっと付き従っていた侍女の一人だった。

その女はリュリーノの昔からの友人であり自ら侍女として志願した一角獣の傘下の更に傘下の娘であった。

昔からガブリアルノに憧れ、リュリーノを通じて見られる彼の甘やかな愛しいと溢れる表情を前面に出す態度に次第に自分に向けられていると勘違いし始め、リュリーノさえ居なければと思い始めたのだとか。

雌のどす黒い妬みの匂いを敏感に嗅ぎ取った小国の工作員の一人が巧みに誘導し、バレることはないと唆され無味の毒薬でリュリーノを屠ったのだ。

だがスーラン始め治療薬師が小国の毒薬を調べていたことで明らかになり、リュリーノが毒殺される前に沈静化していた小国の動き、そして特殊部隊による小国の王族が画策していた証拠を掴んだガブリアルノは一切感情を無くした声で「全て滅ぼせ」と一言命令したのだった。



番を害した時、その相手は何をされても仕方ない。

それは小国には与り知らないことかもしれないが、ガブリアルノには関係ない。

番絆、番縁との間柄を最優先に重んじるバロアス国民は嘆き、バロアス国最強の三部隊は全力でものの数日で小国を壊滅に追い込んだ。

奇しくも良質の魔石の炭鉱も手に入ったというどうでも良い報告もあった。


そしてガブリアルノは一角獣傘下の侍女の家系全てを根絶やしにした。同族の傘下すら一掃させる非情な選択をしたガブリアルノに国内だけでなく周辺国も震撼した。


一角獣の狂乱はそんなものではない。

たった一人しかいない唯一無二の相手を失った一角獣は制御不能になると言われていて過去の王の中にはそれで国が衰退目前になったこともあると言われているくらいだ。


それに比べたら優しいだろうとガブリアルノはそれらの無慈悲な命令を下しながら、気がつけばリュリーノが眠っている墓の前に立ち竦んでいた。


それでもガブリアルノは辛うじて国王であることを忘れず、強靭な精神を擦り減らし己の感情を殺しながら、何も移さない虚無の瞳になっても黙々と政務をこなしていた。

リュリーノが居なくなってから半年。
まともに食事も摂れず点滴栄養で命を繋ぐ日々。
それでも獣人なので無駄に体力だけはあった。

眠れたことなど殆ど無い。限界が来ていつの間にか眠っていてもちょっとした音で目が覚め、目から涙が溢れている。リュリーノの夢を見ただろうに覚えてないなんてとまた涙が溢れる。

このままずっと夢の中に居られたらと思いながら、げっそりと痩せてしまったガブリアルノに対し誰よりも動いてくれていたのは腹心のギュスター始め三部隊の盟友達だった。

申し訳ないとは思っているが、心はもう殆ど動かない。

これは番絆を得て失ったものにしかわからないことなのだ。

ある時バウデンが訪れ番避けの薬が僅かだが落ち着く作用があると言われ、適当に頷き飲み続けていたが実感は無い。

実際には凶行に移るまでの激情が抑えられていたことが後に判明するのだが、今のガブリアルノには失意が勝りその判断すら分からず心はもう限界に近づいていた。





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