大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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セフレ契約打診 1

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フェリウスとの間に番の可能性が潰えたことは確定しているので、それを踏まえてイリエは自身に向き合い約一月近く何度も考えて考えぬいた。

同時進行で、その期間イリエは横着していた自身の身なりを磨く時間を増やした。
といっても今まで何にもしなかったわけではないが必要最低限の身嗜みで、これといって何かに特化したものはなかったのだ。

服装は清潔感はあるものの、量産型の同じ型のワンピースばかりだったので、奮発して買い物に出かけた。

洗身洗髪の石鹸や保湿剤関連も少しだけ良いものに変え、香りもほんのり程度のものに一新した。イリエは元々強い香りを放つものが苦手で身につけるもので香りがするものは衣服の柔軟剤くらいだった。

人族の中でも小柄で細っこいイリエは胸は大きくないが小ぶりながらも形はいい方だと思っている。体型は辛うじて女性らしい形をしているとは言えるが、巷で見る色気を醸し出している獣人女性のような魅惑的な体型には程遠い。

そもそもフェリウスの好みも何も知らないのだ。お子ちゃま体型と言われても仕方ないが、そればかりは生まれつきなのでどうしようもない。

せめてそれ以外を少しでも磨こうとイリエは少しずつ変化を加えていった。いっぺんにやっても長続きしなければ意味がない。

そうして一月経ったがフェリウスへの想いが薄まることはなく、自分磨きをする度にそれが彼への想いで続けられているのだと実感し日に日に募っていくばかりだった。

結果じっくり考える期間が、イリエにとっては覚悟を決める準備段階のようになってしまった形となる。

その一月の間にもフェリウスは数回イアンと共に食堂に訪れていた。


「あれ?イリエちゃん最近可愛くなった?」
「俺も思った!元々可愛かったけどさ」
「あはは、ありがとうございます。ランチの肉団子の大きさだけ気持ち贔屓させてもらいますね!」
「いやいや、世辞じゃないんだけどなぁ。本当に最近何というかさー…」
「おい。ここの店主に睨まれたくなければ黙れ」
「えーただ褒めたかっただけなのに…」


何やらダンジに聞こえないようにこそこそしているが、元騎士隊の店主には年功序列的な意味で頭が上がらないのだろうか。

馴染みの騎士達からお世辞だろうが、褒められた言葉に自分磨きをしているイリエからすると嬉しかった。もしかしたらフェリウスが頷く可能性が僅かにも上がるかもしれないからだ。

ドキドキする胸を鎮めながら、フェリウス達が座る席にランチプレートを届けに行く。


「お待たせしました。フライドポークのCランチです」


二人にことりとプレートを置くと、イアンが先ほどの騎士達との話が耳に入ったのかお礼を言いながら声をかけてくる。


「ありがと。あの騎士達も言っていたけど確かに良い意味で変わったよね」
「本当ですか?ありがとうございます。忙しさを理由に結構サボっていたので少しだけ自己投資始めてみました。お冷の替え持ってきますね」


イアンからの言葉にお礼を言いながらチラリとフェリウスを見るが、相変わらずこちらを見る素振りすらなくカトラリーを持ち始めた彼に、先ほどの嬉しさがしゅわっと消え去った。


(見る価値すらまだないかぁ。…でもへこたれない)


ここまで誰かに対して心が高揚し、想いを募らせることがなかった初めてのこの気持ちの行く末をイリエは諦めたくない。

どうせなら一か八か突撃して玉砕した方がきっぱりさっぱり諦められるかもしれないし、イリエの性格上そちらの方が良い。


行動する機会を伺っていたイリエに、ついに行動するきっかけが訪れた。

イアンが会計を済まし、先に外に出たタイミングでイリエはエプロンに常に入れておいた小さく折り畳んだメモをお釣りと共にフェリウスに渡した。


「読んで…ください」
「…」


思わず下を向いてしまったイリエは己を鼓舞して顔を上げフェリウスを見る。嫌悪とまではいかないが、無表情の中にも煩わしいという眼差しが隠れていない。

慕っている相手から嫌な感情を向けられるとこんなに苦しくなるんだと、ぎぎっと軋む胸を叱咤させながら、イリエは乾いた口を一度閉じてもう一度声をかける。


「…読む、だけでもいいので。毎度ありがとうございました」


彼の厭う視線をもう一度見るのが怖くて綺麗な鼻筋までしか見られなかったイリエは、ぺこりと頭を下げ片付けにその場から離れた。




「イリエ、あがっていいぞ」
「はーい。お疲れ様です」


イリエは昼前から夕方までの勤務だ。ざっと店内を掃除して、頼まれた仕込みを終わらせてからエプロンを脱ぐ。

持ち帰りにした賄いの美味しそうな匂いに、先ほどの冷たい視線の記憶が僅かに和らぐ。


「お先に失礼しまーす」
「薄暗くなってきてるから気を付けて帰れ」
「はーい」


ダンジの気遣う言葉に手を振りながら笑顔で返したイリエはカランとドアベルを鳴らし店から出た。

タルカル食堂は王都の王城近くだが、イリエの住むアパートはそこから半刻近く歩く。帰り道に通る商店街で切らしそうになっていたミルクを買ってから、街灯のある道を歩きながら家に向かった。


イリエの借りているアパート周辺は閑静な住宅街で同じような形の建物が連なり、この時間は帰宅する人がちらほらいる程度でそこまで人通りは多くない。

ほんのりとまだ温かい賄いを抱え商店街より少なくなった街灯の少し薄暗くなった道を曲がった時のことだった。





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