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ガブリアルノ 6
そのスーランが魔力漸減症に蝕まれていると知った時の衝撃は計り知れなかった。
それでもスーランはスーランのままで、バウデンとの期間限定の婚姻もなんやかんや上手くいっていて、バウデンの表情も冷淡さが和らいだり感情的になったり。
盟友の変わりように嬉しくもあったが、反面半年しか続かないことに苦しくもあった。
それでもスーランが精製や治療魔術以外で初めて望んだ褒章の内容を違えるわけにはいかず、でも自分は何もしてあげることも出来ずに悶々とした気持ちは払拭されることは無かった。
そして。
「――――ガブさん、あなたの盟友でもある。そんな人が今ここで死ぬべきではない」
普段の眠そうな目では一切無い凛としたスーランの表情。それは今まで見た彼女の中でどれよりも一番美しく見えた。
バウデンが誰よりも大切な人なのだと。
感情が希薄なスーランの紡ぐ言葉は全てバウデンを慕って想う言葉で。
ガブリアルノの失言に対しても何も言わず、国王としての役割を思い起こさせた。
その場に居る誰よりもスーランが未来を見据えて行動していた。
「…スーラン、バウデンを頼んだ」
「御意」
そんな臣下の言葉なんて聞きたくなかった。
いつもの『はいはい』とおざなりの言葉が良かった。
ガブリアルノは拳から血を滲ませながら、途中ですれ違ったホーイェンに、バウデンはスーランが対応しているから今やるべきことをやれとだけ伝えて謁見室に向かう。
ギュスターが周囲の状況を既に把握しており、ガブリアルノは事態の収拾に動き始めた。
ギュスターから大体の現状を聞き出していると、騎士隊統括総帥のベイガーと特殊部隊統括総帥のカルロが共に報告に来た。
ガブリアルノが護衛されその場から離れていた時、バウデンが主導となって皆に指示を出していたらしい。簡潔に現状を二人から聞いた後、能面のガブリアルノは国王としての判断を下す。
「ギュスター。残党が王宮内に潜めた原因を究明。ロンダース国国王に今回の事態の大まかな内容を伝え、残党の処理は全てこちら側が制裁することに同意させろ。幾ら水面下とは言え己の自国で止められずこちらに甚大な被害を被らせた損害賠償もだ」
「御意」
「カルロ。特殊部隊を編成し直して継続任務中以外の者達を全て残党の拘束、根城の発見に費し見つけ次第壊滅させろ。数名の精鋭魔術師を連れ根城に呪いがあればそれを回収」
「承りました」
「ベイガー。恐らく王宮入口周辺はバウデンの機転によってほぼ抑えたとは思うが念には念を入れろ。呪いの残滓の懸念を考え常に魔術師を共に従え王宮と街の巡回、隅々まで調べさせろ」
「承知した」
そしてリュリーノを亡くした時の制裁から恐れられ『麗しき冷酷非道な一角獣』と謳われたガブリアルノが三人を見据えた。
「元愚王の血族全て、それに属する者、女子供関係なく僅かな懸念も残さず全て根絶やしにしろ」
「「「御意」」」
それぞれが動き始める。
バロアス国の獣人は心に寄り添うことを最優先とし慈愛に満ちた行動をすることが多いがそれだけではない。それらが脅かされた時、失った時の非情さはまた凄惨なものとなる。
隣国では周知されていないかもしれないが、これを機に是非とも学んでもらおう。
ガブリアルノは国王としての義務を熟し、ある程度終えてからすぐスーランの居る医務室に向かう。
開け放たれた扉の向こうからキリウの悲痛なスーランを呼ぶ叫びを聞き、飛び込んだ。
そこには愕然としてスーランを見ているリグリアーノに、バウデンの傍で目を見開いて震えているテゼル。
そして吐血したのか口から血を滲ませキリウの腕に抱えられ真っ白な生気のない顔色といつも赤みのあった唇も血の気が無くなっていて。
全く動かなくなったスーランが人形のように横たわっていた。
そして寝台には規則的な呼吸をしているバウデン。
ガブリアルノは震える喉でゆっくりと深呼吸をしてキリウに近づいた。
「っ…っ…スーランさん…スーラン、さん…」
「キリウ。私が運ぶ」
膝を付きキリウを見る。顔をのそりと上げたキリウの山吹色の瞳は虚ろで目元は真っ赤だ。
「…国、王様」
「治療魔術師としてバウデンの様子を再確認。そして魔力薬の点滴投与。それがある程度落ち着いたら来い。貴賓室に連れていく」
「…了解しました」
キリウの強張っていた体からガブリアルノはスーランを抱き上げた。
「リグリアーノ。点滴用の魔力薬を全て集めて医務室に持って来い。その後はホーイェンとコーネインが来るまで魔術隊全体統括の臨時指揮権利を与える。テゼルはその補助」
「…わかりました」
「っ…御意」
リグリアーノとテゼルが去り、バウデンの傍に居たキリウに向かって言葉をかける。
「キリウ。バウデンを頼んだぞ」
「っ…はいっ」
ガブリアルノはスーランを抱えたまま医務室から出た。
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