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あめ玉の包み紙 2
しおりを挟む「イリエー」
「腹減った」
入店してきたのは、幼馴染のララとジェフだった。
「あら、いらっしゃい!今日は珍しく時間が被ったの?」
「そう。本当に久々―」
「早く腹に何か入れたい」
二人は同じ騎士隊に所属しているが、ララはそこの文官なのでジェフと休憩時間が一緒になることは滅多に無いらしい。ララがイリエに近づき軽く抱擁する。これは昔からいつもやっている定例の挨拶みたいなものだった。
いつもならすぐに離れるララだが、今日は何故か首を傾げながらも離れようとしない。
「ララ?どうしたの?」
「…んー別に」
少しおっとりしているような垂れ目がちな茶色い瞳と、ふんわりした鼠色の左右に結った髪がイリエの肩をくすぐる。ララは見た目こそおっとり風の可愛らしい風貌だが、その実性格は真反対であり、その辺の男性より漢らしい性格なのである。
対して焦げ茶色の短髪に赤茶色の瞳のジェフは長身で騎士らしい体躯であり、普段はかったるそうな雰囲気を醸し出しているが、仕事は表情一つ変えずに真面目に働いている。だが番のララに対してだけはこれでもかと感情を顕にするのだ。
「おーい腹減っているんだから見せつけるな」
「イリエとのいつもの抱擁に文句をいうな」
「ふふ。腹ペコなジェフは今日もランチ二種類制覇するの?」
「全種類いけるかも」
「やめとけー私甘いもの食べたいからランチ半分あげる。アップルパイにしよーっと」
「おう。交渉成立だな」
「どこに交渉の部分が?」
「あはは。ランチ全種類とアップルパイね」
イリエは厨房に注文を伝え、ララ達にお冷を届けながら食べ終わった席のテーブルを片付けていく。
「はい、お待たせのお待たせ。お冷はボトルごと置いておくね」
「おう、サンキュ」
「ねーイリエ」
「うん?」
「近々私と飲みに行こうよ」
「え?うん、別に良いけどどうしたの突然」
既にランチプレートしか見ていないジェフは早速気持ちいいくらいに次々に口の中に食べ物が消えていっている。ララはカトラリーを持ちながらもイリエに向いて話してくる。
「いやー最近夜飲みに出ていないし、イリエとならジェフも何も言わないしね」
「雄が沢山いる酒場は許さん」
「はいはい」
「相変わらずねぇ」
二人の気安い掛け合いの対話にイリエは微笑ましく思いつつ、ふと脳裏に自分は大好きな相手とこうなることは無いのだと、自分が無い選択肢を選んだのだと言い聞かせながらも少しだけ残念な気持ちになる。
「私お酒弱いから途中からソフトドリンクになるよ?」
「いつものことでしょ。じゃあ来週あたりにいこ」
「了解。じゃあごゆっくりね」
イリエが踵を返すと、ちょうどフェリウス達が席を立ったところだった。
「ごちそうさまー」
「はい、ただいま伺います」
イアンが軽く手を挙げ、イリエは会計場所まで小走りする。
イアンにお釣りを渡し、フェリウスからもお金を受け取る。
そこにあめ玉の包み紙は含まれていなかった。胸がしゅんと寂しくはなったが、フェリウスは前に一月の可能性もあると言っていた。人族と同じで獣人族にも性交の間隔は人によって違うのかもしれない。食堂に来てくれるだけで十分だと思えと言い聞かせ、誰に対しても同じ『いつも通り』の対応でみだりに手に触れないようにちゃりんとお釣りを渡した。
「毎度ありがとうございます」
相変わらず無表情なフェリウスの顔を見てぺこりと頭を下げて、イリエは厨房から聞こえた声に返事をして離れた。
**************************
その後も特に変化なく過ごしていたが、初めてフェリウスと性交してから二週間が経とうとしていたその日。
食堂に現れたフェリウス達にいつも通りの対応をしてお会計していた時、先に外に出たイアンの後に会計をしたフェリウスからあめ玉の包み紙をお金と共に渡された。
「!」
イリエは思わず頬を染め見上げてしまうが、変わらないフェリウスの表情にはっと我に返り、お釣りを渡した。
去っていたフェリウスを見つめながら、イリエはまだ飽きられていなかったのだと、まだ次があるのだと心から溢れ出る喜びに浸りたくなったが、まだ仕事中だったと気を引き締めた。
賄いを抱えながら早歩きで颯爽と帰宅したイリエは急いでシャワーを浴び、ルームウェア用に買っていた脱ぎやすい上下を着て身支度を整える。部屋はあまり見えるところに物を置くことを好まないので大して散らかっておらず、簡単に片付けた。
ミルクティーを入れながら、賄いとマカロニスープを作って食べていると扉のチャイムが鳴る。
(え。もう来たの?)
大体前と同じくらいだとイリエは思っていたより早い彼の到着に、もぐもぐ口を動かしながらも返事をして出ると、そこには待ち焦がれたフェリウスが立っていた。いつもの軍服でなく、グレーのラフなシャツと黒のトラウザーズ姿のシンプルな装いなのにとても素敵だ。
「っ…ご、めんなさい。まだ夕食途中で。どうぞ」
イリエが横にずれると、フェリウスが無言で中に入ってくる。鍵を閉めて後ろ姿のフェリウスを見つめた。
(…もしかしたらあの一度だけで自分の中で満足できるのかと思ってもみたけど、…全然足りない。私は強欲ね)
背姿だけ見ても心の速鳴る鼓動は治まらない。フェリウスは前回同様にソファの方に腰掛けたのを見て、イリエは自分の食事はそのままに冷蔵庫から飲み物とポットとミルクを取り出して、ミニテーブルの上に細めの小さいボトルに入ったお酒数種類と果実水と水、温かいものはコーヒーと紅茶を用意しミルクポットも順に置いていく。
「レオダッドさんの好きな飲み物が分からなかったのでいくつか用意しました。数分で食べ終えるので良かったら喉潤していてください」
それだけ伝えイリエはテーブルに戻る。
スープは後で食べようと鍋に戻し、半分ほど減った賄いを急いでお腹に詰め込んだ。ミルクティーを飲み終えたイリエは食器を流しに置きながらフェリウスの方を見ると、甘みのないお酒を飲んでいるのを見て思わず笑みを溢した。
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