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セフレ関係開始 1
しおりを挟む「わかった」
その言葉にイリエは顔をばっと上げ表情の変わらないフェリウスを見る。
「…受け入れてくれるのですか?」
「ああ」
まさかの諾の返答にイリエは全身の毛穴がばっと開くかのような歓喜に包まれた。
「ありがとうございます!」
イリエのまるで恋人になれたと言わんばかりの満面の笑みにフェリウスは不可思議な表情になる。
「都合の良い性欲処理だぞ」
「はい、勿論理解しています」
周りから聞いたらクズのセリフなのだろうが、イリエにとっては、傍に居られる一時の権利を獲得したのだから嬉しいことこの上ない。
あまりに喜びを前面に出しているイリエに対し、少し唖然としていたフェリウスだが、ふと思いついたように顎でイリエの向こうの景色をさした。
「案内しろ」
「え、」
「お前の家。溜まっているからちょうど良い」
その言葉の意味にイリエはサッと頬を染める。それを見たフェリウスが僅かに片眉を上げた。
「口だけか」
「い、いえ」
「お前の想いとやらに応えるのは不可能だが身体だけなら面倒がなくて都合が良いからな」
フェリウスの言葉が鋭く胸を刺すが、それを望んだのはイリエなのだから傷つくのはお門違いだ。
「わかりました。私の家で良ければ。今後はどうしますか?」
「侯爵家はそう遠くないが俺は寮に住んでいて女人禁制だ」
「じゃあ、今後も私の部屋ということでいいですか?」
「ああ」
案内しますと声をかけイリエが先に歩き始める。過去にないくらい忙しなく打つ鼓動は嬉しさと驚きと少しの悲しみ。でも自分の気持ちの行く末を何も起こさせず封印するよりは何らしかの結果を出して成就に迎えられることの方が今のイリエには大事だった。
レンガ調のアパートが連なる一室を借りているイリエは階段で二階に上がり鍵を開けた。
玄関の灯りをつけフェリウスに振り返った。
「少し散らかってますがどうぞ」
無言のフェリウスが小柄なイリエを横切って中に入る。家はダイニングと私室だけのそこまで大きくはないが使い勝手の良い部屋だ。
フェリウスがさっさと私室に向かおうとする背姿に戸締まりしながらイリエは鍵をいつも収納している小さな小箱に触れながら声を掛ける。
「帰られる時はお見送りするつもりですが、もし出来ない時はここにいつも鍵を置いているので、鍵をかけてドアポストに入れておいてもらえると助かります」
「わかった」
イリエは室内の灯りをつけ、賄いとミルクを冷蔵庫にしまい、冷えた水と果実水を出す。
「飲み物これしかなくて。次回からいくつか取り揃えておきます。時間の方は?」
「発散させたら帰る」
「…仕事で汗かいてるのでシャワーを浴びても?」
「早く済ませろ」
イリエはフェリウスが座った二人掛けソファの側にあるミニテーブルに飲み物を置き浴場に向かおうとするが、あることを思い出し寝台近くの引き出しを開けた。
錠剤が入った手の平サイズの瓶を取り出してフェリウスに渡した。
「未開封の避妊薬です。シャワー浴びてる間に確認してください」
「…準備が良いことで」
「今後必要だと思って薬局で買っておいて良かったです」
イリエはそれだけ伝え脱衣所に移動した。
パタンと脱衣所の扉を閉めてからイリエは力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。
(急展開過ぎて…でもここで逃げ腰になってしまったらきっと次はない。……でも)
イリエは性交未経験だった。それをこれからぶっつけ本番でこなさなければならない。
(性交指南書をもっと熟読しておけば良かった…でも今更よね)
ゆっくり深呼吸しながら、イリエは立ち上がりささっとワンピースと下着を脱いだ。
シャワーを浴びたイリエは、何も着ずに大判のタオルを巻いていけば良いのか、服を着れば良いのか、素っ裸でいけばいいのかわからない。
流石に初っ端から素っ裸はどうなのかと思ったイリエは大判のタオルで身体を巻き、髪の水分をぎゅぎゅっとタオルで吸い取りある程度水気を飛ばしてから脱衣所から出た。
イリエが出たことに気づいたフェリウスが視線を向け固まった。
「あの…すぐに始めるなら、服は必要ないかと思ったのですが、…間違ってますか?性交のお作法の勝手がわからなくて」
「…お前経験ないのか?」
未経験だと都合の良い女、セフレにすらならないだろうか。覚悟を決めたはずのイリエの気持ちが恥ずかしさと不安で視線が下を向く。
「…ないです。これでは使い物になりませんか?」
「…いや。こっちに来い」
どうやら大丈夫だったらしい。ぱっと明るい表情になったイリエはとてとてとフェリウスの元に辿り着く。
「シャワーを浴びられますか?」
「いや。済んだらで良い」
「…わかりました」
それはそうだろう。フェリウスにとってイリエは大事な人ではないのだから、致す前に身綺麗になる必要は無く性交後に汚れた身体をシャワーで流したいのは当たり前なのだ。
傍にいる権利はあっても、大事な人になる権利が無いイリエは都度苦しくなる身勝手な胸の音にいい加減に弁えろと叱咤して巻いていたタオルに手をかけた。
「じゃあ、時間がないので始めましょう」
「っ…」
傷つく時間も恥ずかしがっている時間もないとタオルを外そうとする手をフェリウスが掴んで止めた。
ずくん。
ただ腕を掴まれただけだ。
それなのに身体中から甘やかな痺れが迸り、イリエは目を見開く。それを見たフェリウスは尻込みしたと思ったのか嘲るような視線を寄越した。
「何だ。怖気づいたか」
「…逆です」
「逆?」
「触れられた嬉しさで震えるような感覚…ぞわぞわと、…初めてのことなので上手く言葉にし難いのですが」
「…」
この営みは方向性は異なるが双方の欲からくるものだ。だからこそ嫌われないように気をつけても無理して好かれようとする必要はないのだとイリエは思ったことをそのまま口にした。
はしたないと思われても今更である。隠す必要はない。
掴まれた腕をぐいっとフェリウスに引き寄せられ、イリエは前につんのめった。
ふわっと体が浮き、イリエは座っているフェリウスの膝の上に跨るような体勢にさせられていた。
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