大好きな人に番が現れたので潔くセフレ離れします

きるる

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セフレ契約打診 2

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イリエのアパート手前にある街灯が照らされていない場所からすっと出てきた長身の男性のシルエット。その長身の影がイリエを見つけると近づいてきた。


「!」


街灯の場所に近づいた相手を見て、イリエは目を見張る。その人物はなんとフェリウスだった。


「あ…こんばんは」


驚きで固まっていたが、なんとか挨拶をするイリエに対しフェリウスは何を返すでもなく無表情でイリエの前に立つ。


恋愛経験が無いイリエは挨拶を返さずただ見つめてくるフェリウスにどうすれば良いかわからない。今更ながら異性との会話に困ったことがなかったことに気づき、意識するとこんな風になるのだと実感していた。


「あの紙」
「え」
「何がしたい」


フェリウスが聞いているのは渡したメモのことだろう。イリエなりに悩みに悩んで言葉を選んで書いたつもりだ。


「…そのままの意味です」
「番に会うまでの中継ぎ?」


番という言葉にイリエの胸がぎゅうっと引き絞れる。


「…はい」
「性欲発散の道具ってことか」


フェリウスのあけすけな言い方にカッと頬が熱くなるが、その通りだった。


『好きです。番の相手が現れるまで、セフレでも何でも良いので傍にいたいです。ご一考ください』


普通に恋愛する関係でなく、性交の為だけの接点。
これが一月考えてイリエが出した結論だ。

セフレでも都合の良い女でも何でも良いから、少しでもフェリウスと居たいと、諦めきれない気持ちが勝っての、あの文章だった。

勿論読んで不快に思い、フェリウスがそのままフェードアウトすることも出来ただろうにこうして来てくれた。言葉の内容はともかくイリエはこうして彼と初めて対面していることに歓喜が湧く。…思っていた以上に重症だったらしい。

それでもと当たって砕けろ精神で一つ頷き、イリエは真っすぐ向き直し、前髪の少しかかったフェリウスの整った顔を見る。


「私は食堂に訪れた貴方に一目で恋に落ちました。…一目惚れだったのだと思います。恋愛経験はありませんが、とても胸がドキドキして貴方のことを考えると心が甘くも苦しくもなります。…聞き耳をたてていたわけではありませんでしたが、同僚の方との話が聞こえて…近づける方法はこれしかないとメモにしたためました」


イリエは自分の想いをそのまま相手にぶつけて思う通りにしたいわけではない。できるだけフェリウスが不愉快な思いをしないように努める所存だ。普通の恋人のようにでなくても、フェリウスと一緒に居られる時間が、一時でも傍にいる権利が欲しい。

この際全部話してさっぱりしたくなったイリエは、続けて表情を変えないフェリウスに一歩だけ近づく。


「恋人の関係を望んでいるわけではありません。どこかにデートに行ったりとか、物の贈り合いも要りません。あなたを束縛したり行動に文句を言ったりもしません。都合の良い時に、身体目的でも…会ってもらえれば十分です」


頭の中できっともうここでしか言う機会はないのだとイリエは仕事で疲れた頭をフル回転させる。


「獣人の方々は番のことを唯一と定めとても大事にすると聞きます。それまでで良いので…その間にもし飽きたり鬱陶しく感じたら言ってください。理由も聞かずにその時は引きます」


イリエはもしかしたら二度と真正面から見られないかもしれない煌めく銀色の瞳を見つめる。


「なんて軽薄で馬鹿な女かと思われるかもしれませんが、私はこの気持ちをおざなりにしたくないのです。考えてもらえませんか」


無表情だったフェリウスの銀色の瞳がすっと細められた。まるで真意を覗き込むかのように。イリエはこの思いだけは嘘でないことを伝われという気持ちを込めて逸らさずにフェリウスを見返した。

少しの沈黙の後、フェリウスが感情の無い声音で話す。


「都合の良い女ってことか」
「そうとってもらって構いません」


その言葉にフェリウスは思案するように僅かに下を向き、再度イリエを見据えた。


「俺は干渉されることが嫌いだ」
「承知しています。なので私が必要な時だけ連絡をください。こちらからはしません。…例えば…食堂の各テーブルにある口直し用のあめ玉の包み紙を会計時に渡された時だけ、とか」
「一月空いたとしてもか」
「はい。都合の良い時にだけ」
「飽きたら?」
「その時は終わりだとだけ言ってもらえれば。…好きな人や番の相手が見つかった時も」


その時のことを想像するとぎりぎりと心臓が軋む。フェリウスを知れば知った分、果てしなく苦しく辛いだろうけど、このまま食堂だけから見てるだけよりはましだ。何故そこまでしてと思わなくもないが、性欲処理として扱われてもフェリウスが欲しいという気持ちが強い。…せめて終わる時は一言くらい欲しいが。

そこからまたフェリウスは黙り、暫しの沈黙が流れる。

街灯はあるが周りはだいぶ暗くなってきている。イリエは一考しているフェリウスの足元の影を見ながら、どうか上手くいきますようにと念じた。





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